[ファイトクラブ]これは『悪魔の書』か? アントニオ猪木vs.モハメド・アリの真実

[週刊ファイト7月2日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼これは『悪魔の書』か? アントニオ猪木vs.モハメド・アリの真実
 by 安威川敏樹
・今から44年前の1976年6月26日に行われたアントニオ猪木vs.モハメド・アリ
・当時は酷評された猪木vs.アリ
・半世紀近くを経て、正反対となった猪木vs.アリの“評価”
・覚悟して読むべき『プロレス芸術とは 徹底検証! 猪木vsアリ戦の”裏”』
・当時、一般紙の興味は勝敗ではなく『カネ』と『真剣勝負か八百長か』
・かつては日本プロレスを後援していた毎日新聞が最も厳しい内容
・『プロレス芸術とは 徹底検証! 猪木vsアリ戦の”裏”』に書かれている、謎の真相
・がんじがらめのルール? 石膏注入グラブ? 真剣勝負? 全ての謎が解けた!


 1976年6月26日、東京・日本武道館で世紀のビッグ・マッチが行われた。WBA・WBC統一世界ヘビー級王者のモハメド・アリ(プロボクシング)と、NWF世界ヘビー級王者のアントニオ猪木(プロレスリング)との異種格闘技戦である。あれから、もう44年も経つ。
 何しろ、現役かつ史上最強と謳われたボクシング世界ヘビー級王者が来日して、プロレスラーと他流試合を行うのだ。当時は社会現象となり、海外でも衛星中継され、普段はプロレスなど扱わない一般紙ですらこの試合を報じた。
 しかし、結果はご存じの通り15R引き分け。国内外では世紀の茶番劇と酷評されたのである。

▼『タダシ☆タナカ+シュート活字委員会 徹底検証!猪木vs.アリ戦の“裏”』を読む。

『タダシ☆タナカ+シュート活字委員会 徹底検証!猪木vs.アリ戦の“裏”』を読む。

▼猪木vs.アリ 遠藤幸吉氏のジャッジを独自検証

[ファイトクラブ]猪木vs.アリ 遠藤幸吉氏のジャッジを独自検証

半世紀近くを経て、正反対となった猪木vs.アリの“評価”

 だが、時代は下って、この試合の評価は正反対となった。この試合こそ真剣勝負であり、当時はつまらなく見えた試合も、凄まじい緊迫感に溢れていた、というわけである。
 また猪木に関しても、15Rも寝たままアリを蹴り続けたのは凄い、という意見も多数見られた。あれだけルールにがんじがらめにされて、アリが有利な状況下で猪木は正々堂々と闘った、と猪木を称賛したのだ。
 猪木vs.アリの、後になって言われたのは、以下のような点だろう。

①アリに有利ながんじがらめルールとなり、猪木は寝たままキックする以外に戦法はなかった
②アリの4オンスのグラブには石膏もしくはシリコンのような物が注入され、パンチがかすっただけで猪木の額には大きなタンコブができた
③あの試合は真剣勝負だったからこそ、つまらない試合になってしまった

 ①に関して、アントニオ猪木は自著『アントニオ猪木自伝』(新潮文庫)の中で、「呑まされたルールは、しかし私にとって苛酷なものだった」と言い、アリの頭への攻撃や立った状態でのキック、空手チョップや肘および膝による打撃も禁止されていたと書いている。つまり、ほとんどのプロレス技を封印されたが、猪木はそのルールを呑むしかなかったと語った。

 ②については、前述の『アントニオ猪木自伝』では、後で知ったことと断ったうえで、アリはグラブの上から石膏を注入してバンテージを石のように固めていたらしい、と書いている。そして、パンチがかすっただけで大きなコブができた、と述懐した。
 猪木のマネージャーで新日本プロレス営業本部長だった新間寿氏も自著『アントニオ猪木の伏魔殿』(徳間書店)で、当初はプロレスとボクシングをミックスさせて両者が自由に闘えるルールだったものの、試合直前になってアリ陣営が細かなルール変更を申し入れたため、あのような試合スタイルになったと語っている。また石膏注入についても、グラブにそのような細工がなされたことはアリ陣営の一人から聞いたと書いていた。

 ③に関しては、新日本プロレスの元レフェリーでプロレスの仕組みを公開したミスター高橋の著書『流血の魔術 最強の演技』(講談社)では、アントニオ猪木が生涯に2試合だけ行ったセメント・マッチとして、モハメド・アリ戦とアクラム・ペールワン戦を挙げている。
 グラブの細工に関しても、断言はしていないがシリコンのような物が注入されていたらしいと書かれており、アリ陣営の用務担当だったミスター高橋は、アリがグラブを着ける際には控室からの退室を命じられたと語った。

 この①②③については、現在では通説のようになった感がある。40年以上前の酷評から一転、猪木を称賛する声が圧倒的になったのだ。
 しかし、それは本当だろうか。この試合が真剣勝負で、アリは4オンスという危険なグラブに石膏を注入し、猪木をルールでがんじがらめに縛ったかの如く語られるようになったが、それは真実なのか?

 これらの謎に答えるのが、本誌の電子書籍『プロレス芸術とは 徹底検証! 猪木vsアリ戦の”裏”2009&2016-40周年』だ。
 どのプロレス本にも格闘技本にも書かれていない、そしてテレビ番組でも語られなかった、世紀の一戦の“真実”が隠されている。
 ただし、幻想は幻想のままでいい、という方は、覚悟して読む方がいいだろう。真実を知ることは諸刃の剣、ファンタジーを愛する者にとっては『悪魔の書』にもなりかねないのだから……。

▼プロレス芸術とは 徹底検証! 猪木vsアリ戦の”裏”2009&2016-40周年

プロレス芸術とは 徹底検証! 猪木vsアリ戦の”裏”2009&2016-40周年

一般紙の興味は勝敗ではなく『カネ』と『真剣勝負か八百長か』

 この電子書籍を紹介する前に、当時の時代背景を見てみよう。日本の男子プロレス団体は新日本プロレス、全日本プロレス、国際プロレスの3団体。力道山の時代と違い、一般紙のスポーツ面でプロレスを扱われることはなくなっていた。
 現在でも一般紙のスポーツ面でプロレスを報じることはないが、今ではショーとしてプロレスが認知されており、たまにプロレスが一般紙で取り上げられても厳しい論調とはならない。だが、当時は違っていた。『プロレスは最強の格闘技』とプロレス団体が謳っていたのだから、一般社会では「真剣勝負なのか、ショーなのか、八百長なのか」と、境界線を引きたがる風潮だったのだ。

 もちろんプロレス・マスコミも、猪木vs.アリに関しては厳しく批判していた。つまらない試合には違いなかったのだから酷評されても仕方ないだろう。もっとも猪木は、味方と思っていたプロレス・マスコミにも裏切られた気持ちになったのだが……。
 しかし、一般紙の論調は違う。批判していたのは同じだが、猪木vs.アリを真剣に報じる気はなく、ハッキリ言ってプロレスを見下していたのだ。

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