プロレスと音楽は切っても切れない関係

 現在、発売中の某スポーツ総合誌では、サザンオールスターズの桑田佳祐が表紙となっていた。スポーツ雑誌なのに何故ミュージシャンが表紙なのかと言えば、民放における東京オリンピックの応援ソング『SMILE~晴れ渡る空のように~』を桑田が歌っているからである。
 本文中に、ある音楽評論家が「桑田さんは昔、音楽雑誌でビートルズのメンバーを4人のレスラーに例えたことがある」と語っていたが、思わず「そのことは去年、ワイが『週刊ファイト』で書いたでェ」と、心の広い主張をしたくなった(笑)。

▼桑田佳祐はジョン=馬場、ポール=猪木、ジョージ=前田、リンゴ=天龍と例えていた


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▼プロレスはロックだ! レスラー達をビートルズに例えた桑田佳祐

[ファイトクラブ]プロレスはロックだ! レスラー達をビートルズに例えた桑田佳祐

ミル・マスカラスの入場曲『スカイ・ハイ』が日本で大ヒット!

 プロレスにとって、というよりスポーツにとって今や音楽は切っても切れない存在となっている。プロレスではレスラーが入場するときにはテーマ曲が流れるし、プロ野球でもそれに倣ってホーム・チームの選手が打席に入るとき、あるいは投手が登板するときに入場曲が流れるのは当たり前になった。選手の入場曲ではなくても、試合のオープニングに音楽が流れるのはあらゆるスポーツで採り入れられている。

 例外と言えるのは大相撲だ。力士が入場してくるときにテーマ曲が流れる画なんて想像できないし、そもそも相撲協会がそんなことするわけないだろう。仮に相撲協会が大英断で入場曲を採用すると決定しても、オールド・ファンが大反対するに違いない。
 大相撲で音楽的なものと言えば、相撲甚句と寄せ太鼓、跳ね太鼓ぐらいか。ちなみに、跳ね太鼓は千秋楽に打たれることはない。跳ね太鼓には「明日もご来場をお待ちしています」という意味が込められているため、明日の興行がない千秋楽に跳ね太鼓は打たないというわけだ。したがって、千秋楽ではNHKの大相撲中継の最後にも、跳ね太鼓は流れないのである。

 今では当たり前となったプロレスラーの入場曲だが、かつてはレスラーの入場時に音楽が流れることなんてなかった。日本のプロレスでの入場曲の始まりは、国際プロレスのスーパースター・ビリー・グラハムからだと言われている。1974年のことで『ジーザス・クライスト・スーパースター』という曲だったが、残念ながらあまり認識されなかった。

▼日本のプロレス界における入場曲の元祖と言われるスーパースター・ビリー・グラハム

 日本でプロレスラーの入場曲を広めたのは、1977年に全日本プロレスでミル・マスカラスが使用したジグソーの『スカイ・ハイ』だろう。この曲はマスカラスの入場曲となったおかげで、日本でも洋楽としては異例のミリオン・セラーを記録。曲のカッコ良さ及びタイトルが、マスカラスの十八番である空中殺法とイメージがピッタリ合ったのである。
 逆に国際プロレスは、入場曲はもちろん日本人対決やデスマッチなど、先進的なことを行ってきたのに注目されず、ことごとく他団体にお株を奪われてしまった。まさしく悲劇の団体だったと言えるだろう。カッコ良く言えば「時代が国際プロレスに追い付かなかった」というところか。

▼ミル・マスカラスの入場曲として日本でも大ヒットした、ジグソーの『スカイ・ハイ』

昔は全日本プロレスの方が新日本プロレスよりも入場曲では上?

 昭和の頃、全日本プロレスはライバルの新日本プロレスに後れをとっていたイメージがあったが、こと入場曲に関して言えば全日の方が先を行っていたのではないか。
 たとえば新日本プロレスの総帥アントニオ猪木の入場曲と言えば『炎のファイター』が有名だが、これは元々モハメド・アリの伝記映画『アリ・ザ・グレイテスト』に使われていた曲。それをアリから贈られて、アレンジした曲が猪木の入場曲となった。
 それ以前、猪木は『聖者の行進』や『ワールドプロレスリング』のテーマ曲(当時)を入場曲としていたが、ハッキリ言うとダサかったのである(※あくまで個人の感想です)。

 一方、全日本プロレスの御大であるジャイアント馬場も、日本テレビのスポーツ・テーマ(『スポーツ行進曲』)が入場曲だったが、これが妙に似合っていた。プロレス中継だけではなく、プロ野球をはじめとする他のスポーツ中継でも使われていたお馴染みの曲だが、よく替え歌で『馬場に猪木に鶴田にブッチャー! ジェットシン、デストロイヤ~♪』なんて歌っていたものである。
 その後の馬場は、元々のオリジナル曲である『王者の魂』を入場曲にしたが、これも重厚でカッコ良かった。そして、日テレのスポーツ・テーマは、元横綱の輪島大士が受け継いだ。
 輪島がジャンボ鶴田とタッグを組んだ時も、鶴田の入場曲である『J』と日テレのスポーツ・テーマ、試合によって交互に使用されていたのである。つまり日テレは、輪島と鶴田を同格に扱っていたわけだ。この頃の馬場は会長職に退いて、全日本プロレスの社長には日テレから出向してきた松根光雄氏が就任していた。馬場が社長のままだったら、次期エースはあくまでも鶴田で、輪島と同列には置かなかったかも知れない。

 新日本プロレスの外人エースとなったスタン・ハンセンが、入場曲として使用していたのは『ウエスタン・ラリアート』だ。しかし、当時のプロレス・ファンならともかく、現在では一般的にはほとんど知られていない曲だろう。
 ハンセンが全日本プロレスに移籍してから入場曲になったのは、あまりにも有名なスペクトラムの『サンライズ』である。バラエティー番組やプロ野球の『珍プレー好プレー』で乱闘シーンがあると、必ずと言っていいほど『サンライズ』が流れるぐらいだ。

 逆にアブドーラ・ザ・ブッチャーは、新日本プロレスに移籍してからも全日本プロレス時代の入場曲、ピンク・フロイドの『吹けよ風、呼べよ嵐』をそのまま使用していた。ブッチャーがいなくなった全日では、新日から移籍してきたタイガー・ジェット・シンをはじめ悪役外人の入場曲に『吹けよ風、呼べよ嵐』を充てていたのである。当時のシンはブッチャーを嫌っていたはずなのに、なぜかブッチャーと同じ入場曲を受け入れた。

▼アブドーラ・ザ・ブッチャーの入場曲『吹けよ風、呼べよ嵐』は悪役外人の定番となった
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 もう1曲、忘れてはならないのがザ・ファンクスの入場曲、クリエイションの『スピニング・トーホールド』だろう。この曲は21世紀になってからB’zのギタリスト、松本孝弘がカバーした。
 そういう点から考えても、当時は全日本プロレスの方が新日本プロレスよりも入場曲に関しては上回っていたように思える。

 ところで先週、筆者は巨大ロボット物の記事で、新日本プロレスでの若手時代の前田日明は『機動戦士ガンダム』と同じ富野由悠季作品『聖戦士ダンバイン』のオープニング曲を入場曲にしていた、と書いたが、正確にはこの歌(MIOの『ダンバイン とぶ』)のイントロ部分をただただ繰り返しているだけだった。当時のアニメ・ファンは、肩透かしを食らった気分だっただろう。

▼プロレスは『マジンガーZ型』から『ガンダム型』へ

プロレスは『マジンガーZ型』から『ガンダム型』へ

ジャイアント馬場vs.ハーリー・レイスで、まさかの入場曲なし

 日本のプロレスで入場曲が定着したのは1980年前後だが、実際に入場曲があったのはテレビ・マッチに常時出場しているレスラーだけ。前座レスラーに入場曲などあるわけもなかった。

 1982年3月7日、当時は全日本プロレスに所属していた大仁田厚がノースカロライナ州シャーロットでチャボ・ゲレロを破り、NWAインターナショナル・ジュニアヘビー級王者に輝いたにもかかわらず、凱旋帰国した時に入場曲はなかったと記憶している。
 まもなく大仁田にも入場曲が与えられたが、全日時代の大仁田の入場曲はドン・エリスの『スーパースター』だった。映画『メジャーリーグ』でお馴染み、Xの『Wild Thing』を聴き慣れたファンには奇異に感じられる入場曲だ。

▼全日本プロレス時代の大仁田厚の入場曲『スーパースター』。当時の大仁田は正統派だった

 翌1983年2月11日、ジャイアント馬場がミズーリ州セントルイスに遠征して、ハーリー・レイスとPWFヘビー級タイトル・マッチを行った。前年、日本でレイスが馬場を破ったため、レイスが王者で馬場は挑戦者である(結果は馬場が敵地でレイスを破って王座奪還)。
 チェッカー・ドームには超満員となる19,819人(主催者発表)を集めて行われたが、この時の馬場とレイスは大観衆の中、まるで相撲取りのように入場曲もなく黙々とリングに入場した。
 テーマ曲に乗って華やかに入場する日本の光景を見慣れた筆者には、なんとも拍子抜けした入場シーンに思えたものだ。アメリカと言えば、スポーツでもなんでも音楽と結び付けるというイメージがあったのに、プロレスに関しては日本の方が先進的だったのである。

 ハーリー・レイスは『ギャラクシー・エキスプレス』に乗って入場するのが似合っていたが、元々これはレイスのオリジナル曲ではなく、日本テレビにおけるNWA世界ヘビー級チャンピオンのテーマ曲だった。したがって、リック・フレアーなども日本では『ギャラクシー・エキスプレス』を入場曲にしていたが、やはりレイスのイメージが強い。
 チェッカー・ドームに集まった2万人の地元ファンの前で、ハーリー・レイスが『ギャラクシー・エキスプレス』に乗って入場したら、セントルイスの大観衆はもっと興奮しただろうに、と今でも思う。

▼『ギャラクシー・エキスプレス』を入場曲としていたハーリー・レイスとリック・フレアー
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