プロレス美術館館長の「迷走ナビゲーション」

 新日本プロレスの今シリーズ(創立35周年TOUR Circuit 2007 NEW JAPAN ISM)の最終戦にカート・アングルのワンマッチ参戦が決定した。
 だが“アングル参戦”と聞いても、どうも心が躍らないし、ピンとこない。理由は簡単。迎え撃つ日本陣営が貧弱で、真のエースが不在であるため、夢のカードが想像できないからである。アントニオ猪木が新日本プロの絶対的エースだったころは、大物外国人選手が新日本プロに初参戦すると、猪木との頂上対決が絶対的な切り札として一定期間温存されていた。来日すると、まずは若手選手を中心としたデモンストレーションから始まり、6人タッグマッチでお茶濁し。これで1日でも長くファンの興味を引っ張るかは、マッチメーカーの腕の見せ所でもあり、団体運営のセオリーでもあった。
 だがそのセオリーを無視し、初登場(初参戦)でいきなり猪木とのシングマッチを打ち上げ、ファンは度肝をぬかされることもあった。その最も衝撃的だったのが、ブルーザー・ブロディを全日本プロから引き抜いた際の両国国技館での猪木vsブロディ(昭和60年4月18日)である。だが20年という年月が経った今日はどうだろうか。ずばり、マッチメーカーの手柄うんぬんの問題ではないほど新日プロの選手層は弱体化している。大々的に超大物外国人選手であるアングルの参戦を発表しても、反応したのは一部のWWEマニアのみ。当然、彼らが、期待したのは元WWEスーパースターのジャイアント・バーナード(WWE参戦時はA・トレイン)とのシングルマッチのみ。バーナードが新日プロの常連外国人選手でなければ、さらに興味は薄れていただろう。
 また同じ質問を、プロレス美術館の常連会で、新日プロのファンにぶつけてもやはり、真っ先に挙がるのが、このアングルvsバーナードで、日本人絡みのカードに期待感はない。本来ならば、新日プロのエースの称号である現IWGP選手権保持者、棚橋弘至や同タッグチャンピオンである中西学とのシングルマッチが浮上しなければならないが、これらのカードを“ドリームマッチ”と呼ぶには、かなり無理がありそうだ。この事実が、現在の新日プロに“事実上のエース不在”であることを証明しているかのようである。
 かといって、80年代の全日本プロレスがそうだったように、外国人同士で興行のメーンイベントをマッチメークできるほどのブッキングルートも資金も人材も乏しい新日プロ。ユークスを通じて、全日プロと業務提携関係にある現在、敢えて夢のカードを挙げれば、アングルvs武藤敬司、あるいはvs高山善廣あたりだが、このカードですら両国国技館がフルハウスになるとは思えない。