松本幸代のミルブロ!

【わからなくていい】
ここ最近、夢中になって読んでいる新聞の連載記事がある。
朝日新聞の夕刊「ニッポン人脈記・数学するヒトビト」だ。
このシリーズでは、あらゆる分野で大きな仕事が達成される際に、いかに人と人のつながりが重要であったかを伝えている。どれも面白いのだが、今回の「数学するヒトビト」は最高だ。
何が最高かというと、書いてあることが、もう圧倒的にわからない。
「多変数関数論」とか「発微算法」とか「有限単純群」とか、難しい数学用語が次々と出てきて、平易に説明しようという意図は汲み取れるのだが、どんなにやさしく書かれていても、サッパリ意味不明。
このあいだは「方程式の変数について『2次方程式はxとy』とあるのは『2次方程式はxの2乗』の誤りでした」という訂正文が載っていたが、「書かれている全てがわからないんだから、そんな小さな訂正は焼け石に水ですよ!」と突っ込みたくなった。もっとも、専門家とか数学愛好家にとっては、決して無視できない誤りなのだろうが。
そこまでわからないのに、なぜこの連載が面白いのか。
きちんと人間ドラマが描かれているからである。世界的にもお手上げ状態の数学の難問を、日本の数学者たちが力をあわせ、何世代にも渡ってコツコツと考え続け、ついに「解けた!!」と快哉をあげる。
難問そのものは意味不明ながら、読んでいるこっちまで「よかったね!」と言ってあげたくなる。
それから、数字や記号の羅列に悪戦苦闘しているヒトビトが、なんだか微笑ましく感じられてもくる。
愛すべき数学バカたちに、心から声援を送りたくなる。
わからないことを楽しむ。
そういう快楽ってあるんだなと、この連載を通して実感している。
考えてみたら、女子格闘技も一般の人々にとっては「わからない」ジャンルそのものだろう。
人が殴りあって金を稼ぐという世界がまずわからないのに、その世界に女性が自ら飛び込んでいるのだ。
「ありえねー!」で片付けられても、なんらおかしくない。
今まで私は、そういう人々になるべくわかりやすく説明しようと努めてきた。
でも、ひょっとしたら、そんな努力はいらないのかもしれない。
「わからない世界に夢中になっている人間がいる」
「格闘技バカという種族がいる」
それだけを伝えれば、もう十分なのかもしれない。
「数学するヒトビト」は、おそらく担当した記者の意図とはまるで違う方向で、私に大きな感慨とヒントを与えてくれた。
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