この原稿を書いている時点で、ラグビー・ワールドカップの日本代表は開幕から3連勝、予選プール最終戦のスコットランド戦で勝つか引き分けると初の決勝トーナメント進出ということで、日本中は大いに盛り上がっている(負けてもボーナス点の兼ね合いがあって、条件によれば決勝トーナメント進出の可能性があるが、ややこしいので割愛)。日本vs.サモアは平均視聴率32.8%、瞬間最高視聴率46.1%を記録したそうだ(関東地区)。
筆者も10月3日(木)、東大阪市花園ラグビー場へ行った。フィジーvs.ジョージアである。日本とは全く関係のない試合、しかも平日の昼間にもかかわらず、花園には2万人以上の大観衆が詰め掛けた。試合開始より2時間以上も前に、電車に乗ったが車内は超満員、最寄り駅の東花園駅からスタジアムまで通じる道には人で溢れ、道沿いにはボランティアの人達が出迎えていた。
花園ラグビー場前の広場では様々なアトラクションがあり、大勢の客はそれを楽しんでいたのである。当然のことながら、外国人客も多数訪れており、国際色豊かなお祭りといった感じだ。
花園ラグビー場には、筆者は何度も訪れたが、普段とは全く雰囲気が違う。これがワールドカップなのか、と実感した。
▼花園ラグビー場での試合前、パス・ゲームに興じるファンたち
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スポーツ観戦だけではない二次効果
この試合の写真は『大人の事情』によりお見せできないが、激しい雨が降っていたにもかかわらず凄い盛り上がりだった。『ワールドカップ』という名の重さが身に染みる。
他会場で言えば、ニュージーランドvs.南アフリカの試合が6万3千人以上の観客を集め、しかも日本テレビで生中継されて視聴率12.3%(関東地区)を叩き出した。『スポーツ中継では、日本戦以外は視聴率を稼げない』という定説を覆したのである。RIZINが、視聴率一桁台に低迷しているのとは対照的だ。
さらに、この盛り上がりは日本国内だけではない。むしろ海外の方が注目されている大会なのである。ラグビー・ワールドカップは、夏季オリンピックとサッカー・ワールドカップに次ぐ、世界三大スポーツ・イベントなのだ。
やはり、スポーツ観戦に欠かせないのは『お祭り感』である。単にスポーツを見に行くだけ、というわけではなく、何かワクワクするような高揚感。いわばテーマパークだ。
その点、プロレスや格闘技はどうだろう。どちらかというと試合を見に行くだけ、という感じで、あまり『お祭り』的な要素はない。
実は、ラグビーだって元々は『お祭り感』は全然なかった。花園ラグビー場は飲食店やミュージアムがあってまだいいが、『東の聖地』東京の秩父宮ラグビー場や、名古屋の瑞穂ラグビー場なんて酷いもの。ラグビー専用競技場だけあって、たしかに試合は見やすいのだが、他に楽しみは何もないのである。秩父宮の方は建て替えの予定があるので、劇的に生まれ変わるかも知れない。
陸上競技場となれば、何をかいわんや。陸上トラックがあるために臨場感がないだけではなく、全く無機質な造りで、ファンのことなど何も考えてはいない。
その点、先進的なのは野球場だろう。プロ野球の各球団が本拠地球場に工夫を凝らし、野球のみならずファンに楽しんでもらおうという努力が見て取れる。昔の野球場は『野球を見るだけ』という空間だったが、現在ではアメリカのメジャー・リーグの球場を研究して、単なる野球場ではなく『ボール・パーク』と呼べる楽しい場所にするようにしているわけだ。
この流れはサッカーのJリーグにも波及しており、最近では自治体と協力し、ホーム・グラウンドとしてサッカー専用スタジアムを建設するチームもあって、筆者が体験した中ではガンバ大阪のパナソニック・スタジアム吹田は『最高』と言えるだけの素晴らしいスタジアムだった。試合は見やすいし、大屋根が四方にあって快適、店も豊富でサッカー以外の楽しみもある。
▼お笑い芸人のたむらけんじがパナソニック・スタジアム吹田に出店している『炭火焼肉たむら』
競技だけではなく、ファンに楽しんでもらう工夫が必要
プロレスや格闘技には、残念ながら自前の競技場(アリーナ)はない。常打ち会場の後楽園ホール、あるいはキャパシティの大きい日本武道館や大阪城ホールなどは、全て借り物だ。したがって、プロレス団体などが勝手に催し物などを開催することはできない。
ファンはもう、試合を見るしか楽しみはないわけだ。もっとも、それを「結構なことだ」と思うファンも多いのは事実だが、それだと一部のマニアにしか楽しめない空間になってしまう。
プロレスや格闘技のファンについて、強く感じるのは『一見さん』に対して、非常に冷たいということだ。プロレスや格闘技のことが判らないのなら見に来るな、という空気である。その結果、会場に集まるのはマニアばかりだ。
今回のラグビー・ワールドカップでは大勢の観客がスタジアムに押し寄せているが、『にわか』と呼ばれる人達も多いだろう。ラグビーのルールはよく判っていないが、ブームなのでちょっと見に行ってみるか、という人達だ。
しかし、ラグビー・ファンはそういう『にわか』の人達に寛容である。むしろ、今まではラグビーのことを知らなかった人に対しても、ワールドカップをきっかけにして、大いに楽しんでもらいたい、と思っている。
それだけに、ラグビー場に来たからには、ラグビーの試合だけではなく、様々なアトラクションで楽しんでもらうことが重要なのだ。
だが、プロレスや格闘技には、そこまでの文化は発達していない。その理由として、前述したように会場が『借り物』であるという点があるだろう。
たしかに、やむを得ない部分はある。プロレスや格闘技団体が自前のアリーナを建設するのは経費がかさむし、常に稼働していないと採算が取れない。
かつて、力道山は日本プロレスの常打ち会場として『リキ・パレス』を建設したが、力道山は死去し、建設費の借金だけが残って『負の遺産』となってしまった。その失敗以来、プロレス界では自前の常打ち会場を建設できないでいる。
この際、参考になるのはバスケットボールのBリーグだろう。Bリーグの規約では、B1に所属するチームは、5千人を収容するアリーナが必要、とある(B2は3千人)。
アマチュア時代のバスケットはレンタル料の安い、町の体育館を借りて試合をしていた。それならば、会場費を抑えられるので、客が少なくても大きな赤字にはならない。赤字になるのは当たり前で、いかに赤字を抑えるのかが命題だったのだ。しかし、バスケットもプロ化したことによって、黒字経営を強いられるようになった。
そこで、Bリーグのクラブ・チームでは自前のアリーナを所有する動きがある。当然、大勢の客を集めるためには、バスケットだけではなく、そのアリーナに来たことによる楽しさを味わってもらわなければならない。そのため、各クラブは集客に対する努力を怠らないようになった。
プロレス界や格闘技界も、自前のアリーナを所有するのは難しいかも知れないが、少なくとも会場に来た客に対しては、楽しんでもらう工夫をしてもらいたい。
『プロレスや格闘技を知らない人は、会場に来なくてもいい』などという傲慢な考え方は、今の時代では通用しないのだ。
▼大阪府立体育会館(エディオン・アリーナ大阪)に詰め掛けるプロレス・ファン
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