“80’S・プロレス黄金狂時代”Act26【過ぎ行く“闘魂伝承”の時代・橋本真也】

shinyahashimoto.jpg【嗚呼、懐かしき・・・・・・】
『美城丈二の“80’s・プロレス黄金狂時代 ~時代の風が男達を濡らしていた頃”』
  Act26「過ぎ行く“闘魂伝承”の時代・橋本真也」

 1984年4月、新日本プロレス入団。同年9月、後藤達俊戦でデビュー。或いは80’s黄金の時代における論考には取り上げるべき人物ではないのかも知れない。だが、筆者と同年である彼を思うとき、やはりあの時代を内から外からという違いはあれど、共有したのだとの思いは離れがたい。彼もまた一プロレスファンとして“イノキイズム”に己を投影させ、初代タイガーマスクに憧憬の念を抱きつつ、己の信じる道を歩んできた。理想像は違えど、偶像の的を同じくしたとの思いは長く私が彼を従えるきっかけにもなったのだ。

 87年の3月、ヤングライオン杯優勝戦で蝶野正洋に一敗地にまみれた彼も同年、カナダ・カルガリー地区初遠征後、翌年7月にはプエルトルコにて武藤敬司、蝶野正洋と合流。ここにいよいよ“闘魂三銃士”結成の狼火が上がった。時代は更に翌年が“平成”へと続く、まさに過度期。“昭和”の時代はここに静かに幕を下ろそうとしていたのだ。

 90年代、それは新日本マット“闘魂三銃士”の時代。だが、彼は己の、憧れの人々がまさに紆余曲折を経たように「栄光と挫折」を繰り返した。
 思い返すだけでもビッグバン・ベイダーとの死闘(89年4月・9月)や3度目にしてようやくリベンジなったトニー・ホーム戦(91年9月)、猪木・坂口の“黄金コンビ”に蝶野と挑んだ90年2月の東京ドーム決戦。94年の9月にはグレート・ムタを破り、悲願のIWGP王座戴冠を果たしたり、98年には8度目の出場にして遂にG1優勝という称号を得たりした。何より、WAR時代の天龍源一郎(94年2月)や時の「現場監督」長州力との一連のIWGPタイトルを巡る攻防、G1戦線における、がっぷり四つとも言うべき闘いは未だに記憶に留まっており、あの高田延彦が率いたUWFインターとの抗争劇(96年4月)も忘れえぬ、時代をまさに象徴するかのような一戦でもあった。

 99年1月4日、世紀末という単語が巷に飛び交うようになり始めた、20世紀終焉を明くる年に控えたこの年、新年、彼は小川直也という“異能”にもみくちゃにされた。が、どこまでも彼は師・猪木に忠実ではなかっただろうかと、いま、改めて思う。1・4戦後の控え室。「猪木~!!こらァ、許さないぞ!!」と大声を上げてなじる姿にも何かしら「何故なんだ!?猪木さん」という哀感が仄(ほの)見えて私には到底、嗤(わら)える代物ではなかった。

 彼は若手の時代から恒にアントニオ猪木という、プロレス界の“巨星”の影を追い続け、研鑽(けんさん)を積んできた。“闘魂三銃士”結成直前、三銃士合流先であるプエルトルコの地で、師と交わした有名な言葉。
 「橋本?……前田とやれるか!?」
 「やれます!!」
 前田とは無論、新日本の兄弟子・前田日明のことであり、前田はこの年5月にあの有名な長州力顔面襲撃事件を経て、第2次UWFを旗揚げ、破竹の勢いにあったから、果たして猪木が心底、どれほどに橋本に期待していたかはともかく、猪木が発したこの“殺し文句”とも言うべき言葉の奥に、橋本が自身に対する意気を強く感じたことは疑いようがないであろう。

 一部では、猪木は生前、橋本のことを振り回すだけ振り回したのだ!!と揶揄(やゆ)されもしたが、いまとなってはもしや振り回すほどに可愛かったのだ、との懐かしい思いも抱かずにはおれない。“闘魂三銃士”の中で殊更に“闘魂伝承”などと師を強く意識したかのような旗を掲げていたのは橋本自身であったし、織田信長のように太く短く生きたいと時にマスコミの取材時、語っていた彼を「このやんちゃ!!」がと、トンパチ振りに目を細めていた猪木の光景も思い出され、微笑ましい思いも尽きぬ。

 小川直也という“異能”との闘いを経たことにより、一新日本マットという域を超え、その戦果は世間一般へも飛び火した。もともとが異種格闘技の中で最も強者足れ!!ということを標榜してきた団体なのだから、柔道界の猛者を向かえ、立ちはだかる佇まいは、やはり選ばれし者でなければ得られぬ立ち居振る舞いというものであっただろう。そう、猪木に憧れ、“闘魂伝承”という旗を揚げたときから、小川直也との闘いは宿命付けられていたのだ。

 だから、あの晩年、小川との一連の闘いさえなければね……と橋本のキャリアを指して嘆くファンも多いのだが、さにあらず。やはり、小川との死闘あってこその橋本だったのだとの思い。

 そんな“闘魂伝承”の時代も、いまやユークス下の新日本マットにあって、遠く、記憶の闇に葬られようとしている。
橋本が死して早4年の歳月が訪れようとしている今、その橋本自身が世間から少しずつ忘却の彼方へと追いやられようとしているのだ。同じようにまた橋本自身が大いなる夢を馳せた時代も微かな余韻を残しながら遠くへと遠くへと退いていこうとする。
 人気低迷が長期化して久しい昨今のプロレス界にあって、ファンが橋本自身におのれを投影させ、憧れた猪木の後ろ背を見やるかのように声援を送る。「心の底から熱くなれた時代」そんな青臭い時代がいまとなってはただあまりにも懐かしく思われて仕方が無い。
                                   (筆記・美城丈二)
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