時代と共に変化する、プロレスのビジネス・モデル

 プロレスリング・ノアを運営するノア・グローバルエンタテインメント㈱が、㈱サイバーエージェントの傘下に入ったのは本誌で何度も報じている。リデットエンターテインメント㈱の子会社になってから僅か1年での買収劇だが、ノア設立から現在までの流れを経営面で見てみよう。

●2000年 6月 ㈱プロレスリング・ノアを設立
●2016年11月 ㈱プロレスリング・ノアからIT企業のエストビー㈱へノアの事業譲渡
●2016年11月 ㈱プロレスリング・ノアが㈱ピーアールエヌに社名変更
●2016年11月 エストビー㈱がノア・グローバルエンタテインメント㈱に社名変更
●2017年 2月 ㈱ピーアールエヌが倒産
●2019年 1月 広告代理店のリデットエンターテインメント㈱がノア・グローバルエンタテインメント㈱を子会社化
●2020年 1月 ノア・グローバルエンタテインメント㈱の株式を、リデットエンターテインメント㈱からIT企業の㈱サイバーエージェントへ譲渡

 特にここ3年、ノアの経営状況が目まぐるしく変わっていることがわかる。前回、筆者は「昔のプロレス団体はプロレスラーが経営するのが当たり前だったが、最近のメジャー団体では他企業の子会社になるのが普通になった」という趣旨の記事を書いたが、その流れでいくと今後もノアのようなケースは増えるだろう。
 それでは、他のプロ・スポーツはどのような形で経営譲渡などが行われるのだろうか。

▼故・三沢光晴が創設したプロレスリング・ノアも、他企業の子会社化は避けられなかった
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▼『レスラー兼経営者』vs.『背広組』。プロレス経営に向くのは?

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[ファイトクラブ]リデットに感謝しつつサイバー体制へ 武田執行役員「これまで以上でなくては」 ノア1・30後楽園

税制優遇制度により、赤字でも経営が可能なプロ野球

 日本を代表するプロ・スポーツと言えば、やはりプロ野球だろう。ここでいうプロ野球とはNPB(Nippon Professional Baseball)のことだ。
 NPBに加盟する12球団のうち、広島東洋カープを除く11球団が企業の子会社という形式となっている。これは1954年、国税庁より通達されたNPBに対する特例税制優遇制度の影響が大きい。

 簡単に言えば、球団が赤字を計上しても、親会社が赤字を補填すれば広告宣伝費として認めるというわけだ。こんな優遇を受けているプロ・スポーツは、日本ではNPB以外にはない。
 そのため、球団が赤字を抱えていても、親会社は宣伝費と思って球団を持ち続けているのである。たとえば東京ヤクルト・スワローズ(食品系)で言えば、スポーツ・ニュースで公共放送たるNHKのアナウンサーが、企業名かつ商品名でもある『ヤクルト』を連発するので、宣伝効果は計り知れないほど大きい。
 逆に言えば、親会社の経営が悪化すると、真っ先に切られるのが球団ということだ。親会社に赤字を補填する財力がないのだから仕方ない。球団の身売りは、そういうときに起きる。

 NPBのリーグ戦が始まったのは戦前の1936年で(当時の呼称は日本職業野球連盟だが、混乱を避けるため本稿ではNPBに統一)、この頃の親会社は新聞社と鉄道会社が多かった。
 新聞社が球団を持つと、新聞の販売拡張はもちろん、新聞でプロ野球に関して報道するので、親会社と球団の両方に宣伝効果がある。鉄道会社が球団を持つ理由は、球場を保有することによって沿線の開発が進み、また球場へ足を運ぶファンにより運賃収入が見込めるということだ。
 戦後になると『娯楽の王様』たる映画産業がNPBに進出してきた。東映、松竹、大映という映画会社が球団を持つようになったのである。

 しかし、高度経済成長を終えると、日本の社会構造が変わってきた。テレビ時代となって映画界は斜陽産業となりNPBから次々と撤退、現在は球団を保有している映画会社はない。
 逆に読売ジャイアンツ(巨人)は、読売新聞系列の日本テレビを利用して、ファンの獲得に成功。『巨人あってのプロ野球』とさえ言われるようになった。他の新聞系球団はテレビによる恩恵をさほど受けることはできず、現在で球団を抱えている新聞社は2社だけである。
 もっと顕著なのが鉄道会社で、戦前と違い沿線開発をほぼ終えた現在では球団を持つ意味が薄れ、一時は7球団あった鉄道系球団も生き残っているのは2球団のみだ。

▼戦前から続く鉄道系球団の阪神タイガースは、現在でも関西で絶大な人気を誇る

プロ野球も集客方法を真剣に考える時代になった

 21世紀に入り、NPBに進出してきたのがIT産業である。2004年の球団削減騒動の際、大阪近鉄バファローズ(鉄道系)を買収しようとしたのが、ホリエモンこと堀江貴文氏が当時社長を務めていたIT企業のライブドア。結局、ライブドアのNPB参入は認められず、近鉄はオリックス・ブルーウェーブ(金融系)に吸収合併されてオリックス・バファローズになったものの、やはりIT系の新球団である東北楽天ゴールデンイーグルスが誕生した。
 また、この年にはIT企業のソフトバンクが福岡ダイエー・ホークス(流通系)を買収、福岡ソフトバンク・ホークスとなっている。球界再編によって、IT企業の認知度が一気に上がったのだ。

 象徴的なのは、2011年のオフに横浜ベイスターズを買収したIT企業のDeNAだろう。それまでベイスターズを保有していたのは放送局のTBSで、TBS時代のベイスターズは11年間で8回も最下位に沈むという、惨憺たる成績だった。もちろん、人気も急落したのである。全国キー局が親会社にもかかわらず、巨人戦以外でベイスターズ戦をゴールデン・タイムでの全国ネット地上波放送をするわけでもない。ハッキリ言って、TBSは球団経営などやる気がなかったのだ。そして時代は、かつて映画からテレビに移行したように、テレビからインターネットへ移っていく。
 横浜ベイスターズの前身は食品系の(横浜)大洋ホエールズで、親会社の大洋漁業がマルハに社名変更した際に、企業名を外した横浜ベイスターズと改称したものの、不況が続き2002年に身売りしようとする。だが、予定していた売却先はTBSではなくニッポン放送だった。
 しかし、ニッポン放送と同じ系列のフジテレビジョンがヤクルト・スワローズの株を約20%保有していたため買収が認められず、泣きつかれたTBSがやむなくベイスターズを経営することになった。この点からも、TBSのやる気のなさが窺える。

 しかし、2011年にTBSがベイスターズを身売りして横浜DeNAベイスターズになってからは、球団名のみならずチームそのものが生まれ変わった。この頃のNPBは地上波中継が激減し、放映権収入は期待できない。そこでDeNAは集客すべく、次々と改革に着手した。
 まず、試合の合間のグラウンド内にファンを入れて、数々のアトラクションに参加させる。それまでのグラウンドは聖域としてファンの立ち入れない場所だったが、DeNAはそのタブーを破った。当然、球界内に蔓延る古い体質の連中からは反発を受けたものの、21世紀型の新しい企業だったからこそ因習に捉われずにファン・サービスを断行できたのだろう。
 またベイスターズの帽子を、神奈川県内の小学校や幼稚園、保育園に無償配布した。子供がベイスターズのファンになれば、当然のことながら親が球場に連れてくる。場合によっては、大洋ホエールズ時代を懐かしむお爺ちゃんも付いてくる。親子三代にわたるファンの獲得に成功したのだ。もちろん、ベイスターズが地域球団として認知されたのは言うまでもない。
 また、それまでは貸球場だった本拠地の横浜スタジアムの買収に成功。買収には多額の資金が必要とはいえ、買ってしまえば高いレンタル料を支払う必要はない。もちろん、売店収入や広告収入もほとんど球団に入る。さらに、自前の球場になったことによって、球団が球場を好きなように改造することも可能。DeNAは横浜スタジアムを、ファンが楽しめる空間にしたのだ。

 もはやNPBは、親会社の赤字補填を当てにする時代は終わった。地上波中継が激減した今、巨人戦中継による放映権料獲得も期待できなくなり、一層の各球団による経営努力が必要となる。
 それを実行できなかったのがTBS時代の横浜ベイスターズであり、ファンや伝統を無視してオリックスとの合併を強行した大阪近鉄バファローズだった。この両球団は既に、球団経営に対する情熱は失せていたのだろう。今後のNPBでは、球団経営の黒字化が必須である。

▼解体される、かつて近鉄バファローズの本拠地だった藤井寺球場。現在は四天王寺学園に

ファン・サービスの内容は時代や団体によって変わる

 プロレス界では横浜DeNAベイスターズに近い経営努力で、人気回復に成功したのは何と言っても新日本プロレスだろう。ブシロードの傘下になった新日は、従来のプロレス界とは全く違う発想でファンの獲得に成功したのである。
 それに対し、プロレスリング・ノアや全日本プロレスは改革に遅れてしまった。そんな中、ノアは僅か1年で親会社が交代したが、これからが正念場となる。

 ことファン・サービスに関しては、インディー団体の方が充実しているかも知れない。何しろレスラーとファンが接近しているという利点がある。リングと客席が至近距離だし、フットワークが軽くて気軽にレスラーと接触する機会を作ることができるのがインディー団体の強みだ。
 道場マッチを行って、試合後はファンと一緒にちゃんこを食べたり、あるいはレスラーがコーチとなってファンがトレーニングできるというイベントもある。団体によっては、レスラーがファンをお姫様抱っこするサービスもあって、プ女子は大喜びだろう。
 あるいは、居酒屋で試合を行うプロレス団体もある。店にマットを敷いてプロレスをするわけだが、客は目の前で試合を見られるため迫力満点だ。これらはメジャー団体では見られないサービスだろう。

▼居酒屋で藤田峰雄が竹田光珠に乳首攻め?

 メジャー団体がインディー団体のようなファン・サービスはできないだろうし、マネする必要もないが、参考にはなるはずだ。また他のプロ・スポーツを見て、研究することも大切だろう。
 20世紀のプロ野球が巨人戦に依存していたように、昔のプロレス団体はスター・レスラーに頼るだけでまともな経営努力はしなかった。日本のプロレス界の源流団体である日本プロレスですら、ジャイアント馬場とアントニオ猪木という2大スターを失った後は、なすすべもなく崩壊したほどである。ファン・サービスなどしなくても、スターさえいれば客が入る時代だったのだ。

 スターは必要だが、現在はそれだけではファンを獲得することはできない。集客努力には終わりはなく、またその方法は時代と共に変わる。そこに気付いた団体だけが生き残るだろう。


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