松本幸代のミルブロ!

【ライバル関係】
1月4日は全日本キック、1月8日はJ-NETと2007年初春はキック詣(もう)でで幕を開けた。両大会で印象に残った試合は、奇しくもすべて“ライバル”をキーワードとするものだった。
全日本キックのセミでは、ムエタイの“壊し屋”クンタップに左目をふさがれながら、“ハマのプリンス”佐藤皓彦(あきひこ)が図太い根性を見せた。佐藤の所属するJMC横浜GYMには、全日本ウェルター級王者の大輝(だいき)がいる。佐藤と大輝は同じ23歳で、入門時期もほとんど同じ。今のところ、佐藤は実績において大輝に大きく水を開けられている。佐藤が今回、あそこまで踏ん張れた陰には、大輝に対するライバル心も大きく作用していたに違いない。
トリプルメイン第2試合で、“日本人キラー”ワンロップに執念のドロー劇を演じた石川直生は、一度敗れている前全日本フェザー級王者・山本元気が、常に頭の片隅から離れない。全日本キックは今年10月、いよいよ代々木第二の大箱に進出するが、出場の可能性を聞かれた石川は、真っ先に「あいつしかいない」と対戦相手として山本元気の名を匂わせた。
今回のJ-NETで文句なしのベストバウトだったのはチームドラゴンの新鋭AKIRAvs木村敬明の一戦だ。1Rに2度、2Rにも1度ダウンを奪われた木村だが、驚異的な巻き返しで最後はKO勝ち。一昨年に対戦した時には、まったく逆の展開でAKIRAがKO勝ちしている。誰もが認めるライバル関係となった両者が、さらに成長した姿で決着戦を迎える日が今から楽しみだ。
悔しいけれど実力は認める。だけど、こいつにだけは負けたくない。
人生の中でそんなライバルと出会えることは、たぶんそれほど多くないはずだ。幸せなことに、私にもライバルがいる。高校時代の友人N。2人とも世界史が好きで、交換日記(してたんだよな、これが)ではお互いを歴史上の人物になぞらえて呼び合っていた。
私はNを「アレキサンダーJr(ジュニア)」と呼んでいた。ヨーロッパ、アジア、アフリカ大陸をガシガシとわずか10年で征服したアレキサンダー大王に、Nは強烈に憧れていた。
Nは私を「マルコポーロJr」と呼んでいた。ヨーロッパ人にとっては謎の地であったアジアで、なんとなく飄々と生き延びて、『東方見聞録』をしたためたマルコポーロ。その風来坊的な生き方に、私は憧れていた。
具体的な将来像なんて、まるで考えていなかった。Nはひたすら「世界制覇」を夢想し、私はひたすら「世界放浪」を夢想していた。
あれから20年。Nはガシガシと思うがままに生き、想う人に一直線に突き進み、今は2人の娘を持つ図太い母親だ。一方の私は…世界を股にかけてはいないが、飄々と、ノウノウと、そこらあたりを放浪している。放浪しながらいつも心のどこかで「Nに負けるわけにはいかないな」と思っている。
20年前の成人の日、私とNは式をエスケープして富士山を見に行き、たどりついた富士の裾野で声を枯らして叫んだ。「絶対、アレキサンダー大王になる!」「絶対、マルコポーロになる!」
成人式の1月8日、AKIRAvs木村敬明の凄まじい倒しあいを観ながら、ふとあの時のことを思い出した。