松本幸代のミルブロ!

【ボクシング療法】
今日は池袋の榎本クリニックで、ボクシング療法のクラスに参加してきた。
ここはおもに精神科のデイナイトケアセンターで、薬物、アルコール、ギャンブル、摂食障害、買い物依存など、様々なアディクション(あることにのめり込んでやめられないこと)に対応している。
榎本クリニックは治療の一環として週3回、ボクシング教室を開催していて、初代女子ボクシング日本フライ級王者の八島有美が、講師として招かれている。彼女やボクシング療法の取材をするために昨年2回、見学をさせてもらったのだが、今回いよいよ私も参加してみることにした。
格闘技とプロレスの取材を続けてかれこれ10年になるが、自分でやるのは初めて。初グローブ、初サンドバッグ、初スパーリングだ。前の晩はどうにも緊張して、「一応ステップぐらい覚えておくか」と部屋で前後に揺れてみたけれど、すぐにふくらはぎに鈍痛が走りやめてしまった。だから正真正銘のぶっつけ本番だった。
その本番がどうだったかといえば、いやあ、できなかった。かっちょ悪かった。
それでも恥ずかしいとそんなに思わなかったのは、年齢のせいでようやく羞恥心みたいなものから解放され始めてきたのと、まわりの人々の雰囲気のせいだろう。
参加者には、今でも薬をやめられなかったり鬱だったり、とにかくいろいろな人がいて、それでもグローブをつけると、ビショビショに汗をかきゼエゼエ言いながらサンドバッグやスパーの相手と格闘する。疲れたら、とりあえず休む。休んでも特に叱られることもない。みんな自分のリズムで1時間半を過ごす。
そういう空気の中にいると、なんだか自分の情けなさも「まあ、いいか」と許せてきて、頑張って連打をした後などは、素直に「自分で自分をホメてやろうか」という気にもなる。ふだん生活していると「ああ、あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ」と強迫観念に背中をつつかれることが多いけれど、ここでは誰からも強制されないし、見えない何かに背中をつつかれることもない。肌に当たる空気がチリチリしていなくて、心地いい。
まあ、そんなこんなで、へっぴり腰のボクシング初体験が終わったわけだが、取材そっちのけでボクシングを楽しんでしまったことに一抹の不安を感じる。これでいいんだろうか。とりあえず…いいか。とにかく仕事の合い間を縫って、週に一度は通ってみることにしよう。