『真の実力者たち』第1回世界の”TK”阪剛(前編)

総合格闘家“世界のTK”と称される阪剛の魅力が溢れている。海を渡り、日本を代表する総合格闘家となった。ロシアの最強王者・ヒョードルを倒した唯一の日本人でもある。黎明期から現在に至る我が国の総合格闘技の道を切り開き、背負ってきた男の決意と過程、そしてその背景にあったものがテンポ良く書かれている。
背中に背負った、トレーニング中の事故で亡くなってしまった後輩への想い。ファンからの阪に充てた温かなメッセージ。格闘技を始めたばかりの、絶対に忘れることが許されない志。格闘技人生で得た沢山の宝物と生涯の生き方に気がつかせてくれた試練。そもそもなぜ阪は集大成の最後にボクシングを習いに出かけたのだろう?!
何より、当初阪の顔と名前も実績も一致しなかったプロボクシングジムのコーチが、一人の人格者としての人間・阪剛に心酔してゆく過程が面白い。自分の弱さを知っているからこそ、妥協を許さない強さがある。誰にも語られることのなかった引退の真相、賭けた想い。ラストファイトとなったマーク・ハント戦の打撃コーチを勤めたのが著者本人だったからこそ成り立つ二人の会話があり、ここでしか知れないことが多数記されている。
後半では試合の打撃考察と解説が入る。最後の試合が終わった直後に彼が強く感じたこと、それは終わりではなく、“これから”の始まりだった。生涯格闘家の本当に意味が明らかにされていく。著者であると同時にプロの打撃コーチの大地にしか書けないノンフィクション。心温まる、そして熱くなれる作品である。また、打撃の技術本としても充分読み応えのあるものに仕上げられている。

書評 『真の実力者たち』

『真の実力者たち』第1回世界の”TK”阪剛(前編)

商品コード daichikoki001

価格 315 円

ウィッシュリストに追加する »