[ファイトクラブ]関西で放送されなかったRIZINとブーム去った後の格闘技内向き志向

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[週刊ファイト10月15日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼関西で放送されなかったRIZINとブーム去った後の格闘技内向き志向
 by 安威川敏樹
・RIZINの視聴率は『半沢直樹』最終回の裏で大健闘したが……
・関西ではRIZINを飛ばし、優勝が絶望的の阪神戦を放送
・2つの“ワールドカップ”に見る、フジテレビの時代錯誤
・日本人選手のMLB挑戦とサッカーW杯がスポーツの認識を変えた
・スポーツ界が世界に目を向ける中、格闘技とプロレスは内向きに


 本誌でお伝えした通り、9月27日に埼玉:さいたまスーパーアリーナでRIZIN.24が行われた。この様子は地上波のフジテレビ系でゴールデン・タイムの20時から2時間生放送されたのである。
 平均視聴率はビデオリサーチ調べで6.2%(関東地区、以下同)と、今までと比べて良くも悪くもなくという数字だが、今回は事情が違った。何しろ裏番組は、21時からTBS系で超人気ドラマ『半沢直樹』の最終回が放送されたのである。

『半沢直樹』最終回は平均32.7%という、予想通りのオバケ視聴率。その裏の時間帯で、メインの那須川天心vs.皇治が行われていたRIZINの瞬間最高視聴率が8.9%を記録した。これは想定外の大健闘と言っていい。
 実は『半沢直樹』の最終回は、コロナによる撮影の遅れで1週間延びてしまい、RIZINにとっては生放送と『半沢直樹』最終回が重なってしまうという不運があった。本来なら『半沢直樹』は放送されなかったのに、である。それでも、これだけの視聴率を取ったのだ。

 さらに『半沢直樹』が放送される前の20時台でも、裏番組はNHK総合の大河ドラマ『麒麟がくる』(12.7%)、日本テレビ系『世界の果てまでイッテQ!』(13.5%)、ABC系『ポツンと一軒家』(16.8%)、という強力なラインナップだったのだから、平均6%超えは及第点だろう。RIZINの榊原信行CEOは、予想以上の視聴率に胸を張った。

 だが、喜んでばかりもいられない。視聴率が6%程度で大成功と言っているぐらい、格闘技の番組は視聴率が低いのだ。今までだって、RIZINは1度も視聴率2桁を取ったことがないのである。

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関西ではRIZINを飛ばし、優勝が絶望的の阪神戦を放送

 実は今回のRIZIN生中継は、全国放送ではなく“ほぼ”全国放送。皇治の地元である関西では、フジ系の関西テレビがRIZINを放送せず、プロ野球の東京ヤクルトvs.阪神を生中継したのである。
 これに関し、皇治は「最大の敵は天心でも半沢直樹でもなく、阪神タイガースやった」とジョークを飛ばしたが、関テレでRIZINを放送したのは9月30日(実際には10月1日)の深夜1時55分から3時48分までという、「誰が見るねん!」とツッコまれる時間帯だった。

 何しろセントラル・リーグは巨人が独走で、阪神は2位につけているとは言え、優勝は絶望的。今年のセ・リーグはクライマックス・シリーズもないのだから、阪神戦なんてただの消化試合だ。
 しかし、関西ではRIZIN夢のカードよりも、プロ野球の事実上の消化試合が優先されたのである。しかも、この日のヤクルトvs.阪神の平均視聴率は9.2%と、関東地区のRIZINを3%も上回った。RIZINの瞬間最高視聴率よりも上だ。これでは、関西でRIZINを飛ばされても仕方がない。

 そもそも今回、裏番組が『半沢直樹』最終回など超強力だった中での視聴率6.2%と言っても、それでは裏に人気番組がなければRIZINは視聴率2桁を取っていただろうか。
 筆者は無理だったと思う。要するに、裏番組に関係なく視聴率が5~7%で安定している(?)のがRIZINなのだ。今回も『半沢直樹』を毎回見ていた格闘技ファンは『半沢直樹』最終回を録画して、RIZIN生中継を見ていたのだろう。つまり、格闘技ファンだけがRIZIN生放送を見て、それ以外の視聴者はRIZINを見ないというだけの話である。選挙で言えば、支持者のみの票が入って、浮動票は見込めない状態だ。
 それともう一つ、今回はコロナ対策で、さいたまスーパーアリーナには人数制限により5千人しか集まらなかった。いつもなら3万人ぐらい入るので、残った2万5千人が一斉にRIZIN生中継を観たため視聴率が保たれた、というのは悪いジョークか。

 20世紀の終わりから21世紀初頭にかけて、K-1やPRIDEが大人気を博し、格闘技ブームが巻き起こった。ドームやスタジアムに何万人もの大観衆を集め、視聴率も20%超えは当たり前、大晦日に放送されたK-1などは裏番組のNHK紅白歌合戦を上回ったこともあるぐらいだ。
 この頃の格闘技番組は、ファン以外のいわゆる『にわか』を多く取り込んだことが人気の原因だろう。格闘技を観ることがトレンドとなり、観ないと話題に付いていけなくなったのである。
 しかし、組織内のゴタゴタによりPRIDEは消滅、K-1は生き残っているもののゴールデンでの地上波中継からは程遠い存在となってしまった。現在では、日本の格闘技界はRIZINの孤軍奮闘といった感じだが、かつての格闘技人気は取り戻せていない。

2つの“ワールドカップ”に見る、フジテレビの時代錯誤

 昨年の今頃、日本で何が行われていたか憶えているだろうか。そう、ラグビーのワールドカップだ。日本中がラグビー・フィーバーに包まれ、日本vs.南アフリカは平均視聴率41.6%を叩き出し、2019年の年間視聴率では紅白を上回って堂々の1位に輝いたのである。
 全く同じ時期に、別のワールドカップが行われていたことは、ほとんどの人が憶えていないのではないか。バレーボールのワールドカップである。特に日本男子は8勝3敗で4位と躍進したにもかかわらず、独占放送していたフジテレビが騒いでいた以外はほとんど報道されなかった。

 かつて、ワールドカップと言えばバレーというイメージがあり、ラグビーにワールドカップがあることすら知らない人も多かったのに、完全に立場が逆転したのである。
 去年のラグビーW杯が始まる前、多くのテレビ関係者が「ラグビーで高視聴率を取れるわけがない」と予想していた。裏ではバレーW杯があるし、ラグビーのルールを視聴者は知らないので、ラグビーW杯を観る人は少ないだろう、と。プロのテレビマンの言うことなどデタラメなものだ。

 両者が逆転した理由として、大会の権威が大きいだろう。ラグビーでは、イングランドで行われた前回(2015年)のW杯で日本代表が、優勝候補の南アフリカ代表(スプリングボクス)を破るという『ブライトンの奇跡』が起こり、日本はラグビー・ブームとなった。
 この時、ニュース映像に映し出されたのは、日本とは全く関係のない国の人々が狂喜乱舞する姿である。スプリングボクスを破ることの凄さと同時に、ラグビーW杯は夏季オリンピックとサッカーW杯に次ぐ、世界第三のスポーツ・イベントであることを日本人は知ったのだ。そんなビッグ・イベントが日本で行われる、ということで注目されたのである。

 一方のバレーW杯は、毎回が日本での開催。他にもバレーの世界大会はオリンピック、世界選手権(世界バレー、TBSが放送)、ワールドグランドチャンピオンズカップ(グラチャン、日本テレビが放送)と4つもあり、オリンピックは別にしてグラチャンもW杯と同じく毎回日本開催、世界バレーは毎回が日本開催ではないものの、実際には日本開催が非常に多い。なぜ日本開催が多いのかというと、日本のテレビ局が多額の放映料を払ってくれるから。国際バレーボール連盟(FIVB)の収入源の約9割は日本からという異常さだ。そのため、日本はやりたい放題である。
 しかも、多額の放映料にはカラクリがあって、ジャニーズのタレントを売り出すためにバレー大会が利用されているのだ。日本戦の試合前はジャニーズがライブを行うため、多くのジャニーズ・ファンがスタンドを埋める。スポンサーも、ジャニーズ目当てに付くという仕組みだ。
 2018年の世界バレーでは、ジャニーズ頼みの運営をやめたところ、スポンサーが付かず大赤字となってしまった。去年のW杯では、またジャニーズとコラボした大会になってしまっている。

 弊害は、それだけではない。日本戦ではDJが客に「ニッポン! チャチャチャ」応援を強要し、他国へのリスペクトなどまるでない。テレビ放映時間に合わせるため、試合日程は常に日本有利。
 CMを考慮して、日本戦のみタイムアウトの時間をタップリ取るため、慣れていない他国はリズムが崩れる。会場はニッポン一色でタレントのコンサートと化している状況に、他国の監督は「これはスポーツなんかじゃない、日本のショーだ!」と痛烈な批判を浴びせたほどだ。

 外国同士の試合では、たとえ優勝が懸かった一戦でも会場はガラガラ。当然、地上波中継などない。そもそも強豪国は翌年のオリンピックを本番と考え(今回の東京五輪はコロナのため延期になったが)、W杯など五輪の前哨戦に過ぎないので主力を温存し、控えメンバーで挑んだのだ。
 日本が二軍同然の相手に勝って、ワールドカップ4位でございとフジテレビだけが大騒ぎしていたのである。他のメディアが白けるのは無理もない。そもそも、どの国が優勝したかなんてコアなバレー・ファン以外は誰も知らないだろう。おそらく、普通のバレー・ファンでも知らないのではないか。それぐらい、バレーは内向き志向のスポーツなのである。

 ラグビーW杯では、外国同士の試合でも会場は満員だった。地上波中継もされ、視聴率は軒並み2桁。RIZINから見ると羨ましい数字だ。日本が準々決勝で敗退すると、ラグビー熱は収まると思われていたが実際には逆で、外国同士の試合が平均視聴率15%を超え、決勝戦の南アフリカvs.イングランドは20.5%と遂に大台を突破した。「日本戦以外は視聴率を取れない」というジンクスを覆したのである。これは日本戦の視聴率41.6%よりも意義は大きい。
 また、決勝の舞台となった横浜国際総合競技場には70,103人の大観衆が集まった。これは今回の日本戦や、2002年に同会場で行われたサッカーW杯決勝を上回る観客動員数である。
 ラグビーW杯には、多くの外国人が訪日した。バレーでは、そんな話は聞かない。つまりラグビーW杯は世界的なイベントで、しかも全世界に生中継されたのだ。一方のバレーの世界大会は、ガラパゴス化した日本のお手盛りイベントに過ぎないのである。そして、ラグビーW杯は他国へのリスペクトも忘れなかった。これもバレーとの大きな違いだ。

 さっき、バレーW杯はフジテレビが大騒ぎと書いたが、産経新聞はフジサンケイグループの一員としてバレーW杯を共催しているのに(特定の国の特定メディアが国際大会を共催していること自体が異常だ)、紙面ではラグビーW杯ばかりを大きく取り上げて、バレーW杯はベタ記事扱いだったのである。自社が関わるイベントは大々的に宣伝する産経新聞としては、非常に珍しい。
 産経新聞も五大紙の新聞メディアとして、ラグビーW杯とバレーW杯を同格に扱うわけにはいかなかったのだろう。世界的イベントと、自社のお手盛りイベントでは差がありすぎるからだ。

▼平日の昼間、外国同士の試合にもかかわらず、花園ラグビー場の最寄り駅は凄い人出

 そして先日、バレー界に衝撃的なニュースが飛び込んで来た。グラチャンは廃止、一部報道によるとW杯も廃止になるというのである。日本バレー協会はこの報道を否定しているが、FIVBの決定事項ではないというだけで、少なくともグラチャン廃止は間違いないだろう。W杯は廃止されなくても、日本の恒久開催ではなくなる可能性が高い。
 驚くことに、この件に関し多くのバレー・ファンは歓迎しているのだ。自国で国際大会を見る機会が激減するのに何故? バレー・ファンにとっては、これでようやくバレーが内向きではない、まともなスポーツ・イベントとして扱われるようになるのが嬉しいようだ。少なくとも、バレーとは関係ないタレントやそのファンに、試合を邪魔されずに済む。

 日本バレー協会とフジテレビは蜜月関係を保ってきた。1990年代、バレー人気が低迷した頃に、フジテレビがW杯でジャニーズのタレントを起用することによって、人気は回復したのだ。
 しかし、そのビジネス・モデルも終わりを告げようとしている。内向きで作られたハリボテの人気を見抜かれ、視聴者は本物を求めるようになった。
 フジテレビと言えば、1980年代から常にテレビ界のトップを走っていた放送局。それが今では、キー局の中で最も人気のないお荷物テレビ局に成り下がっている。それでも過去の成功体験に固執し、時代遅れとなっているのだ。
 そんなフジテレビに頼らざるを得ないのがRIZINである。あるいは、落ち目のフジテレビだからこそ、RIZINを放送してくれているのかも知れない。

日本人選手のMLB挑戦とサッカーW杯がスポーツの認識を変えた

 ラグビーW杯の裏でもう一つ、行われていたのがプロ野球の日本シリーズだ。特に第2戦の福岡ソフトバンクvs.巨人の平均視聴率は、なんと僅かに7.3%。平均視聴率41.6%を記録したラグビーの日本vs.南アフリカの裏だったという不運もあるが、その日の夕方に行われたウェールズvs.フランスの13.9%の約半分。全4戦のうち視聴率2桁だったのは最終戦の11.8%だけという体たらく。昔の日本シリーズでは考えられない視聴率だ。
 しかも、日本シリーズに出場していたのは“球界の盟主”と呼ばれた巨人。以前は「巨人あってのプロ野球」と言われ、巨人が優勝すれば経済効果が上がるというのも今は昔の話だ。0勝4敗で巨人のストレート負けという、盛り上がりに欠けた点を差し引いても、この視聴率は酷すぎる。

 ところが、関東以外だと話は違う。ソフトバンクの地元である北部九州では、ラグビーの日本vs.南アフリカの裏だった第2戦でも平均視聴率25.6%と大健闘。ソフトバンクが日本一を決めた第4戦では38.5%と、ラグビーの日本戦に引けを取らない高視聴率をマークした。
 一方の関東地区では、巨人の地元にもかかわらず低視聴率に喘いだのは、巨人がフジテレビと同じく時代錯誤のビジネス・モデルを踏襲した結果と言っていい。

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