フランク・シャムロック王者陥落 アメリカ格闘技ブームと“レジェンド”

 ミルホンネットで既報の通り、地上波NBC放送との契約で勢いに乗るエリートXCとストライクフォースの共同イベントが2008年3月29日(現地時間)にカリフォルニア州サンホゼで開催された。
ストライクフォースの地上波NBC放送、4月12日土曜深夜午前2時に決定
 メインは地元の英雄“レジェンド”フランク・シャムロックに、ストライクフォース全勝で勢いに乗る同じくサンホゼを地元とするベトナム系アメリカ人、ISKA散打全米ライトヘビー級王者でもあるカン・リー。
 下馬評ではフランク・シャムロック優位と言われていたが、結果は3R終了時点でカン・リーの左ハイでフランクの右手首が破壊され、負傷で試合続行不可能となりTKOでカン・リーの勝利、新ストライクフォース世界ミドル級王座に輝いたのであった。
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 試合は序盤からカン・リー優勢、距離を詰めたいフランクに対し、カン・リーが前蹴り、ミドル・サイドキック、さらにはバックスピン・キックなど多彩な蹴りで距離を取り、フランクにペースを握らせない。苛立つフランクが踏み込めばフックやキックで迎撃するリー。1、2Rはややリーのペースで、自身のスタンディングゲームだけで判定勝利をもぎ取る戦術に見えた。フランクは焦りからか挑発を繰り返す展開が続く。
 3R、フランクの右パンチで形勢逆転、リーをケージに追い込み、ひざ蹴りも交えて打撃ラッシュを仕掛けるが、終盤には逆転され、リーの左ハイキックが連続ヒット。そのハイキックを右腕でブロックしたところ、負傷し、フランクはラウンド終了と同時に倒れこんで試合続行不可能に。リーのTKO勝ちとなった。
 フランク・シャムロックが一本負けするのは11年ぶりのことである。
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3R終了直後、うずくまるフランク 画面には苦しそうな表情がアップに
 もっとも、マニアの間ではこの結果は当然と捉えられている。
 フランク・シャムロックはかつてのUFCミドル級(現在ライト・ヘビー級)の絶対王者であり、1999年9月24日、UFC 22にて行われた伝説のティト・オーティス戦で圧倒的不利という下馬評を覆し激勝。これによって世界の総合格闘技中量級のトップであり“レジェンド”となったのだ。
 しかしこの試合の後、フランクはUFCを撤退。ブランクを経て主に地元カリフォルニアを中心に試合を行うも、40歳を過ぎてはじめて総合格闘技に挑戦するシーザー・グレイシー戦(2006年3月10日、ストライクフォース)など実力査定にならない相手との対戦が多かった。
 さらにシーザー戦後に行われたヘンゾ・グレイシー戦(2007年2月10日、エリートXC旗揚げ戦)ではテイクダウンを奪われ終始押さえ込まれ苦し紛れに反則をして失格負けになっており、この時点でもはや現在のトップ選手には勝てないだろうと格闘技マニアの間では評されていた。
 その後、フィル・バローニ戦(2007年6月22日、ストライクフォース)で勝利するも、バローニが勝ったり負けたりムラのある選手だったので、高い評価にはなっていなかった。おまけにバローニは、この大会で薬物検査にひっかかり、半年間試合ができなかったいわくつきの試合でもある。
 そして今回、伸びてきたカン・リーに敗れ現在の等身大を晒した結果となったフランク。この試合は完敗では無いし、リーを追い込んで仕留めるのも時間の問題かと思わせる場面もあったが、リーの一撃の破壊力の勝利でもある。
 リーはこれまで無敗だが、大物選手との対戦は今回が初めての選手であるのでどうしても“レジェンド”フランクの評価が下がる結果になるだろう。そしてこの流れはかつて格闘技ブームだった頃の日本に似ていると言える。
 かつて格闘技ブームだった日本は“レジェンド”に大金を与え、等身大を晒す場所に連れてくる事によって活性化していた面があった。即ち、総合格闘技のパイオニアであるホイス・グレイシー、プロレスリング世界王者の高田延彦、大相撲、横綱の曙、極真世界王者のフランシスコ・フィリオなど。どの選手も一度は現役を引退、もしくはセミ・リタイヤ状態だった“レジェンド”で、彼らに大金を与える事で現在の等身大を晒させたのあった。
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新レジェンドとなった王者カン・リー 画像はすべてSHOWTIME中継映像より
 フランク・シャムロックもUFC撤退後、大金を得られなければ試合をしないと公言していた。当時のアメリカ総合格闘技シーンは今の様なブームでは無く、フランクが納得出来るギャラを用意するのはほぼ不可能だった。そしてフランクは数年に1度のイージー・ファイトと「俺がMMAのキングである」と言う自信過剰な毒舌で、総合格闘技中量級トップ選手の地位を守ってきた。
 しかし、現在、アメリカの総合格闘技ブームでフランクの納得出来るギャラを用意出来るようになった為、厳しいマッチメイクを組んだ結果がこのカン・リー戦だったのであろう。
 思えばTUFの成功と共にUFC躍進のきっかけとなった、UFC60(2006年5月27日)のマット・ヒューズvsホイス・グレイシーも“レジェンド”の等身大を晒す試合であった。あの時、日米の格闘技シーンの本場が入れ替わったのかもしれない。
MMAに目覚めた北米大陸「UFC60」
 尚、この大会のセミ・ファイナルではストライクフォース世界ライト級タイトルマッチとして、王者ギルバート・メレンデスがガブリエル・リムレイ相手に防衛戦を行い、2R、TKOで勝利を納めている。
メインイベント ストライクフォース世界ミドル級タイトルマッチ 5分5R
○カン・リー(挑戦者) (3R 終了時 TKO (右腕の負傷))×フランク・シャムロック(王者)
ストライクフォース世界ライト級タイトルマッチ 5分5R
○ギルバート・メレンデス(王者) (2R 2’18” TKO グランドパンチ)×ガブリエル・リムレイ(挑戦者)