PPP・あいあいのプロレスラーのフレンズ、尾崎妹加出演のすっごーい! 舞台。 

文責 こもとめいこ♂

 「声優」が裏方の仕事だったのは既に遠い昔の話になった。
 CDをリリースすればオリコンランキング上位に当たり前にランクインし、東京ドームでライブをやれば新日本プロレスを凌ぐ集客、海外へ行けば空港にファンが詰めかける。
 憧れ、目指す職業となると、「なる為の方法」がビジネス化されるのは格闘家同様で、「養成所」「専門学校」「学校内の声優科」が乱立している。
 ビジネス化、乱立、と聞くと、「若者を適当に騙くらかして…」といった印象を受けるところだが、声優養成カリキュラムの育成力は凄まじい。
 例えば松田聖子の娘・神田沙也加と落合博満の息子・福嗣といえば、その浮き世離れしたキャラクターで以前はワイドショーの格好のネタだった。
 その後ワイドショーから消えた時期、神田はニコニコ動画の「ドワンゴクリエイティブスクール」を、落合はTVCMでもお馴染み、「アミューズメントメディア総合学院(AMG)」を卒業し、現在は立派に芸に裏打ちされた声優業を営んでいる。
 神田は先日の結婚報道では「松田聖子の娘だったんだ」とファンに驚かれるまでに独り立ち。また、アノ福嗣君も強烈なタテ社会の声優業界でキチンと社会性を持って仕事中。監督時代にメディアとの確執が元で更迭された落合博満が未だオレ流で生きているのとあまりに対照的だ。
 親バカの下で育ち、七光りで世に出た奔放な2人を矯正させた指導力は特筆すべきものがある。
 とはいえ、当然ながらそんな声優養成システムの指導力をもってしても、30万人ともいわれる志望者全員が希望通り声優になれるわけではない。
 田村ゆかりや堀江唯を輩出した業界最大手のスクール「日本ナレーション演技研究所」は週1回3時間〜レッスンのスクールという敷居の低さもあって、同期生は1万人ともいわれるほど。当然ほとんどの人間は声優になることはなく卒業していく。

 と、プロレス者の皆さまへ日本独特の「声優」と、その養成システムについてつらつらと説明させていただいたところでようやく本題。

 筆者はつねづね「声優になる夢が叶わなかった彼ら彼女らは卒業後どこへいくのだろう」と思っていた。
 そんな4月26日(水)、中野で、その「声優になれなかった卒業生達のその後」を観ることが出来た。
 現在、フリーとしてアイスリボンにレギュラー参戦している尾崎妹加は落合福嗣と同じ、AMGの卒業生であることはファンならお馴染み。
 そしてアクトレスガールズでプロレスデビューする以前から所属していたのが、AMGの同期生による「演劇のろま集団」である。その、第6回公演『欲望さんといっしょ』が4月26日(水)に中野の劇場MOMOでゲネプロを迎えた。
 筆者は小舞台やインディーズライブではお馴染みのシステム、出演者個々の専用予約フォームからチケットを申し込んで中野へ向かった。

アイスリボン 尾崎妹加紹介ページ
http://iceribbon.com/fighter_detail.php?id=33

中野MOMO
http://www.pocketsquare.jp/momo/index.html


 MOMOは中野で小劇場を4箇所運営するポケットスクエアによる約90席の劇場。初めて行って驚いたのだが、交差点の角に小劇場が建ち並ぶ様は圧巻。駅から離れた裏通りで、歩く人はほとんどいずれかの劇場に吸い込まれていく。
 館内へ入ると、すぐに缶バッチや生写真などグッズの物販と並んでチケットの受付を行っていた。入場料以外でもマネタイズを図るのは今やアイドルに限らないお馴染みの戦略だが、入場券の裏に尾崎のイラスト入りメッセージとサインを手書きで入れて用意しておいてくれたのには驚愕。小舞台とはいえ、ゲネプロの入場券2500円でそこまでやるのは破格のサービスに感じた。 
 開演時間ぎりぎりで滑り込むと平日夜にも関わらず既にほぼほぼ満員の状態。19時予定が若干おして、前説を務める2人が登場。慣れた様子で客席を暖めていく。
 
 そして暗転後始まった『欲望さんといっしょ』において、尾崎妹加は、主人公・健太郎の彼女・茂森洋子役(Wキャスト)。健太郎は、リストラされ、現在ニート。再就職先を捜そうともせず、アパートに引きこもる健太郎と、気を揉みながらも自ら働いて支える洋子の元へ、怪しげな訪問販売員や宗教の勧誘が押し寄せて…というのが物語の概要。

演劇のろま集団 HP
http://noromagroup.wixsite.com/noroma

 演劇を観る習慣がなく、評論する術ももたないので感想を書くしかないのだが、個人的には物語としての面白さは希薄に感じた。健太郎の部屋を訪れる怪しげな人物は実はある目的の元に集まっているのだが、序盤であっさり明かされて、どんでん返しがある訳でもない。
 中盤から「健太郎が何故ニートをしているか」に登場人物の興味が集中するのだが、その理由もまた、拍子抜けするようなもの。
 だが、恐らくこの舞台はそうして物語性をあえて希薄にする事で、引き替えにそれぞれの役者の演技に観客の視線を集中させていた。
 これは、同期生が集まって立ち上げた「のろま」の宿命として、年齢がほぼ同じ登場人物に、あまり偏りがないように台詞や役割を割り振る必要があることと無縁ではない筈だ。
 お話の展開に制約が生まれることと、鍛錬の発表の場としての舞台にエンターテインメント性を最大限に織り込む試行錯誤の結果出てきた形なのだろう。
 レスラー全員に見せ場を均等に割り振った10人タッグを思い浮かべてもらえば当たらずとも遠からずか。

 さて、ではその肝心の演技はどうかといえば、これはもう、プロレスラーである尾崎に負けず劣らず個性溢れる俳優陣の熱演、好演に圧倒されるばかりだった。
 小劇場での舞台というと恐らくは学生プロレスの延長のようなインディーズの危なっかしい試合を思い浮かべるかもしれないが、半分正解だが半分は不正解だ。
 『のろま』は大阪AMGの卒業生が集まって2013年に立ち上げられた劇団。アニメのアテレコや洋画の吹き替えが元は役者によって始まり、専業としての声優業が確立した現在も、声の仕事であっても元は役者という考え方は受け継がれている。学校でのカリキュラムでも身体を使っての表現、演劇は基本。卒業時に卒業公演が行われることもある。
 また、代々木第1で座長公演を打つ水樹奈々を始め、関智一の劇団ヘロヘロQカムパニー、福圓美里のクロジなど、プロになった声優による舞台活動も盛ん。
 大河『真田丸』への声優・高木渉の出演が意外なトピックスとしてニュースになるが、元々役者としての研鑽を積んだ声優側からしてみれば、出来ることをやっているまでで、声優としての経験も訓練も積んでいないタレントやモデルやアイドルの声優体験とは似て非なるものだ。
 カールゴッチの元でレスリングを学んだ猪木が異種格闘技戦をやってのけたのと同様、声優達もまた、役者としての真剣を研ぎ澄ましている。
 研鑽の場でもあるとはいえ、「のろま」の団員もそうなのだ。

 また、演技同様感心するのが、その個性的な佇まいと存在感である。
 伊集院光氏がラジオで「2の線に沿って集めたタレントでドラマが作られる事による説得力の無さ」に言及していたのだが、「のろま」の俳優陣からはドラマの臭い、存在感が漂ってくる。
 
 では結局「のろま」の舞台はスパーリングのようなものなのかと思われるかもしれないが、決してそうではなかった。
 あるいは、夢を実現した人、成功者が観たらそう感じるかもしれない。
 だが筆者は、一昨年にアルバイトを辞め、引きこもりこそしていないが、コミュ障気味で、勤め人をするカミさんを朝見送る日々。ライターといえばきこえはいいが、貯金を取り崩して生活するという、48歳としては決して褒められたものではない我が身を思うと、
「健太郎は自分だ! 」
とさえ思ったし、舞台上のやりとりは一々心に浸みた。

 終演後、客席で出演陣が観客と歓談する時間が設けられていた。親しげに会話するのを観るに、一見さんはあまりおらず、彼ら彼女らの友人、同期生達が多かったのだろう。
 声優を目指して学んだものの、未だ果たせぬ25歳前後の若者による、「我らのための」舞台が『欲望さんといっしょ』だった。
 それは、まだ途上であることを確認するための同窓会の場だったのかもしれない。彼ら、彼女らには迷惑かもしれないが、筆者も同じく、未だ途中だと思っている48歳。
 徹夜明けで、ほぼ知らない役者による1時間半の舞台を眠気も感じず見入ったのは、そこに強烈にシンパシーを感じたからだった。
    
 内田樹氏が憲法に関して神奈川新聞に寄稿した一文で「弱者であるがゆえに欲望の実現を阻まれた者が、その不能と断念を、あたかもおのれの意思に基づく主体的な決断であるかのようにふるまうとき、人は「奴隷」になる」と、ニーチェを引用する形で現在日本の抱える病巣を分析していた。

 声優への夢を目標に歩んできた自分の路が閉ざされた時、多くの人は諦めて新たな路を模索していくと思う。劇中、尾崎演じる洋子が健太郎に向かって「おばさんになる前に」と心情を吐露する場面があった。卒業してしばらくは、なんとかもがいても、25歳、30歳、と節目が迫った時に見切りをつける人も多いことだろう。
 だが、なりたい自分になれなかった時に、自らの意思でならないことを選んだと思い、挫折を覆い隠すことで人はどうなっていくのか。
 だから、自らをゆとり世代と自嘲しつつ、あきらめ悪く演劇を続けている25歳の「のろま」集団に、人としての健全性を感じる。
 
 語感でしっくりくるのは『演劇集団「のろま」』だと思うのだが、『演劇「のろま」集団』というネーミングには、恐らく「のろま」な集団という意味がある。
 卒業して5年経った。もう第一線で活躍している声優、役者がいる。
 だが、自分達は未だ「なってない」だけ。人よりゆっくり「なる」のだ。だから「のろま」。
 尾崎妹加のかつてのタッグチーム名が「タートル」だったのも「のろま」のシンボルキャラクターが亀だからだろう。

 そして、そのパートナー播磨佑紀もまた、「のろま」の一員であった。現在はブシロードの子会社「響」に声優として所属、今年大ヒットしたTVアニメ『けものフレンズ』のアイドルユニットPPPの一員としてブレークした相羽あいなその人である。

 シガニーウィーバーも30歳で『エイリアン』の主人公に抜擢されるまで、出演作はチョイ役で出た1作のみの無名の新人だったという。
 物わかり良く踏ん切りをつけることで自ら社会に隷属することが「分別のある大人」だという発想がそもそも既得権益者の欺瞞だ。
 諦めの悪い姿勢こそが、人間が人間らしく自由に生きることではないか。
 25歳の若者達の、静かな、しかし諦めない姿に48歳の、不祥著者もまた、勇気をもらった思いだった。
 彼ら、彼女らには「いくらなんでも48歳にもなって…」と迷惑顔で呆れられるかもしれない。だが、とことんジタバタして往生際悪く文章を綴っていきたい。
 
 次回、「のろま」の公演は9月28日(木)〜10月1日(日)シアターKASSAIの予定。  

尾崎妹加 Twitter
https://twitter.com/sister_plus

アクトレスガールズ旗揚げを報じた本誌記事
https://miruhon.net/61641
https://miruhon.net/23888
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