[週刊ファイト6月5日]期間 [ファイトクラブ]公開中
▼原田久仁信氏逝去!『プロレススーパースター列伝』を彩った名脇役
by 安威川敏樹
・プロレス漫画のみならず、ノンフィクション漫画の金字塔
・ザ・ファンクスを間接的に育てたルー・テーズ
・ルー・テーズがミル・マスカラスにレスリング技術を伝授!?
・ウエスタン・ラリアートの起源は、力道山の空手チョップだった!?
・『列伝』では不遇の扱いを受けた脇役レスラーたち
・いつも反則防衛、卑怯なチャンピオンだったニック・ボックウィンクル
・原田久仁信先生は、自身の死を予見していた!?
5月7日、漫画家の原田久仁信さんが亡くなった。享年73歳である。
原田先生の代表作と言えば、なんと言っても『プロレススーパースター列伝』だ。梶原一騎氏のファンタジー溢れる原作を、リアリティー抜群の絵で読者をグイグイ惹き付けたのである。
もちろん、筆者もその『惹き付けられた』1人。筆者はこの漫画の大ファンで、本誌でも何度もこの作品について書いている。そもそも、今年最初に書いたのが『列伝』に関する記事で、まさか5ヵ月後に原田先生が亡くなるとは夢にも思わなかった。
今回は原田先生の死を悼みつつ、『列伝』を今までとは違った視点で書いてみたいと思う。
▼ガマ・オテナにウラウナ火山、プロレススーパースター列伝の真実!
プロレス漫画のみならず、ノンフィクション漫画の金字塔
さて『列伝』をもう一度おさらいすると、1980年代前半に『週刊少年サンデー』(小学館)で連載されていた漫画だ。主人公は全て実在のプロレスラーで、1人(組)の連載が終わると次の主役レスラーにバトン・タッチ。プロレス漫画のみならず、ノンフィクション漫画の金字塔と言える。
ただ、ノンフィクションと言っても、怪しげなエピソードが多いのも魅力の一つで、多くの部分はフィクションだった。しかし、フィクションの中に実話も含まれていて、そこにリアリティーを持たせていたのである。
主人公となったプロレスラーは以下の通り(連載順)。
①ザ・ファンクス(ドリー・ファンクJr.&テリー・ファンク)
②スタン・ハンセン
③アブドーラ・ザ・ブッチャー
④アンドレ・ザ・ジャイアント
⑤ミル・マスカラス
⑥タイガー・ジェット・シン
⑦ジャイアント馬場&アントニオ猪木
⑧カール・ゴッチ
⑨リック・フレアー
⑩タイガーマスク(初代)
⑪ハルク・ホーガン
⑫ブルーザー・ブロディ
⑬ザ・グレート・カブキ
▼『プロレススーパースター列伝』の連載第1回を飾ったザ・ファンクス
ザ・ファンクスを間接的に育てたルー・テーズ
今回、取り上げるのはこれら主役を張ったプロレスラーではなく、それ以外の脇役レスラーである。脇役と言っても、物語のキーパーソンとなり、主役に負けない存在感を示した人物だ。
最初のレスラーは”鉄人“ルー・テーズ。テーズは『列伝』では多くの回に登場している。
ただ、例によって『列伝』にはかなりのファンタジーが含まれているが、今回は漫画のストーリーに沿って紹介するので、「事実とちゃうやんけ!」というツッコミはご遠慮いただきたい。
まずは、第1回連載のザ・ファンクス編で、テーズは早くも重要なレスラーとして登場している。ファンクス編では、ドリー・ファンクJr.とテリー・ファンクの兄弟だけではなく、2人の父親であるドリー・ファンクSr.(以下、シニア)にもスポットライトが当てられていた。
プロレスラーとなったシニアが目標としていたのが、その頃すでに絶対的王者となっていたテーズだ。しかし、ヘビー級ギリギリの体重で二流レスラーだったシニアには、なかなか挑戦者としての資格が与えられない。
だが、ドリーとテリーが生まれ、2人の物心がついた頃に、シニアはようやくテーズへの挑戦権を得る。しかし残念ながら、ウェイト不足が祟りテーズ必殺のバックドロップの前にアッサリ敗れ去った。
あまりの惨敗に、テーズへの挑戦のチャンスは二度とないと悟ったシニアは、悪役への転向を決意する。そして、打倒テーズの夢は息子のドリーとテリーに委ねた。
シニアはドリーとテリーを厳しく育て、2人ともプロレスラーになるが、テーズはジン・キニスキーに敗れて王座転落。ファンク親子は目標を失ってしまう。
ターゲットをキニスキーに換えたシニアは、あらゆる手を使ってドリーを挑戦者に仕立て上げ、ドリーは初公開のスピニング・トー・ホールドでキニスキーを破り、間接的にテーズ越えを果たした。ファンクスが直接テーズを倒すことはなかったが、ドリーとテリーが強くなれたのはテーズのおかげと、シニアは感謝している。
ルー・テーズがミル・マスカラスにレスリング技術を伝授!?
ミル・マスカラス編でもルー・テーズは存在感を示した。メキシコからロサンゼルス、そして日本に渡りスーパースターとなったマスカラスはニューヨークのマットに上がる。
マジソン・スクエア・ガーデン(MSG)でも大歓声を受けたマスカラスは、弟のドス・カラスと一緒にメキシコ料理店で食事をしていると、そこへテーズが現れた。
テーズは新団体IWAを興したが、貧乏団体のためスターを呼べない。そこでテーズはダメ元でマスカラスに白羽の矢を立てたのだ。
テーズは世界チャンピオンとして億万長者と思いきや、実は全くの世間知らずで事業に失敗したりペテン師に騙されたりして無一文も同然。そんな中で、なけなしの金をはたいてIWAを設立したことを知っていたマスカラスはテーズの申し出を承諾し、IWAに参加した。
だが、マスカラスの相手は三流レスラーばかりで試合は全く盛り上がらず、観客もガラガラ。IWA所属のレスラーたちはギャラも満足に払えないテーズを見限って、世界最大のプロレス団体であるNWAに移籍しようとマスカラスを誘った。NWAはマスカラス獲得とIWA潰しのため、IWAのレスラー全員を引き取るという密約を三流レスラーたちと交わしたのだ。
しかし、テーズを裏切れないマスカラスは断ったため、レスラー仲間からリンチを受ける。雑魚ばかりだったためマスカラスは大してダメージは受けず、三流レスラーたちのNWA移籍はお流れ。この程度の相手しかいなかったので、マスカラスはアッサリとIWA王座に就いた。
とはいえ、チャンピオンになったからと言ってギャラが上がるわけではない。ロクにカネを払えず申し訳なく思ったテーズは、ギャラの代わりにレスリング技術をマスカラスに伝授した。これはマスカラスにとって大きな財産となったが、愛妻にも逃げられたテーズはIWA存続を諦めてしまう。
なお、マスカラスがIWA王者だったのは事実だが、テーズがIWAを運営していたわけではなく、実際にはテーズとマスカラスの接点は薄い。
ファンクス編やマスカラス編以外でも、テーズはたびたび『列伝』に登場する。特に自身を最強と自負するカール・ゴッチですらテーズには一目置いており、「私も勝てぬ20世紀最強の鉄人ルー・テーズ」と持ち上げていた。
カール・ゴッチ編でもゴッチとテーズの対戦模様が描かれているが、いつも引き分けという設定になっている。
スタン・ハンセン編では、スタン・ハンセン&フランク・ゴーディシュ(ブルーザー・ブロディ)vs.ボボ・ブラジル&ベアキャット・ライトのレフェリーをテーズが務めていた。2対1で勝ったハンセン&ゴーディシュはテーズに「おれたち、あなたの全盛期のようにセメント(真剣勝負)にもラフ(乱闘)にも強い、真の大レスラーをめざしますぜ!」と言い放つ。
ところが後年、全日本プロレスの世界最強タッグ決定リーグ戦の優勝戦で、反則負けしたハンセン&ブロディがサブ・レフェリーのテーズを場外へ投げ飛ばしたのを見たとき、筆者は「『列伝』ではハンセンとブロディはテーズを尊敬していたはずなのに……」とショックを受けたものだ。
ジャイアント馬場&アントニオ猪木編では、テーズはゴッチと組み、アントニオ猪木&坂口征二のゴールデン・コンビと対決している(トップ写真参照)。
この対戦が決まったとき、坂口は思わずバーベルを落とし「神様と鉄人……。そ、そりゃ、まさしく地上最強タッグ・チームじゃないですか!」と驚いていた。結果は、猪木がゴッチから初めてフォールを奪うなど、2対1でゴールデン・コンビの勝利。
ウエスタン・ラリアートの起源は、力道山の空手チョップだった!?
ルー・テーズと言えば、日本でのライバルは力道山。日本プロレスの父でありながら、実は『列伝』での登場回数は意外に少ない。
とはいえ、もちろんジャイアント馬場&アントニオ猪木編では、力道山のことが丁寧に描かれていた。
力道山門下に飛び込んできた馬場と猪木。しかし力道山は元・読売ジャイアンツの投手だった馬場を優遇し、猪木は自らの付き人にしてトコトンいじめ抜いた。
馬場にはスター候補生の登竜門であるアメリカ遠征というチャンスを与えるが、猪木に対しては「靴が違う」という理由だけで猪木の顔を靴ベラでブン殴る。理不尽極まりない扱いに嫌気が差し、もうプロレスを辞めようと決心した猪木だったが、カール・ゴッチのレスリングに魅せられて何とか思いとどまった。
アメリカでメイン・エベンターとなって帰国した馬場はスター待遇され、次期エースとしての地位を確立。実際、猪木の目から見ても遠征前の馬場とは別人で、もはや自分の手に届かないレスラーになったのではないかと諦めかけていた。
そして、馬場vs猪木が実現。結果は馬場の16戦全勝と、猪木はコテンパンに叩きのめされた。
だが、そんな猪木を力道山は嘲笑するどころか、自分にシゴキ抜かれても馬場に負け続けても逃げ出さなかった猪木の根性を認める。それは、力道山が猪木に初めて見せた優しさだった。
しかしそんな矢先、力道山は暴力団員にナイフで刺されて死亡してしまう。これにより、馬場と猪木の運命が大きく変わった――。
以上が馬場&猪木編での力道山で、他にはスタン・ハンセン編にも登場する。と言っても、ジャンボ鶴田の口から語られただけだが。
ハンセンは、ドラム缶を抱え潰すという腕力を買われてプロレスラーになったが、その腕っぷしの強さが災いして、いつも対戦相手の首を絞めてしまい、チョークでの反則負けばかりだった。
いっそレスラーを辞めようかと悩んでいたハンセンだったが、日本からザ・ファンクスのアマリロ牧場に来てハンセンと一緒に修業していた鶴田がアドバイスする。
キミには相手を一瞬にして気絶させる腕力があるんだから、それを活かせ、と。首を絞めるから反則になるのであって、それ以外の方法で反則にならない必殺技を編み出せと鶴田はハンセンを諭した。