TBS系のドラマ『俺の家の話』を、もうご覧になっただろうか? 金曜夜10時からの放送で、脚本はクドカンこと宮藤官九郎。何よりも、プロレスが題材となっている連続ドラマだ。
さらに、長州力がレギュラー出演で、2月5日の放送では武藤敬司や蝶野正洋もゲスト出演した。
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▼すっかり人格が変わった長州力。冴え渡る?Twitterで人気再燃!
能の道を捨て、ブルーザー・ブロディに憧れてプロレスラーに
まだご覧になっていない方のため、多少のネタバレはあるが、あらすじを紹介しよう。
能楽の名門家の長男として生まれた観山寿一(長瀬智也)、その父は人間国宝の寿三郎(西田敏行)だった。寿一は子供の頃から寿三郎に厳しい稽古をつけられ、神童とさえ呼ばれたが、父から全く褒めてもらえず能に嫌気がさし、17歳で家出して憧れていたプロレスラーを目指す。
ブリザード寿(ことぶき)というリング・ネームで大手団体からプロレス・デビューした寿一。しかし、本当のリング・ネームは、寿一がファンだったブルーザー・ブロディにちなんでBruiser(ブルーザー)寿一だったが、リングアナに読み間違えられてブリザード寿になってしまった。
ちなみに、ドラマの中でブロディの映像が使われていたが、これは新日本プロレス時代のもの。TBSは日本テレビではなくテレビ朝日に協力を要請したようだ。
▼主人公の観山寿一(長瀬智也)がブルーザー・ブロディのファンだったというのも渋い設定
その後、寿一はプエルトリコ・チャンピオンになるも(プエルトリコというのもブロディを意識した設定だろう)、大怪我をしてしまい大手団体を退団。寿一は新興団体『さんたまプロレス』に入団して活躍する。団体の幹部を務めていたのが長州力(長州力)だった。
だが、寿一も既に42歳となり、レスラーとしては下り坂。そんな時、父の寿三郎が危篤という知らせを受ける。そこで寿一はプロレスを引退し、父の跡を継ぎ能の世界に生きる決意をした。
ところが、寿三郎は奇跡的に復活。さらに、こともあろうに若い介護ヘルパーの志田さくら(戸田恵梨香)との婚約まで発表した。呆れる家族や支援者たち。しかも、寿三郎が舞台に立てないため収入は絶たれ、寿一もファイト・マネーが入らない。土地や家などの財産はあるものの、さくらは老人の遺産を狙った婚約詐欺師として複数の遺族から訴えられていた女だった……。
さくらは詐欺師であることを否定しているが、少なくとも寿三郎に対して恋愛感情はない。しかも、金がなかった寿一は、離婚した妻への養育費として、さくらから10万円を借りてしまう。もし、さくらが詐欺師だった場合、詐欺師からの借金は裁判になった時に致命傷となる。
そんな時、寿一は『さんたまプロレス』から、覆面レスラーが怪我したため代わりに出場してくれと頼まれた。この日は父の介護をしなければならない寿一だったが、10万円のファイト・マネーに釣られて1日だけ覆面レスラーとして復活。だが、試合の間に寿三郎が倒れてしまった。
幸い寿三郎は回復したものも、寿一は介護の厳しさを知る。しかし、久しぶりのリングに立った寿一は、プロレスへの思いが再燃した。ちょうどその頃、タイミング良く(あるいは悪く)『さんたまプロレス』の長州力、武藤敬司(武藤敬司)、蝶野正洋(蝶野正洋)らから現役復帰して欲しいと要請(ほとんど恫喝)される。スター不在で経営が悪化していたのだ。
寿一は金が必要だったこともあり、悩んだ挙句、家族にバレないようにマスクマン『スーパー世阿弥マシン』としてプロレス復帰する道を選んだ。
プロレス・ファンのハートをくすぐる、マニアックなプロレス話
以上、プロレス・シーンを中心にあらすじを紹介したが、実際には能や介護のシーンが多い。つまり、介護・能・プロレスがドラマの三本柱となっている。テーマとしては介護に最も比重が置かれ、プロレスは最も少ないが、それでもプロレス・ファンが充分に楽しめるドラマだ。
プロレスについて、かなりマニアックなシーンもある。寿一にとっての寿三郎は、子供の頃からあくまでも師匠であって、父と呼べる存在ではなかった。そんな中、父と子として唯一の接点がプロレス。プロレスだけは、子供の頃から父子でいつも見ていたのだった。
プロレスを引退し、父の介護をするようになった寿一が問い掛ける。「一番ニー・ドロップが強烈だったレスラーは誰だったと思う?」。「そりゃキラー・カーンだろう」と答える寿三郎に対し、寿一は「ブルーザー・ブロディじゃないか」と反論した。
しかし寿三郎は「カーンはニー・ドロップでアンドレ・ザ・ジャイアントの脚を折ったんだぞ」と言い、カーンの想い出を語り始める。認知症を患い、5分前のことを忘れてしまう寿三郎も、昔のプロレスのことは鮮明に憶えているのだ。
そして、なんと言っても2月5日に放送された第3話。過去3回で最もプロレス・シーンが多く、前述のようにレギュラーの長州力の他に、武藤敬司や蝶野正洋がゲストとして登場した。
寿一にレスラー復帰を説得する長州が、手土産に持ってきた肉の塊を取り出すと「これ、切れてねえじゃねえか、武藤。コノヤロー、形変えるぞ!」と“長州語”が飛び出す。思わず「『形変える』ってなんスか?」と訊く寿一、というより長瀬智也。
さらに第3話で、ネット配信の実況を担当しているのは辻よしなりアナ。解説は武藤と蝶野という、新興団体とは思えない豪華ぶりだ。
そもそもスーパー世阿弥マシンというのは、どう考えてもスーパー・ストロング・マシンのパロディだろう。プロレス・ファンが思わずプッと吹き出してしまうシーンが満載なのである。
スーパー世阿弥マシンの空中殺法を演じたのは、長瀬智也本人
ドラマの中で残念だったのは、プロレスの本質部分には触れていなかったことだ。試合中に敵レスラーとちょっとした打ち合わせのシーンがあったりして、プロレスはエンターテインメントとして描かれているものの、基本的には勝敗はレスラーの強弱によるものとなっている。
たとえばブリザード寿の引退試合。タッグ・マッチだったが、パートナーの若手レスラーが必要以上に張り切って、引退するブリザード寿に試合を決めさせず自ら敵をフォールしてしまった。
試合後、若手レスラーは長州ら団体幹部に「こんなこと、前代未聞だぞ!」とこっぴどく叱られる。引退するレスラーに花を持たせるのがプロレス界の常識だ、空気を読め! というわけだ。
しかし、こんなことは常識もヘッタクレもなく、試合前にブリザード寿がフォールを奪う、と決めておかなければならない。それを若手レスラーが無視して自分でフォールを奪ったのなら、空気を読めないどころの話ではなく、準ブック破りだ。勝つはずの引退レスラーからフォールを奪ったわけではないのだからまだマシだが、何らかのペナルティはあるだろう。
それに、引退レスラーのタッグ・パートナーが相手をフォールしてしまったことは『前代未聞』ではなく実際にあった。坂口征二の引退試合だ。坂口は木村健悟とタッグを組んだが、フォールを奪ったのは坂口ではなく健悟だった。もちろん、健悟が空気を読めなかったわけではなく、健悟がフォールすると決まっていたのだろう。
ドラマの中で、若手レスラーがフォールを奪って叱られた時、寿一が坂口の引退試合を話してくれれば、プロレス・マニアも喜んだのだが。
まあ、プロレスの本質をドラマで紹介するのは、長州らが出演していたのだから無理だっただろう。そんなことをすれば、長州らは出演せず、日本のプロレス界は決して協力しないからだ。つまり、ドラマが成り立たなくなるわけである。
▼自らの引退試合ではパートナーの木村健悟にフォール役を譲った坂口征二
それ以外では、スーパー世阿弥マシンの試合シーン。スーパー世阿弥マシンは見事な空中殺法を魅せていたが、覆面レスラーのため本物のレスラーが吹き替えしていると誰もが思っただろう。
しかし、スーパー世阿弥マシンの空中殺法を演じていたのは、他ならぬ主演の長瀬智也本人。42歳のド素人が、あれだけの空中殺法を披露したら、本職のプロレスラーの立つ瀬がない。
あれでは、プロレスラーが実際の試合で空中殺法を失敗すれば「アラフォーのド素人でも出来るのに、それでもプロか!」とヤジられてしまうだろう。子供の頃から、プロレスラーは常人では不可能なことまで出来るスーパーマンだと思っていたのに、ちょっとガッカリしてしまった。
それはともかく、寿一が覆面レスラーとして復活したし、まだまだプロレスのシーンは増えそうだ。今後、寿一がどういう形でプロレスラー・能・介護の三役をこなしていくか、楽しみなドラマである。
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