昭和プロレス「少年たちとプロレス」1章 3節 ニックボックウィンクル

レッスルマニア団長ターザン山本!がWWEのエンタテインメント論を語りつくす
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 このコラムでは、木村健吾、ラッシャー木村と微妙に功績のあるヒーローをまったりと語ってきたが、今回はアメリカの名優・ニックボックウィンクルである。
 ニックと言えば、不動のAWA世界ヘビー級王座である。我々昭和のプロレス少年からするとAWA王者といえば、帝王・バーン・ガニアのイメージも強烈だが、このニックのダーティチャンプぶりも忘れることはできない。35歳以上のプロレス通な方なら、ジャンボ鶴田との死闘がゴールデンの特番枠で放送された事を覚えているだろう。
 数々のダーティな攻撃や、いぶし銀の受け身で鶴田を追い込んだ役者ぶりは憎らしい程であった。特に鶴田の締め技で弱ったふりをしていながら、隙をついて忽ち蘇るトリッキーな動きやルー・テーズ直伝と言われた(へそで投げるバックドロップ)を堂々と受けてみせるプライドなど、ニックのプロレスは、もはや芸術の域まで達していた。古本の読み返しなどではわからない、記憶に残るレスラーの1人である。
 当時、バリバリの新日本の信者(かなりの馬鹿学生)であった筆者も、弟と共にテレビにかじりついて鶴田を応援した事を思い出す。この名優・ニックボックウィンクルが父に言われた言葉は、少年たちに素敵なドキドキ感を与えた。
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「(リング上で)相手がワルツを踊ればワルツを踊れ、ジルバを踊ればジルバを踊れ」
 まさに名言である。この言葉がプロレスという共同作業の本質を意味している事は容易にわかる。だが、この言葉は人生においても大きな教訓ではないだろうか。どんな仕事でも、一方的に他人を中傷したり、他人との協調を拒否する人間はいつか必ず葬られるものである。
 人間の仕事での成功や成果は他人の協力や後押しなしでは成立しない。相手のワルツやジルバに合わせられる(心の余裕)こそ、大人の証なのだ。自己中心的な昨今の世相を見るにつけ、ニックの姿を思い出してしまう山口敏太郎であった。