獣神サンダー・ライガー主演『世にも奇妙な物語』を法律で斬る!

 先日、獣神サンダー・ライガーがメキシコでの引退試合を行ったのは、既に本誌でもお伝えしたとおりだ。そして来年、1月5日の東京ドーム大会で完全に引退する予定である。
 また、1991年にライガーはフジテレビのドラマ『世にも奇妙な物語』に出演していたことも、筆者が本誌で書いた。もう一度あらすじを記してみよう。
 新日本プロレスの若手レスラーには心臓手術を控えた、ライガー・ファンの弟がいた。ライガーはその弟を見舞った後、交通事故に遭って瀕死の重傷を負ってしまう。ライガーの覆面を被って代打出場した若手レスラーは、実力差があり過ぎてラリアットを食らい、KO寸前。そこにライガーの魂が乗り移り、若手レスラーは立ち上がって奇跡の逆転勝利を収めた。ところが、若手レスラーは死亡。実は、ラリアットを食らったとき既に死んでいたのだ。一方、弟とライガーの手術は成功し、死の淵から生還した。
 この動画を見て、涙した読者は多くいるだろう。なんという感動的なストーリーであろうか。

 ところで筆者は最近、法律に関する事柄について調べていた。難解な用語ばかりで、サッパリ判らない。一行を理解するのに数時間かかることもあった。
 それもようやく一段落し、もう一度あの感動を味わおうと、このドラマの動画を見直した。

 ところが、である。法律的視点から見ると、このドラマはトンでもないことだらけだったのだ。

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トラックの運ちゃんに対して轢き逃げを問えるか?

▼獣神サンダー・ライガーが出演した『世にも奇妙な物語』の『覆面』

 まず問題になるのが、このドラマでは軽ーく扱われているが、獣神サンダー・ライガーがトラックにはねられたシーン。このため、ライガーは意識不明の重傷を負った。トラックはその場から走り去っている。

 これは、いわゆる『轢き逃げ』になるのではないか。ちなみに轢き逃げの定義とは『交通事故で人を死傷させた場合、必要な処置をせずにその場から逃げ去ること』とあるのだ。
 これは道路交通法72条の救護義務に違反していることになる。この場合、10年以下の懲役または100万円以下の罰金という刑罰が科せられることになり、結構重い。
 さらにライガーを負傷させているが、この場合は現在なら過失運転致死傷罪、危険運転致死傷罪、準危険運転致死傷罪のいずれかに問われることになる。しかし、当時の法律では業務上過失致死傷罪となり、5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金だ。

 ただ、ドラマをよく見ると、この運ちゃんは確かにその場からトラックで去っているが、ライガーを轢いたことに気付いていない。気付いていないのだから、救護できるわけがないではないか。つまり、この運ちゃんは逃げたわけではなく、事故を起こしたことすら知らなかったのだ。
 もし正式裁判になれば、この運ちゃんの弁護人としては何としても救護義務違反(つまり轢き逃げ)ではないことを立証し、業務上過失致死傷罪のみに持ち込みたいところである。

 ところが、刑事はそれで済んでも、民事ではそうはいかない。幸いにしてライガーは死ななかったが、それでも瀕死の重傷を負ったのだ。かなりの損害賠償金を支払わねばなるまい。
 そちらの方は保険で何とかなるかも知れないが、問題となるのはなぜ居眠り運転をしたのかということだ。この運ちゃんはおそらく仕事でトラックを運転していたのだろう。そうすると、会社が過剰な労働を強いていたのではないか、という疑惑も成り立つのだ。そうなると、この運送会社にも責任が及ぶ可能性がある。

 損害を被ったのはライガーだけではない。新日本プロレスもそうだ。何しろスター・レスラーが重傷を負ったのだから、その損失は計り知れない。
 しかもライガーは、2日後にタイトル・マッチを控えていたのである。そのタイトル・マッチもオジャンになり……。
 あ、あれ? タイトル・マッチ??

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ブラック・ザ・グレートに殺人罪は適用されるのか!?

 そう、タイトル・マッチは予定通り行われたのだ。もっとも、出場したのは偽ライガーだが。
 このとき、新日本プロレスはライガーの重傷を秘匿している。つまり、事故はなかったことにしているのだ。
 そうすると、民事では争えなくなる。それどころか警察にも通報していないと思われるので、この運ちゃんはまさかの無罪放免!? しかも運ちゃんは事故にも気付いていない。
 ただ、被害者が病院に運ばれているのだから、警察に通報されているはずなのだが……。

 しかし、それよりも大問題があるのだ。このタイトル・マッチで人が1人、死亡しているのである。死んだのは、偽ライガーの若手レスラーだ。

 若手レスラーの死因は、相手レスラーのブラック・ザ・グレートが放ったラリアットによる首の骨折。となると、ブラック・ザ・グレートには殺人罪が適用されるのか? なお、ラリアットを食らった後、つまり死んだ後にライガーの魂が若手レスラーに乗り移って蘇生しているが、法律では『魂が乗り移って生き返る』ということは想定していないので、今回は無視する。
 結論から言えば、ブラック・ザ・グレートは殺人罪とはならない。というよりも、何の罪にもならないのだ。

 簡単に言えば、三沢光晴は齋藤彰俊のバックドロップによって死亡したが、斎藤は何の罪にも問われていない。プロレスラーが相手に攻撃を加えるのは『正当業務行為』に当たるからだ。
 プロレスに限らず、ボクシングや他の格闘技でも相手を殴るのは『正当業務行為』になるため、傷害罪にはならない。なぜなら、ボクサーは相手を殴るのが仕事だからである。
 もちろん、相手を殴るのが仕事と言っても、一般社会で人を殴れば正当防衛ではない限り重大な罪だ。リングを離れたボクサーが一般人を殴るのは『正当業務行為』にはならないからである。

 では、試合中でも殺意があった場合はどうなるのか? 生前の三沢は「よく相手に対して『ブッ殺すぞ!』と脅すレスラーがいるけど、それで本当に相手が死んだら殺人罪だぞ」と言っていたが、実はこの場合でも殺人罪は適用されない。『ブッ殺すぞ!』と叫ぶのはファンに対するリップ・サービスでもあるし、仮にプロレスが真剣勝負だとして、相手を殺す気で試合をしても、格闘技にはそれぐらいの気迫が必要、とみなされるのだ。

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 ちょっと気になるのが、ブラック・ザ・グレートは相手が本物のライガーではない、と気付いていたのではないか、という点だ。実況の田中ケロも解説のターザン山本も、今日のライガーはおかしい、と言っていた。実際に闘っているプロが、おかしいと思わないわけがない。
 つまり、相手が未熟なレスラーだと判っていたのに、必殺のラリアットを浴びせるのは、相手が死ぬか、あるいは重傷を負うことは予測できたのではないか。これを法律用語で『未必の故意』という。『未必の故意』でも、殺人罪が適用されることもあるのだ。
 しかし、これも罪にはなるまい。このドラマでは、プロレスは真剣勝負という前提だったし、仮にショーだとしてもブラック・ザ・グレートが得意技のラリアットを繰り出すのは『正当業務行為』だからだ。

いちばん悪いのは新日本プロレス!

 トラックの運ちゃんは逃げ得になり(かどうかは、ドラマではそこまで描いていないのでわからないが)、ブラック・ザ・グレートも無罪で、結局は誰も罪に問われないじゃないか、と思うかも知れないが、実は最も重大な罪を犯している人がいた。
 それが新日本プロレスの社長である。

 ライガーが交通事故で重傷を負っても、その事実を隠蔽し、こともあろうに(コーチの言葉によると)試合経験のない若手レスラーにライガーの身代わりを命じたのだ。しかも対戦相手は、ライガーすら強敵と警戒していたレスラーである。実力差は歴然であり、危険極まりない。
 この社長は、当時の坂口征二社長とは異なり、おそらくレスラー経験者ではないのだろう。だがコーチは「試合経験のない南郷では危険すぎます! コーチとして責任は取れません!」と社長に忠告している。しかし社長はシリーズの成功を優先させ、若手レスラーにライガーの身代わりを強要した。

 つまり、社長はこの試合が危険であることを認識していたのである。それなのに試合を強行して、さらに若手レスラーは死亡したのだから、どう考えても大問題だ。
 この社長は刑事罰には問われないかも知れないが、団体の代表として重大な責任を負うことになるだろう。

 もちろん若手レスラーの遺族が、新日本プロレスを相手取り民事訴訟を起こすのは必定である。将来ある可愛い我が子が、企業の利益のために殺されたのだ。新日本プロレスを信用して我が子を預けたのに、正当な理由での事故死ならまだしも、試合経験もないのにチャンピオンとしてタイトル・マッチをやらされて死亡したのである。

 もちろん、世論も黙ってはいまい。死んだのはライガー本人ではなくデビューもしていないレスラーだと知って、ワイドショーは連日『吉本闇営業問題』どころではない大騒ぎ。何しろ死亡者を出していない『日大アメフト問題』でもあの騒ぎようである。
 さらに、交通事故の隠蔽も白日の下に晒される。社長退陣だけでは済まず、新日本プロレスの信用は失墜し、全日本プロレスは大笑いだ。

 ドラマはハッピーエンドで終わっているが、主要人物が死んだのに、なぜハッピーエンドになるのかわからない。ライガーは自分の身代わりとして、後輩レスラーが死んだことを知って、ショックを受けるだろう。
 手術に成功した弟も「ライガー、ありがとう」などと言っている場合ではないのだ。意識が戻ると、最愛の兄が死んだことを知ることになるし、家族と新日本プロレスとの泥沼の法廷闘争が目の前で繰り広げられるのである。小学生の弟にとって、トラウマになるに違いない。

 ちなみに、このドラマを制作したのは『あの』大映テレビ。山口百恵主演の『赤いシリーズ』や、堀ちえみ主演の『スチュワーデス物語』を制作した、愛憎ドロドロ劇が得意な制作会社だ。
 大映テレビには、この続きのドロドロ法廷闘争を描いてもらいたい。


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