東京高等検察庁の検事長だった黒川弘務氏が、賭け麻雀の発覚により辞任した。黒川元検事長は安倍晋三内閣寄りの検察官と言われ、新型コロナウイルス問題が真っ只中にもかかわらず現政権は国家公務員法改正案を国会で強引に成立させようとし、「黒川検事長に対する忖度ではないか?」と批判を浴びていたばかりである。
しかも、黒川元検事長と賭け麻雀をしていたのが、産経新聞および朝日新聞の記者だったことが、批判に拍車をかけた。親・安倍政権と言われる産経新聞と、反・安倍政権と見られていた朝日新聞の記者が同じ卓を囲んでいたということで、記者クラブと権力との癒着が浮き彫りになった形だ。
麻雀なんて趣味の範囲だし、賭け麻雀は賭博罪になるとはいえ大抵の人は麻雀をやる際には金銭を賭けるので、普通なら目くじらを立てることではないかも知れないが、問題は賭け麻雀をしていたのが『法の番人』で被告人を追及する立場の検事長だったことである。
さらに糾弾されたのは、何度も賭け麻雀をしていた時期が、コロナ騒ぎで一般人が自粛生活を強いられている最中であり、『三密』は避けられない状況を検事長が作っていたことだ。多くの人々が収入減で生活苦に陥り、外出自粛で娯楽を楽しめない状態だったのに、検事長たる社会的地位の高い人が現政権に守られ、悠々自適で賭け麻雀を楽しんでいたのである。
プロレスラーにも麻雀好きは多い。彼らが金銭を賭けずに麻雀している、なんてことは有り得ないだろう。黒川元検事長らの賭け麻雀はレートがテンピン(千点100円)だったと言われるが、レスラーはそれより高額なレートだと思われる。ちなみに、自由民主党ルールではサイコロの目でドラが増える(たとえばサイコロの目が4だったら四萬、四ピン、四ソー全てがドラ)という超ド級インフレ麻雀だと聞いたことがあるが、今でもそうなのだろうか。
にもかかわらず、賭け麻雀をしていたプロレスラーや政治家が、賭博罪で逮捕されたというニュースは聞かない。もちろん、有名人が賭け麻雀で逮捕されたケースはあるが、大抵は暴力団絡みだ。つまり、仲間内の賭け麻雀ならお目こぼしになるということか。
藤波辰爾は、日本プロレスに入団したときに、ちょうどジャイアント馬場とアントニオ猪木らが麻雀をしていた、と関西ローカルのテレビ番組で語っていた。もちろん賭け麻雀だっただろうが、後に犬猿の仲となる馬場と猪木が同じ卓を囲んでいた場面を想像するだけで面白い。
▼藤波辰爾が予備校講師となって、プロレスについて熱く語る!?
※月額999円ファイトクラブで読む(クレジットカード、銀行振込対応)
▼井上譲二の『週刊ファイト』メモリアル第72回 G・馬場さん 度量の大きさは猪木氏より数段上!
スタン・ハッセン、フルーザ・フルディ、アンコレヤ・ジャイアント……
プロレス黄金時代と言われた1980年代、実は麻雀もブームとなっていた。その頃、青年誌の『ヤングマガジン』(講談社)に連載されていた人気麻雀漫画が『ぎゅわんぶらあ自己中心派』(作:片山まさゆき)である。麻雀専門誌ではなく、青年誌に麻雀漫画が連載されていたというのも、当時の麻雀人気が判るだろう。真田広之主演の角川映画『麻雀放浪記』(原作:阿佐田哲也、東映)が上映されたのもこの頃だ。
この『ぎゅわんぶらあ自己中心派』で、プロレスが題材になった。単に、レスラーに麻雀をさせるのではなく、プロレスと麻雀を無理やりコラボさせたのである。
作者の片山まさゆきは、こうした融合が得意で、他にもプロ野球やNFLアメリカン・フットボール、プロテニスに早明ラグビーなど、当時人気のあったスポーツを麻雀漫画に取り入れていた。
さて、同漫画のプロレス回では『’82エキサイトシリーズ』として善日本プロレスvs.真日本プロレスの、オールスター麻雀タッグマッチを敢行。セミ・ファイナルでは善日本プロレスのスタン・ハッセン&フルーザ・フルディと、真日本プロレスのアンコレヤ・ジャイアント&律見江ミエが対戦した。ちなみに、律見江ミエとは同漫画では準主役の若い女性雀士である。
▼スタン・ハッセンとフルーザ・フルディ!?
この4人による麻雀が始まった。使用しているのはレスラーに合わせた特大牌なので、ミエちゃんは牌を捨てるのにも苦労する。すると、パートナーのアンコレヤ・ジャイアントが代わって牌を切ってあげた。
「ありがとうアンコレ。今日はあなたがとても大きく見えるわ」
とミエちゃんにお礼を言われ、ファンからも冷やかされて照れるアンコレ。
再びミエちゃんにツモ番が回って来るが、またしても牌を切るのに一苦労。すると今度は、フルーザ・フルディがミエちゃんの牌を捨ててあげる。
「敵同士なのにフルディったら、優しいんだぁ……」
と言って、フルディの腕にしがみつくミエちゃん。恥ずかしさで顔を真っ赤に染めたフルディに対して、アンコレが敵のくせに余計なことをするなと怒り出す。
そんな中、トイメンにいて独りミエちゃんから相手にされないスタン・ハッセンは不貞腐れた。
ようやくミエちゃんが自分の力で打牌すると、すかさずハッセンが「ウィィィィ!」と叫びながら左腕で自分の牌を倒し(ウエスタン・ラリアットの要領)、ロンを宣言する。
「出たあ、ハッセンのウエスタン・ラリアガリ! ハッセンテン(8千点)です!」
しかし、ミエちゃんに惚れてしまったフルディがハッセンにキングコング・キック、仲間割れとなった。さらにアンコレも乱闘に加わりヒップ・プッシュ!
「山本さん、これはアンコレのヤキモチですか!?」
「そーですね、そのとーりです」
結局、セミ・ファイナルは両者リングアウトの引き分けとなった。
▼アンコレヤ・ジャイアントは女性に弱い?
ジハイアンコ馬場がシャンポン鶴田と組み、アンコニコ猪木と対決!
メイン・エベントは善日本プロレスのジハイアンコ馬場&シャンポン鶴田が、真日本プロレスのアンコニコ猪木&イーソーマスクと対戦。イーソーマスクは初代タイガーマスクがモチーフでドラの穴出身、イーソーの鳥の図柄となっており、正体は同漫画の主人公である持杉ドラ夫だ。
イーソーマスクは持ち前の素早い手で、次々と和了る。
イーソーマスクの猛攻に怒ったシャンポン鶴田は、ドラを暗カンし、さらにリーチをかけた。
しかし超過激麻雀を目指すアンコニコ猪木は、役なしのペンチャン待ちで無謀とも思える追い掛けリーチ! それでもアンコニコ猪木は、ペン七ピンをイッパツでツモった。アンコニコ猪木、得意のケンカ殺法である。
▼超過激麻雀を目指すアンコニコ猪木(?)
自力で親となったアンコニコ猪木は、なぜか3と7の牌ばかりを切った。3と7というのは要牌と呼ばれ、人間の体で言えば延髄に相当する。
そう、延髄切りだ! アンコニコ猪木の延髄切りが炸裂した!! だからと言って、麻雀では何の役にも立たないのだが……。
しかも、アンコニコ猪木が三萬を切ったとき、シャンポン鶴田がロンを宣言した。自分の13枚の牌を持ったままブリッジしてフォールの態勢に入るヤクマン・スープレックス・ホールド、四暗刻単騎である。もちろん、ブリッジしようがしまいが、役満には変わりない。
顔面が真っ青になるアンコニコ猪木。しかし、イーソーマスクがフリテンを指摘した。二・伍・三萬の三面待ちで、シャンポン鶴田は既に伍萬を捨てていたのである。
シャンポン鶴田のチョンボによりアンコニコ猪木の連荘となったが、ここでジハイアンコ馬場が必殺の16本キックを繰り出す! 親を七対子のみの16本(1600点)で蹴ってしまう16本キック。僅か1600点で親番を失ったアンコニコ猪木は悔しがった。
しかし、ジハイアンコ馬場の反撃もここまで。イーソーマスク(倍満)とアンコニコ猪木(満貫)にダブロンを振り込んでしまった。振り込みはジャイアント、和了りはコンパクト、である。
勝負タイム45分25秒でアンコニコ猪木&イーソーマスクの勝利となった。イーソーマスクは主役なので、勝って当たり前か。
▼ジハイアンコ馬場とシャンポン鶴田が16本キック(笑)
漫画は社会を映し出す鏡。プロレス人気のバロメーターだ
前項を読めば判るように、『ぎゅわんぶらあ自己中心派』は全篇がギャグの麻雀漫画だ。当時の麻雀漫画と言えばシリアスな劇画がほとんどだったのに、作者の片山まさゆきは敢えて麻雀漫画をギャグにしたのである。
そして、その題材としてプロレスを選んだ。プロレスに人気がなければ、絶対にネタにはしなかっただろう。
かつてはプロレス漫画も多かった。フィクション系では『タイガーマスク』(原作:梶原一騎、作画:辻なおき)や『キン肉マン』(作:ゆでたまご)、ノンフィクション系(いずれもウソ八百だったが)の『ジャイアント台風』(原作:高森朝雄、作画:辻なおき)や『プロレススーパースター列伝』(原作:梶原一騎、作画:原田久仁信)、ギャグ漫画では『愛しのボッチャー』(作:河口仁)など、実に多士済々。当時のプロレス人気が窺える。
現在でもプロレス漫画は多いが、ヒットしているとは言い難い。ましてや、プロレス・ファン以外が知っているプロレス漫画はほとんどないだろう。
漫画は社会を映し出す鏡だ。漫画家は、人気のあるジャンルを題材にするだろうし、またそんな漫画がよく売れる。もちろん漫画家が、自分の好きな不人気ジャンルを作品にする場合もあるが、よほどの売れっ子漫画家が描かない限り、そういう漫画はあまり売れない。
漫画家は、お笑い芸人と同じように、社会の動向には敏感である。常に面白い題材を探しているのだ。
そういう意味では、いくら今がプロレス・ブームと言っても、80年代にはまだまだ及ばないということだろう。昔の漫画を見ると、当時はプロレスがどれほど世間に浸透していたか、よく判るのだ。つまり漫画は、プロレス人気のバロメーターでもある。
▼『プロレススーパースター列伝』ザ・グレート・カブキ編
※500円電子書籍e-bookで読む(カード決済ダウンロード即刻、銀行振込対応)
’20年05月28日号オーエン・ハート実録 星輝ありさ 石井智宏 シカティック 馬場さん