プロレス界の女帝、ブル中野

 前回、眼光 鋭いレスラーがプロレスを面白くしてきた……という独り言を書いたが、これだけ数多くレスラーがいれば もちろんその「例外」もある。
 『ブル中野』様がそうだ。女帝といわれるブル様の眼差しは、それはもう 優しくて柔らかくて…どんなに凄んでも、人の良さが滲み出る「あの眼」…そんな瞳の持ち主であるが、ブル様こそ、女子プロレス界を大変革させてきた偉人なのである。
記憶があいまいだが…確かテレビだと思う。ゴルフを始められたブル様のお姿が映っていた。

 アメリカ・サーキットの時に勉強したウエイトトレーニングの成果か、めちゃくちゃスリムになっていた。170㎝の身長のためか、ホントにスッキリしたシルエットに見えた。…で、お顔がこれまた可愛いかったりする。癒し系のテレンとした眼が、より愛くるしさを演出している。今 言うところの「女帝萌え」だ。(全女オーディションに合格した頃のブル様は、すでに可愛いかったが。)

 話がそれたか。
 ブル様は元来 気性の激しいタイプではなく、ひたすら真面目でプロレスに対してストイックな人だ。団体トップの座に着いても なお 新しい事を取り入れようと、後輩から「ムーンサルトプレス」を教わるお姿は、「プロレス・LOVE」。
 考えてみれば、「クラッシュ」や「ダンプ」引退後の『全女暗黒期』を立て直した人である。たとえ、武道館や東京ドームが満員になろうとも、そのブームを決して信用してなかったのだと思う(北斗もそう)。だからこそ次を見据えて、プロレスを探究していたのだ。

 そもそも、ブル様以前の女子プロレスブームは、微妙にプロレスとはズレていて、「ベルばらブーム」の追い風から「宝塚」的な盛り上がり方をしていた。それは、お目当ての「ビューティ」や「クラッシュ」が出ていない試合の時、一部の女性ファンは席を立ち、廊下で立ち話をしていた…とか…「クラッシュ大好き」のあまり、ヒールレスラーに自転車のベルを投げたりする 分別つかないファンが出てきたり、とか…なんだかよくわからない取り巻きが支えていた時代だった。

 1990年11月14に横浜文化体育館で行われたアジャ・コングとの金網デスマッチ。
 あの日…ブル様が金網のてっぺんで両手を合わせた時、全てが変わった。あのシーンを見て、背筋がゾクッとしたプロレスファンも多いと思う。当然である。「時代が変わった瞬間」なのであるから。

 ブル様は、いつでも「プロレス」と「後輩」の事を大切にしていた。WWWA世界シングル王座の赤いベルトを約3年間も守り続け、価値を最高潮にまで上げ、そしてプロレス史に残る後輩レスラーを育て上げた。だから、11.20「憧夢超女大戦」のような『奇跡のドラマ』が生まれたのである(俺は、あのビデオを見ると涙が止まらない)。
 ブル様の『眼』。それは、時に厳しくも優しい「母親の眼差し」そのものなのである。

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 昨今登場した女子プロレスラーといえば、今のプロレス界を表すかのように低迷の一路を辿り、キャラの立っている人も少なければ、面白い試合を見せてくれる者も少ない。故に彼女のようなプロレスラーを望んでしまうのだろうか。
 今、相方のダンプ松本が復帰し、プロレス界を立て直そうとしているのであるが、おそらく一人では難しいであろう。ダンプ松本に加え、ブル中野のような選手がリング上に降り立ち、このプロレス界に再び変革をもたらしてくれる事を切に願う。

櫛引圭太・漫画家(山口敏太郎事務所)