ブッカーになる方法
キミはプロレスファンで、大会があるとたむろしては、リング設営を手伝ったり、雑用に走ったりする。そのうち、キミの存在はプロレス村で認識されるようになる。やがて有名選手がキミのことを気に入って、基礎を教えてもらうようになる。トレーニングを重ね、つまらない泣き言を言わなくなった頃に、キミはテレビでジョブ役をもらうようになる。あるいは、「カーテン覗き屋」っていうんだけど、誰と戦っても無茶苦茶にやられて負けてみせる。
長い旅と低賃金を辛抱していれば、やがてひょっとすると、才能があればだけど、試合順が段々後ろに行くようになる。そしてうっかりすると、権力を持った誰かに目を付けてもらって、プログラムやアングルに関わるようになって、一息付けるかもしれない。それがうまくいけば、もしかすると、別のテリトリーでおいしいスポットをブックされることになるかもしれない。
年月が流れ、たくさんの地域を渡り歩き、それでもまだ本当にキミがうまくやれてるようなら、トップ・タレントになれるかもしれない。
そしてさらにもしも、キミがプロレスのブッキング方面に興味を示したら、まずは自分のプログラムやアングルに意見をすることができるようになるかもしれない。さらにそれが首尾良く行けば、ではあるが、もしかすると、キミに興味を持ち、キミを育てたいと思うブッカーのアシスタントになれるかもしれない。
それもうまくいけば、今度はどこかのプロモーターがキミのことを信用して、ブッカーとして試験採用してくれるかもしれない。と、こんなところだろうか。ずいぶん簡単だろ。
ボクの場合の話をしよう。ボクは5年間はファンだった。ついで6年間、カメラマンとリングアナウンサーと雑用係をやった。そして7年間、マネージャをやって、ようやくWCWのブッカーだったリック・フレアーのアシスタントになれた。28歳だった。こんなに経験の少ない男が!と眉間にしわを寄せる人も多かったよ。ボクの場合、単なるマネージャだったので、レスラーの経験がなかったというのも克服すべき事実だった。とはいっても、パフォーマンスはこなしていたし、まさにそれこそが肝心なことなんだ。
長い経験がない人がブッキングのポジションに就くなんてことは、ほとんど聞いたことがない。何らかのパフォーマンスもしたことにない人がブッカーをするのはさらに希なことだ。
実際にアングルやフィニッシュ、煽りなどを演じてみて、それらがどんな風に計画され実行されるのか、客はどう反応するのか、何をやるにもちょっとした違いが成否を分けるのだと言うことを、試行錯誤と実地訓練で覚える必要があるのだ。
WWEプロレスのエンタメ・プロレス・アプローチ
「スポーツ・エンターテインメント」は80年代に始まった。この言葉はビンス・マクマホンが考案したもので、プロレスが下流の番組と見なされていた時代に、一流の広告主たちに、プロレスに金を出しているのではないのだと思わせるためのものだった。もちろん、実際にやってることはプロレスだった。
「今夜スポーツ・エンターテインメントを見に行くよ」とか「スポーツ・エンターテインメントのチケットは買ったかい」なんて言ってるファンはいない。特にこの10年ほど、WWEが変革をどんどん進めて、今やプロレスは、制作者よりも消費者のほうが(その作りを)よく知っているという、極めて珍しい商品になってしまった。
WWEの役員やらお偉さん方は、自分たちが本当にプロレス業界にいるのではないと思いこんでるし、(蔑称である)「ラスリン」よりも優れた商品を作り上げたと考えている。ヤツらがマイホームや貯金やそのほかすべてをプロレスからもらっているというのに、ヤツらはプロレスというビジネスにいることを恥じ、その名前を呼ぶことすらしない。
一世代入れ替わるほど新入社員たちも採用してきたが、そのほとんどが真実を何も知らされていない。WWEの社内には、自分たちこそが、これまで一度も成功したことのないようなみすぼらしい三流品を拾ってから、何か全く新しいジャンルのエンターテインメントを創造したと真剣に信じている雰囲気がある。そんな雰囲気は、社内で楽観的にも「ライター」と呼ばれている「クリエイティブ・チーム」の中にもっとも蔓延している。
WWEクリエイティブ・チームの実態
ここ数年、クリエイティブ・チームのトップは、ボスの娘であるステファニー・マクマホンである。彼女は大卒の知的な女性ではあるが、彼女がプロレス興行会社の「ヘッド・ライター」にふさわしい理由は「ボスの娘」だからというだけである。彼女のプロレスの歴史に関する知識はゼロで、とくに、自分のお父さんがいろんなテリトリーを踏みつぶしてきた歴史を全く知らないのは、議会で証言したときに明らかになってしまった。
彼女のパフォーマーとしての経験も、自分で書いたものだけに限定されている。彼女ばかりが悪いわけでもないだろう。大学を卒業したあと、彼女がWWEに入社し、試合に時々顔を出すようになっても、誰もボスの娘に何かを教えてやろうなどと言う、軽率なことをする者はいなかった。夫のトリプルHも、結婚生活や王冠の相続人としてのポジションを守ろうと、お父さんがプロレス業界に残した悪影響についてわざわざ説明するなどという波風を立てるつもりはない。
で、クリエイティブ・チームのトップとして、ステファニーは、自分と同じような人を雇っている。ライティングの学位をもつ大卒者で、多くはテレビやコメディショーを書いたことはあっても、プロレスへのリスペクトはなく、何らかのパフォーマンスの経験もない。
実際、採用に当たっては、プロレスファンである必要すらないそうだ。もしキミがうっかりプロレスファンであることをカミングアウトして、他団体も見てきましたなんて認めた暁には、キミは周囲から「マーク」と見なされ、数日のうちに追い出されてしまうだろう。
そんなコメディドラマのライターや、アニメやゲームのオタクたちは、プロレスに愛があるからWWEに就職したい訳じゃない。いつかは本物のテレビで職を得て、エミー賞でも取ってみたいという夢に備えて、履歴書に箔を付けたいだけなのだ。
ヤツらの書くものは、自分たちとビンスに受けるもの。なにせ「スポーツ・エンターテインメント」の8割は笑えなくちゃいけないというので、ストリッパーのピローファイト、屁たれな冗談、女装、デブ、内輪受けネタ、小人なんかが登場する。実際に試合だけを見ているようなファンは、「スマート・マーク」「スポイルド(甘えん坊)」などと呼ばれて、「プログラム」についてこないヤツとして馬鹿にされる。そう、WWEでは、カスタマーはいつでも正しくないのだ。
ジム・コルネットのプロレス批評:ブッカーの衰退とライターの台頭がアメリカンプロレスを殺す(2)
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