昭和プロレス「少年たちとプロレス」1章 ラッシャー木村とガメラの日々

 いきなり、断言する。「プロレス好きは怪獣好きが多い」
 仕事の一環でプロレスに関わるようになった連中は除き、ガキの頃からお小遣いでプロレス雑誌を購入し、レスラーに本気で憧れていた男たちは、間違いなく怪獣好きである。特に35歳以上は、低学年の頃、「怪獣博士」と呼ばれ、高学年になるにつれ「プロレス博士」に呼称が変わったという“痛い人生”を送ってきたはずだ。私も含め、真に素晴らしい「プロレス馬鹿」ぶりである。
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金網デスマッチの鬼と呼ばれたラッシャー木村はガメラ 初代ウルトラマン(右)
 それにしても、贅沢な世代である。円谷プロが巻き起こした怪獣ブームで育ち、新日本プロレスが巻き起こしたプロレスブームに移行するなど、子供の頃からサブカル街道まっしぐらである。こうやって振り返ると、70年代からサブカルブームが生まれたのは当然と言えば当然かもしれない。
 80年代末期、大学時代仲間と呑んでいると、度々怪獣談義やプロレス談義に話が飛んだ。そんな時、話題に上るのが、(どの怪獣映画・怪獣ドラマが一番素晴らしいのか)というテーマであった。
 「俺は断然、怪獣王・ゴジラだ」と熱くなる平均的な思考の輩(得てして、巨人ファンで、自民党が好きだったりする)がいると思えば、「やっぱり、ウルトラマンシリーズ」と主張する王道派(勿論、全日本ファンだ)もいる。中には「俺はガッパだ」「俺はバランだ」と抜かす変わり者(アメプロや女子プロのヘビーなマニアであったりする)もいる。
 更に、「ガメラの痛々しいのがたまらん」と言う動物愛にあふれた者もいた。この手のマニアックな奴は、国際プロレスを心から愛していることが多かった。
 昭和の頃、読者諸兄もご記憶の事だと思うが、国際プロレスの地方興行などは、試合が始まってしまうと、小学生を無料で入れてくれたりする旅芝居的な暖かさがあった。故に、その優しさに感動した者たちは、ビル・ロビンソンやラッシャー木村のファンとなったのだ。こうして各地に狂信的な国際プロレスマニアが誕生したのだ。
 今、思い返せば、圧倒的なパワーで相手を粉砕するゴジラは、確かにキラー猪木であり、セオリーどおり3分間の中で見せてくれるウルトラ兄弟は全日本プロレスであった。そして、何度もいたぶられ、投げつけられ、夥しい流血の上、辛くも勝利するガメラは、あの頃国際プロレスのリングで仁王立ちしたラッシャー木村である。
 
 カッコ悪くとも、弱くとも何度でも立ち上がる寡黙なヒーロー・ガメラと木村。
昭和と呼ばれたあの時代、男は黙って仕事をしたものである。おしゃべりな男は去れ。
負け犬程、よく吠えるものだ。
 
                     山口敏太郎・山口敏太郎事務所