『「ワールドプロレスリング」を創った男・第4章』書評の頁

 『「ワールドプロレスリング」を創った男・第4章』書評の頁
  美城丈二・書評の頁“読み手研鑽”
 Act・4『プロレスファンを熱狂させた異種格闘技戦の真実』

 新日本プロレス黄金期の名物プロデューサー・栗山満男氏の著作を再び紐解く。

08.7.1kuriyama4.jpg 昭和54年8月2日。当時、日本武道館で繰り広げられた全米プロ空手世界ヘビー級王者と称したザ・モンスターマンと猪木との一戦を私はリアルタイムでTV観戦している。試合後に肩車され、大きく両手を広げ館内の歓声に応える、安堵の微笑みと共に涙した猪木の表情が未だに記憶の一断片として横たわっている。世界中から批難と冷笑を浴びたあのアリ戦の風評が為、閑散としていた各会場での熱気を一気に取り戻すかのような名勝負であった。

 緊迫感では、極真の“熊殺し”ウイリー・ウイリアムスとの一戦には遠く及ばないが、相手の力量を見切り、ラウンド後半、受けに終始し、最後はのちのパワーボムの原型ともいうべき荒技で持ち上げたモンスターマンを思いっきりよく叩きつけて、とどめのギロチン葬。裁くレフェリーの大きく振りかざす1カウントごとの仕草に、まさに息を呑むように成り行きを見守ったものである。

 この著作では、そんなザ・モンスターマンとの死闘のありよう、実現に至った背景や、幻に終わった猪木vsフォアマン戦の舞台裏、チャップ・ウエップナー戦、ランバージャック戦等のようそうが克明に綴られており、改めて勘考を起こさずにはおれなかった。

 のち“大邸の悲劇”として猪木信者の間で語られることとなる、当時、韓国の雄であったパク・ソンナンとの二度に渡るセメントまがいの闘い模様にも言及なされており、風聞でしかなかったその2戦の実態がTV中継プロデューサーとしての視点からあきらかにされている。

 それまでの断片的な、様々な関係者の証言を裏付ける意味でも貴重な資料的価値のある一文であろうと思う。TV生中継中にも関わらず約40分間にも渡り、リング上にメーンエベンターである、まさに主役であるはずの猪木とパクが現れないという異常事態。

 なんとか当地の王者として華を持たせて引き分けに持ち込みたいパク側の思惑と“世界の猪木”として八百長まがいの試合はしたくないとする猪木側との駆け引きが生々しい。
 記述はキム・クロケイド戦、そして筆者も思い出深いウイリー戦へと及び、舟橋慶一アナや劇作家・梶原一騎氏との一連のやりとりも稿になされており、記憶の断片をひとつひとつ紐解いていくには誠に愉しい作業、“読み手研鑽”でもあった。

 アントニオ猪木、一連の“異種格闘技戦”。
 好意の目で見やる識者は、あれこそがこんにちの総合格闘技隆盛を招いた原型、とまで論じる。
 そんな原型の裏舞台をTVプロデューサーという視点からまたうかがい知るのも一計であろうかと思う次第である。
 ⇒『栗山満男・ミルホンネット著作集』