美城丈二の“80’S・プロレス黄金狂時代”咆哮と鮮烈ハンセン&ブロディ

  『美城丈二の“80’S・プロレス黄金狂時代 ~時代の風が男達を濡らしていた頃”』
  Act⑪【忘れがたき咆哮と鮮烈“ハンセン&ブロディ”】
 ひとくちに“最強タッグコンビ”と言っても、いつ、どの時代からプロレスを見始めたか?或いは好意を持つレスラーの違いによって、ひとそれぞれ異なることは論を待たないであろう。
 筆者にとってはやはり忘れがたい“最強異人タッグコンビ”と申せば、スタン・ハンセンとブルーザー・ブロディ、この二者のタッグコンビにとどめを指す。次点としてはザ・ロード・ウオリアーズ辺りだろうか?
 そんなハンセンとブロディの再タッグ結成の経緯に関しては、ハンセンの自叙伝『魂のラリアット』双葉社刊に詳しい。
 あの「黒い呪術師」アブドーラ・ザ・ブッチャーの“衝撃”の川崎劇場・新日本移籍に端を発した「猛虎」T・J・シンや「人間山脈」A・T・ジャイアントら、そしてブロディの思惑等、時のプロレス黄金期におけるトップ異人レスラーたちの心情が、ハンセンという長く日本のマーケットなるものでトップを張り続けてきた者からの視点として赤裸々に語られており、いま読み返してみても興味は尽きない。
 この手の著作に全幅の信憑性を求めはしないが、読み物としては面白い。たとえ口述筆記であったとしても(筆者注『魂のラリアット』がそうであるというわけでは無い)どこかにその著作者自身の本音が見え隠れしているものだから。
 そこを読者は読み解こうと計り、ハンセンの“本音”の部分にプライドを匂わせる記述が多々見られたりして、往時を窺い知るにはひとつの示唆とも成り得る。
 ハンセンはいかにして当時、新日本・全日本でトップ外人足りえたシン・ブッチャーを超えようとしたのか?そのひとつのハンセン自身の見解は“薬に頼らない身体作りと終始動けるスタミナ、心肺機能を強化すること”。
 新日本と全日本の違いは、故G・馬場氏が“絶対トップ”として君臨していた全日本に対し新日本は猪木氏を頂点としながらも絶対的なヒエラルヒー【Hierarchie】では無かったとの点。
 新日本における往年の仕掛け人・新間寿氏の介入が良くも悪くもいかに異人レスラーにおいても将来に対し危惧を与えたか?読み取れる記述もあり、考えさせられるものがあった。
 全日本、故馬場氏とハンセン自身のプロレススタイルの違いにおいても言及が見られ、絶対的な権力者では無かったからこそ猪木氏との抗争がいかにスリリングに満ちていたか、書き綴られており、そういう対外的な側面がリング上に影響を及ぼす背景こそプロレスリングなる誠に特殊なジャンルの奇特性をも思わせ、愉しんで先を読ませる書物であった。
 ブロディにおいてもいかにも“らしい”エピソードが多く、ウエスト・テキサス大学フットボール時代からの盟友が普段日常、“トップ外人”としての誇りを胸にどう、過ごしてきたかが語られており、まさしくリアルタイムで目撃し続けてきた往時の筆者の記憶を手繰り寄せつつ、懐かしむには好読み物でもあった。
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魂暴風*a martial art side2 感涙の”トップ外国人”プロレスラー篇
 そんなB・ブロディも馬場氏もファンク道場の同期生であった鶴田氏も、もうこの世には存しない。隔世の感とはまさしくこのことである。
 そこに往年からの一プロレスファンとして淋しさは恒に身に纏わり付くが、ハンセン・ブロディコンビは“永遠不滅の最強コンビ”として、プロレスというジャンルが枯れぬ限り、未来永劫、語り継がれることであろう。
 「ウエスタン・ハットを被ったナイス・ガイと、咆哮と共にリング内外で暴れまわった漢」ハンセンとブロディ“ミラクルパワーコンビ”は私の中では最高の異人タッグチームとの思いが強い。
 “悪くて強い奴”いつの時代でもそういう輩は強烈に見る者に憧憬と畏敬の念を起こさせるものだ。馬場氏、鶴田氏と共にブロディ“フランク・グーディッシュ【Frank Goodish】のご冥福を今一度、ここに祈念してこの稿を閉じたいと思う。合掌