[ファイトクラブ]総選挙ビジネスの終焉とプロレスの数式:6・16アクトレスガール安納vs.本間

[週刊ファイト6月27日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼総選挙ビジネスの終焉とプロレスの数式:6・16アクトレスガール安納vs.本間
 Photo & Text by こもとめいこ♂
・NGT事件とプロレス総選挙
・安納サオリと本間多恵の4年間
・数式に表せないプロレスのロマン
・アクトレスガールズ新木場全カード画像増量でお届け


 2009年から続いてきたAKS他グループによる『AKB48選抜総選挙』の開催が見送りとなった。原因はもっぱら新潟の『NGT』を舞台に起こったメンバーへの暴行事件にあるとされる。
 メディアで散々繰り返し報道されているので詳細は省くが、運営に食い込む程の太客のグループがいて、その意にそぐわないメンバーに対して狼藉を働いた。そしてこの件に対するNGTの対応が非常にグループの体質を表しているのだが、あろう事か被害者であるメンバーに謝罪をさせた事で一気に非難を浴びる事となった。

 これはAKSグループが、いくらでも補充の効くタレントより太客を優先させた極めて実利的な対応をしたに過ぎないのだが、当然社会的にみれば異様な倫理観であって、メディアから激しいバッシングを浴び、今まで運営側と言うべきスタンスで芸能活動をしてきた指原莉乃までもが批判せざるを得ないものだった。

 総選挙中止は一連の非難に対して自粛をするような形とも言えるが、来年2020年は夏に東京五輪が控え、現政権と懇意にしているAKS/秋元康ラインとしては当然総選挙を行うつもりはなかった事も容易に想像できるので、1年前倒しにしただけとも言える。
 またここ数年、総選挙に参加しない坂道グループ(ソニー系列)が人気の面で完全にAKSグループを逆転しているという事実も考慮する必要がある。
 メンバー同士を競わせる体でその実、客同士に課金額を競わせるのがAKS総選挙の錬金術であり、当然、メンバーとしてはパフォーマンスの向上を図って努力する暇があったら特定の太客を捕まえる努力をする事が、即ちグループ内での地位の向上を意味してきたのは間違いない。初期総選挙で首位だった前田敦子が自らへのブーイングの多さに、
「私を嫌いになっても・・・」
と迷言を吐いたのが何よりの証拠である。

 歌や踊りの技術でなく、容姿で人気に差が出るのはまだやむを得ないかもしれないが、人数に関わらず客にいかに金を使わせるかを競う様になればそれはもはや大衆に向けた芸能ビジネスとは呼べないだろう。そして、総選挙に参加しない坂道グループも握手会という接触商法は採り入れている。
 そんな事を10年間もAKS軍団に続けさせ、あろう事か同調してきたメディアや芸能界は自分達が失った将来にわたっての大衆の支持とマーケットにいずれ大きなしっぺ返しを食うに違いない。

 2018年、“最大のヒット曲”は圧倒的にDA PUMPの『U.S.A.』だった事は論を待たない。老若男女にアンケートを採れば圧倒的に誰もが知り、年間を通して何度も耳にした曲だった筈だ。だが日本レコード大賞には坂道グループの、支持者しか知らない、大衆は聴いた事も無い「売れただけの曲」が選ばれた。
 かつても『レコ大』の選出に芸能界の政治的な配慮が取り沙汰されてきたが、それでも何年かして振り返った時に
「あの年はあの曲がヒットした年だった」
と想い出す事ができた。だがそんな『レコ大』はもはや無い。

 AKSの総選挙商法が世を席巻して、色々なジャンルで「総選挙」という名の人気投票が行われてきた。
 我らがプロレスも例外ではなく、その実施主体がかつてAKS批判の急先鋒だった文藝春秋社の『Number』誌というところにはメディアのはかなさを感じさせる。
 しかしその『プロレス総選挙』も今年で最後を迎える事となった。
 昨年14位に食い込んだターザン山本! 氏に言わせると
「何回やっても新日の選手が上位を独占するから」
が、その理由だという。

 筆者は、他ならぬターザン山本! 氏の躍進がその理由ではないかと睨んでいる。去年ターザン山本! 氏の14位の影には、氏の並々ならぬ選挙活動があった。街頭で演説をし、自身への投票を訴えるというのはターザン山本! 氏らしいユーモアがあるし、アンドレ・ザ・ジャイアントパンダ躍進と並んで、プロレスの奥深さを象徴する痛快事ではあった。
 しかし、リング上で“真面目”にプロレスをやっている側にしてみれば、
「ふざけるな」
という事もあろう。何かを買わなくとも投票できるという事は、軽はずみに投票できるという事でもある。

 仮にターザン山本! が首位を取れば
「それなら広告を引き上げる」
という頭の硬い団体も出かねない。それなら内藤哲也が首位を取ってるうちに無難に終わらせた方が得策だという事もできるだろう。 
 もっとも今年は例年と違って、結果を別冊としては発売しないとの事で、単に部数が落ちてきたから止めるだけという可能性もあるのだが。

 週刊ファイト的価値観から言えば、
「ロマンは数式ではない。だから、ひどく主観的で独りよがり。そのくせ、感覚という客観性が、その人でしか採点できない答案を作り上げる」
「世の中の定規などどうでもいい。自分がこうなのだと感覚した主観が客観であり、それが最優先で正しい。人々よ、主観を尊ぶがよい。なぜなら、それが真実だからである」 井上義啓著ベースボールマガジン社『THEプロレス本 No.3 不在証明』より
という事になる。

 そもそも選挙というからには1人1票であるべきだが、それはまあ良い。
 だが、総選挙という名の人気投票を行って、得票が多かったレスラーに年度を代表させるのには首を捻らざるを得ない。主観の羅列である『鷹の爪大賞』こそが『週刊ファイト』の流儀なのだ。

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 プロレス界で総選挙を採り入れているのはDDTぐらいで、あまり浸透していないのは、そういう面もあるだろう。
 また、団体からしてみれば、チケットの予約という、選挙の順位などよりよほど“お米”に直結するガラス張りのシステムもあり、無意味に数字の為にリソースを省きたくないだろうし、選手同士、観客同士がリング外でリアルでいがみ合うのは団体競技のプロレスにはマイナスでもある。

 安納サオリは去年の『プロレス総選挙』で68位、他にアクトレスガールズからはSAKIが98位に滑り込んだのみ。今年の4次速報では40位にジャンプアップ、Color’sからSAKIと茉莉も100位圏内に居るようだ。


 総じて、昨年までより女子選手が比較的上位に入っている印象。『Number』誌の読者層がそうだからだろうが、男子の興行に出た選手が有利で、これが週刊プロレス主催のものだったら女子の比率はもっと上がるだろう。選挙運動はTwitterで呼びかけるぐらいしかする事が無いので、実際の会場における人気、興行での集客力とはだいぶ開きがある。話のタネにはし易いが、『Number』誌読者の多い定規で計った数値だ。

 だから6・16新木場『アクトレスガールズ』のメイン、会場の声援は女王・安納サオリよりむしろ本間多恵へのものが多かった。

 およそ1年半ぶりのアクトレスガールズ頂上対決、前回はJDスターゆかりのPOP王座を賭け、同じ新木場で激突、安納サオリがジャーマンで王座を防衛した。
 その後尾崎魔弓の正危軍入りしてSEAdLINNNGの世志琥との抗争も行ってきた安納サオリ、方やJ@stとのW所属となり、メキシコCMLL出場も果たしたのが本間多恵だ。


 今、安納サオリは28歳、本間多恵は5歳年上で、舞台女優からプロレスに転じた時に今の安納サオリと同い年。怪我による1年間のブランクもあった。そう考えると、よくぞCMLLの王座マルセラに挑むまでになったなと感心する他はない。 

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