[週刊ファイト1月25日号]収録 [ファイトクラブ]公開中
▼故・橋本真也に関する告白と懺悔 ~十数年前の隠された真実~
by 立嶋博
・ファン心理とビジネスマンとしての矜持のはざまで
・私は同僚を守り、会社を守り、自分を守るためにのみ行動した
・プロレスへの情熱なき者たちのさもしき野望
・私の小狡い立ち回り、そして橋本との絶縁
・私の懺悔 ~いつか彼の墓前で~
橋本大地がリングに立つ姿を見るたびに、実父である故・橋本真也の思い出が蘇る。
筆者は、橋本真也に特別な思い入れがある。あっという間に十数年も前のことになってしまったが、私は彼とビジネスをしようとしていた。
いや、正確にはさせられそうになっていたのだ。
それは有志で投資ファンドを組織し、私をその代理人としてZERO-ONEに送り込み、巡業にも帯同させつつ、関連ビジネスを展開して回収を図る、という構想であった。
細かい内容までは煮詰まっていなかった(恐らく、それを考えるのは私の役目だったのだろう)が、要は橋本真也の経営者としての手腕、そして選手としての高い人気、知名度に依存した、青臭いビジネスモデルだった。
しかし、それは必ずしも夢物語ではなかった。あのとき、私が素直に出向を受け入れていれば、この話は実現したことだろう。
実際、資金の目算もある程度はついていたらしい。私はファンドの中心人物から、具体的な投資金額も聞いていた。
そう、私は出向を固辞した。投資にも反対した。
どうにも胡乱な話だと思った。
なまじ大金が絡んでいるがゆえに、私は早期の破綻を予感した。
興行の世界のつきまとう様々なリスクについて、プロレスについて、そして橋本真也と彼が率いる団体について、このファンドメンバーは正確に理解していないと感じていた。
ファン心理とビジネスマンとしての矜持のはざまで
私は橋本真也という人物が好きであった。
闘魂三銃士と呼ばれるようになる前から、私は彼の危なっかしい試合と見栄えのしない肉体に不思議に心惹かれていた。決め技のフライング・ニールキックは豪快で、時折見せる原爆固めのブリッジは美しかった。
「密航」を繰り返していたファン時代、宿泊先の福岡のホテルのエレベーターで偶然にも試合後の彼と乗り合わせ、上階までのわずかな時間、言葉を交わしたときには、平静を装いつつも内心は狂喜していた。安田忠夫、高岩竜一なども一緒だったような気がするが、舞い上がっていて記憶が定かでない。
仕事で彼と度々会うようになって以降も、私は依然として彼のファンであった。
彼はホテルのエレベーターでの出会いのことは全く記憶していなかったが、私にはそんなことはどうでも良かった。 仮面ライダーの変身ベルトを自慢げに社長室に飾り、いつも明るく世の中を笑い飛ばす鶯色の眼の大男の一助になりたいと、私はいつも願っていた。
そんな折に、突如としてこの投資話は持ち込まれたのだった。
しかし、その話は橋本真也以外の誰にとっても条件の悪い賭けに見えた。
どうすればこの賭けに勝てるのか。
プロレスはプロレス以上の物にはなり得ない。ドラスティックな発展など望めない。余程の僥倖に恵まれない限り、成功は不可能に思えた。
ゴッツァン体質のプロレスラーが、この金をどのように扱うかにも不安があった。彼らの金銭感覚を制御することは、部外者にはできないだろうと思った。
しかも、投資家たちは単なるスポンサーやタニマチではなく、対等なビジネスパートナーになろうとしていた。しかしレスラーたちに、その辺のケジメがつくだろうか。
そもそも、プロレスのインディー団体が投資の対象としてふさわしいとは、私には思えなかった。
ファンドのメンバーたちは本業が不振で、出口の見えない不況の中で合理化と経営の多角化を図ろうともがいていた。それは良い。しかし、その結論が橋本真也であってはならない。
私はそう判断した。
そんな金額を投資するのであれば、もっと利潤が期待できる業界、たとえば化学薬品、金融、新素材、外食、未来型農業、その他研究開発といった分野がいくらでもある。
私はひとりのビジネスマンとしても、そして企画屋としても、この案に賛同することはできなかった。