4・27 REBELS.55 小笠原瑛作インタビュー

“スピードアクター”小笠原瑛作、2018年の決意

「格闘技の盛り上がりに乗っかるのではなく、引っ張っていきたい。ダウサコン戦で新たな顔を見せて“小笠原瑛作”の価値を高めます」

 4月27日(金)、東京・後楽園ホールで開催される「REBELS.55」。メインイベントを飾るのは、WPMF世界スーパーバンタム級タイトルマッチ、王者ダウサコン・モータッサナイ(ウィラサクレック・フェアテックスジム)対挑戦者小笠原瑛作(おがさわら・えいさく。クロスポイント吉祥寺)。

 小笠原にとっては昨年9月以来のREBELS出場になる。その大会ではジョバンニ・フランク・グロス(フランス)を破ってISKA Kルール 世界バンタム級王座を獲得したが、今回は自身、二本目の世界ベルト獲得のチャレンジとなる。

 2018年のファーストマッチを前に小笠原は何を思うのか。クロスポイント吉祥寺にてインタビューをした。

聞き手・撮影 茂田浩司

撮影(会場) 山口裕朗

2度のダウンを奪われて痛恨のドロー。

「相手が全く見えてなかった」

 昨年12月から今年1月、小笠原瑛作は慌ただしい日々を過ごしていた。

 昨年12月10日に両国国技館での「KNOCKOUT(ノックアウト)」に参戦し、伏兵・高橋亮に2度のダウンを奪われる大苦戦。ダウンを奪い返し、得意のローキックでKO寸前まで追い詰めたものの、倒し切れずに判定はドロー。この1戦で高橋は評価を高め、逆に小笠原の評価は落ち、明暗分かれる結果となった。

 だが、小笠原に落ち込んでいる暇はなく、すぐさま、多摩美術大学演劇舞踏デザイン学科の卒業公演「大工」の稽古に参加した。

「他のみんなは先に稽古に入ってて、僕は試合後すぐに合流しました。1週間から10日で台詞を入れて、物の移動を覚えたりがあったので(笑)。舞台は『第九』と『大工』を掛けてて、僕の役はAキャストでは秘書、Bキャストは大工の役でした。大工の時は、第九が流れる中で物を作らなくてはいけなくて、セリフを言ったり踊ったり大変でした(苦笑)。試合に勝っていれば稽古も気持ちよくいけたんでしょうけど……。でも逆に、試合を振り返ってため息をつく暇もなくて(笑)、そういう意味ではよかったのかもしれないです」

 3週間の稽古と、3日間の公演を終えて、小笠原は「格闘技に通じるところがある」と感じた。

「上手くいかない時、先生に『相手の役者に集中してない』と指摘されたんです。僕は人の評価や人の目線を気にしてしまうので、演技をしてても『先生はどう思ってるんだろう?』『お客さんにウケているのか?』と考えてしまうことがあったんです。

 両国国技館で高橋選手と試合した時も、今思えば集中力に欠けてた部分がありました。集中しないといけないのは、僕と相手の関係性。距離だったり、相手の攻撃を見なければいけないのに『ずっとKOしてきたからKOしなきゃいけない。勝たなきゃいけない試合だ』って、そんな気持ちばかりが先走って、焦ってしまって」

 高橋の狙いははっきりしていた。体の大きさを利して前に出て、小笠原のパンチとローにはパンチやヒジを合わせた。接近したらすぐさま組みつき、小笠原の連続攻撃をしっかりと切って単発で終わらせる。高橋の戦法は明確で、徹底していた。

 それに対して小笠原は序盤からおかしかった。高橋の蹴り足を掴んだ後「ブレイク」と勘違いして足を離した瞬間、高橋のヒジを被弾。不用意な形で最初のダウンを喫して、ペースを乱した。その前から、高橋のパンチとヒジのカウンター狙いを警戒する素振りを見せず、得意のパンチとローを打つことだけに頭がいってしまい、何度も危ない場面を作っていた。

「相手のことが全然見えてなくて『倒そう、倒そう』って(苦笑)。『相手は関係ない、とにかく倒そう』と、そればかり考えていました。

 相手の技を見て、受けて『あ、お前にはこんな技があるんだね』と理解した上で戦わなくちゃいけないんです。そこが相手との駆け引きであって、相手の穴が見つけられたりするんですけど、そこが全然出来てなかったです」

 試合後、小笠原は所属するクロスポイント吉祥寺の山口代表から「しばらく休んでダメージを抜きながら、1から作り直すように」と言われた。

 そこで小笠原は「タイ行き」を決め、舞台が終わるとすぐにタイに渡った。

PKセンチャイジムで

スアキム、プラジャンチャイと練習

「タイにはずっと行きたいと思ってたんですけど、去年はコンスタントに、2か月にいっぺん試合をしてたので行くタイミングがなくて。(山口)会長に『ダメージを抜いた方がいい』と言われた時に、このタイミングしかないな、と。ちょうどウーさんも年末でタイに帰るというんで、ウーさんがいるPKセンチャイジムで練習することにしたんです。

 ただ、2年前に行った潘(隆成)君が『年末で誰もいなかったよ』というんです。ウーさんは『大丈夫!』っていうんですけど(笑)。

 で、行ってみたら選手は3人ぐらいしかいなくて『ウーさん、話が違うよ!』と思ったんですけど(苦笑)、トップ選手の中で唯一、スアキムだけがいたんです。年明け1発目に試合があるそうで。

 またスアキムがいい人で、朝、バイクで練習場所に連れていってくれたり。潘君はワンチャローンにお世話になったというし『強い人はみんな優しいんだな。僕も親切になろう』と思いました(笑)」

 2月のKNOCKOUTで那須川天心と激闘を繰り広げて、日本の格闘技ファンに強いインパクトを残したスアキム・シットソートーテーウ。一緒に練習をして、小笠原はその強さを肌で感じたという。

「KNOCKOUTの前はみんなに『スアキム、どうだった?』『天心とどっちが勝つ?』と聞かれました(苦笑)。僕は正直、分からなかったです。

 スアキムは体がデカかったです。力も強くて、首相撲をやってみて『これは僕には無理だな』と思いました(苦笑)。ただ、マス(スパーリング)をやると、僕の攻撃も当てられたし『天心のスピードなら、当てられるんじゃないかな』と思いましたね。

 僕が『スアキムよりも厄介だ』と思ったのが、プラジャンチャイ(・PKセンチャイジム)です。スピードがあって、テクニックの選手で、今年のMVP候補に入ってましたけどトップ中のトップですね。後半になって田舎から戻ってきてくれて、首相撲とマスをやりましたけど、めちゃくちゃ上手かったです。

 だから、もし『天心対プラジャンチャイ』ならプラジャンチャイが勝つんじゃないかと思いましたけど、スアキムの場合は勝つ可能性もあるけど、ダメージも負うんです。攻撃を当てられるのはスアキムだけど、返ってくるものもデカいのがスアキムなので。

 3週間でしたけど、本当にいい経験になりました」

 PKセンチャイジムで練習してみて「クロスポイント吉祥寺に似ているな、と感じた」と小笠原は言う。

「田舎から強い選手たちが集まって来るジムなんですけど、本当にチームっていう感じなんです。普段は仲間で、お互いにふざけあったりするんですけど、ムエタイのトップ選手がそろってるんで競い合ってるところもあって。強いヤツばかりが集まってるジムですから、若手選手たちを見ていても、ここにいれば強くなるよね、って思いました。

 クロスポイント吉祥寺もそうなんです。ちゃんと先輩後輩の上下関係はあるけども『結果を残せないと恥ずかしいよね』っていう空気があります。

 不可思さん、日菜太さん、T-98さんがいて、潘君、僕、裕典(兄)がいて、みんな同じ土俵でやってて、チームで強くなってますよね。格闘技は個人競技だけども、環境って大事なんだな、って。一人だけでやっても強くなるヤツはいるでしょうけど、集まって切磋琢磨した方が強くなりますよね。それはPKセンチャイジムに行って練習して、改めて感じました」

「2018年版の小笠原瑛作」を

REBELS凱旋で見せる!!

 2017年の小笠原瑛作は、前半は快進撃を見せたものの、後半は失速してしまった。

 現役ムエタイ王者ワンチャローンに勝利するなど、KNOCKOUTでKO勝ちを重ねた後、後半は苦しい試合が続いた。9月のREBELS.53ではジョバンニ・フランク・グロスに勝利したものの、相手のバックブローで2度のダウンを喫し、12月のKNOCKOUTでは前述のように高橋亮に苦戦。

 そうした結果をふまえて、小笠原は2018年に一つのテーマを持って臨む。

「去年とは違う、もう一つ成長した小笠原瑛作を見せて、自分の価値を高めていく、というのが今年のテーマだと思っています。

 今までの試合は、感覚でやってきた部分がすごくあります。練習でも、がむしゃらに練習量をやることで『これだけやってきたから大丈夫だ』と思って試合に臨んで、試合でもがむしゃらに数を打って当ててきて。それで倒せたんですけど『ここで変わらないとダメだな』と思っています」

 KNOCKOUTで連続KOをすることで、キック界で小笠原瑛作の名前が広がった。すると、対戦相手は念入りに『小笠原瑛作対策』をして臨んでくる。その相手にどう対応するかが今の課題となる。

 小笠原は「試合のやり方を変えなくてはいけない」と考えていた時、山口代表から「REBELS.55でのダウサコン戦」を聞いた。

「これは自分を成長させてくれる戦いだな、と思いました。

 去年からみんなに『そんなにがむしゃらに攻撃しなくても、もっと楽に倒せるよ』と言われてて。12月の試合の反省もあって、練習の時からもっと相手を見て、頭を使って、しっかりと狙って打つことを心掛けてやってきたんです。それまでは練習でも感覚でやりすぎていたので。

 そんな時にダウサコン戦、タイ人ですからがむしゃらに行くと一番狙われるんで(苦笑)。しっかりと駆け引きをして戦わなくちゃいけない相手なんで、やっぱり会長のマッチメイクは凄いな、と思いました。

 去年から会長に『小笠原瑛作というブランドを高めていかないといけない』と言われてて、今年は1戦1戦、自分の価値を高めていくことが僕にとっての課題ですね。

 今、格闘技は盛り上がってきていますけど、そこに乗っかるんじゃなくて、引っ張っていきたいです。だから、自分から『○○と戦いたい』とアピールするよりも『小笠原瑛作と○○の試合が見たい!』と言われるようになる。それが今年のテーマですね。

 その意味で、今回のREBELS.55のダウサコン戦は大事だと思っています。去年とは違う小笠原瑛作を見せて『変わったな』と思わせなくちゃいけないですし、2018年の初戦で『なるほど、本当に変わったな』と思わせると、また今年の僕のストーリーは変わっていくと思うんで。

 REBELS凱旋で、成長した姿を見せなきゃいけない、いや、見せます!(笑)

 ぜひ、後楽園ホールに来て、応援をよろしくお願いします」

プロフィール

小笠原瑛作(おがさわら・えいさく)

所属:クロスポイント吉祥寺

生年月日:1995年9月11日、22歳。東京都武蔵野市出身。

身長:168cm、体重:55㎏(試合時)

戦績:32戦28勝(15KO)3敗1分

タイトル:ISKA Kルール 世界バンタム級王者


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