[ファイトクラブ]岩谷麻優マリーゴールド入団! 旗揚げ1年反攻狼煙なるか

[週刊ファイト5月29日]期間[ファイトクラブ]公開中

▼岩谷麻優マリーゴールド入団! 旗揚げ1年反攻狼煙なるか
 photo & text by 鈴木太郎
・ロッシー小川1年越し悲願も岩谷スターダム退団納得のワケ
・新入団でも【前からいるメンバー】
・今回が”引き抜き”なら転職活動なんて出来ない
・IWGP女子王座が”スターダムのアイコン”総決算
・自他共に感じるスターダムでの達成感
・『家出レスラー』大役全うして去る素晴らしさ
・スターダムにはないベンチャー精神とWWEルート
・岩谷求められるマリーゴールド”技失敗”悪評からの脱却
・第一印象が”技の失敗”だった岩谷の指摘
・準備期間無し&未経験者多数での旗揚げが原因?
・マリーゴールドは”ブシロード前のスターダム”
・スターダム育成整備したミラノコレクションAT
・岩谷1人で解決できない、団体の試合内容
・岩谷人気を反撃の狼煙に出来るか?


 2025年上半期は、日本の女子プロレス界において複数もの話題性に富む大きなトピックが訪れた。4・27スターダム横浜アリーナ大会での中野たむ引退。4・29センダイガールズプロレスリング後楽園ホール大会の里村明衣子引退。そして、5・24マリーゴールド国立代々木競技場第2体育館大会では全日本女子プロレス解散当時のメンバーだった高橋奈七永が引退と、約1ヶ月間で女子プロレスを代表するスター選手の引退が相次いだ。
 女子プロレスの世代交代が進む中、大手団体で活躍したスター選手が旗揚げ1年目の新興団体に舞台を移すことになった。岩谷麻優のマリーゴールド入団である。
 2025・5・1、ロッシー小川率いるマリーゴールドが緊急記者会見を行い、元スターダムの岩谷麻優の入団を発表した。観衆7,503人をマークした2025・4・27スターダム横浜アリーナ大会で行われたIWGP女子王座戦で朱里に敗れ、2年間で計9度の防衛に成功してきた同王座を手放すと、翌4・28に団体旗揚げから14年3ヶ月にわたり在籍してきたスターダム退団を発表。今後の動向に注目が集まっていた中、退団会見から僅か3日でマリーゴールド入団と相成った。

「私の中ではマリーゴールドが設立する時に設立メンバーでいてほしいというのがありまして、それが1年かかりましたけど、ここに実現したという事です。私の中では、麻優は前からいるメンバーだと思っています。」

 ロッシー小川が語った約1年越しの悲願は、旗揚げ当時の勢いを失っていたマリーゴールドにとって、反撃の狼煙となるのだろうか・・・?

▼旗揚げメンバー岩谷麻優電撃退団! STARDOM横浜アリーナ大会一夜明け会見

旗揚げメンバー岩谷麻優電撃退団! STARDOM横浜アリーナ大会一夜明け会見

ロッシー小川1年越し悲願も岩谷スターダム退団納得のワケ

 今回の岩谷入団に対し、過去にジュリアや何度となく行われてきたロッシー小川による引き抜きだと叫ぶ者も現れたが、今回の岩谷に関しては契約面においてもクリアな状態で入団に至っている。ロッシー小川の悪評は別にして、本件を引き抜きだと批判するのは、在職中から転職活動を進めることも多い、世間一般における転職活動を否定するようなものだ。

 2024年に退団したジュリアや林下詩美などの計5選手や、2025年にAEW移籍となった白川未奈の退団時期から推察するに、スターダム所属選手の契約が切れるタイミングは3月末だ。今回の岩谷は4月末での退団だったが、同月にIWGP女子王座防衛戦が横浜アリーナで控えていたこともあり、この1ヶ月間はスターダムにフリーランスとして上がっていたという線が妥当だろう。
 スターダムの親会社である新日本プロレスもそうだが、基本的に所属で上がるのか、フリーで上がるのかを公表するタイミングは、団体公式の発表を受けた後になる。2025年5月に新日本プロレスを退団した内藤哲也にしても、所属契約が2025年1月末で切れた後、フリーランスとして新日マットに上がっている事実が判明したのは、春先に内藤がメディアを通じて発信したことがキッカケである。
 とはいえ、岩谷は旗揚げ当時からスターダムに在籍した唯一の生え抜き選手にもかかわらず、退団後にスターダムでのラストマッチが組まれることなく退団したのは何故か? それはもう、「マリーゴールドに行く」という先の予定が決まっていたからなのだろう。事実、退団会見から僅か3日後の5・1入団会見では岩谷のシャツが用意され、マリーゴールド初戦の5・4でも新たに作られたベースボールシャツを着用していたのだから、用意周到というより他無い。流石に岩谷の新入場曲はマリーゴールド初戦に間に合わなかった為、スターダム時代から使用している入場曲を新たにミックスした上で対応したのだという。

 そんな岩谷による今回の電撃退団⇒入団劇は、ロッシー小川に追随するという点を抜きにしても、彼女の今後のキャリアにとって必要なアクションだったと筆者は感じている。
 岩谷自身、スターダム退団会見でも明かしているように、スターダム管轄のベルトを全て戴冠する”グランドスラム”を達成し、最後に手にしたIWGP女子王座に関しては「IWGPに賭けていた」と本人も語るほど熱量を注ぎ込んできた。その熱量に、岡田太郎社長が「スターダムでやり遂げていなかった事は分かっていたが故に、素晴らしい防衛戦を繰り広げれば繰り広げる程、失くした時の恐怖はプロレスファンとしてもありました。」と恐れるほどで、約2年間守り続けてきた同王座から遂に陥落した事実は、スターダムにおいて岩谷が紡いできた物語の最終話だったと言えよう。
 また、ロッシー小川がスターダムから契約解除を言い渡され、直後にマリーゴールドを旗揚げした2024年春の時点で、岩谷の自伝的映画『家出レスラー』の公開も間近に控えていた。この事情も、1年越しの”移籍”と大いに関係していたはずだ。何故ならば、映画のプロモーションをこなす大役が控えながら、主役の岩谷本人が離脱する訳にはいかなかったのだから・・・。

岩谷が『家出レスラー』とIWGP女子王座の2つの任を全うして、物事に一区切りが付いたタイミングの中、スターダム内で新たな目標を立てる道も浮かびづらかった。
かつて岩谷が初の二冠王者を成し遂げたワールド・オブ・スターダム王座とワンダー・オブ・スターダム王座の赤白両ベルトも、今は上谷沙弥やスターライト・キッドといった次世代の選手が中心となり回っている。岩谷が若手の壁として立ち塞がる展開でもない限り、再度挑戦しに行くことに旨味は感じられない。謂わば、新しい挑戦には持ってこいのタイミングだ。

岡田太郎社長が全方位外交を展開する今のスターダムでは、所属であっても他団体に上がって王座を獲り、未開拓のルートを歩む事は充分可能だろう。そんな満ち足りたスターダムの環境を捨てて、フリーランスとしてスターダムやマリーゴールドに上がることも大した旨味は無い。かつての恩師であるロッシー小川のマリーゴールドに飛び込むのは自明の理だった。
マリーゴールドには、今のスターダムが持っていないWWEとのルートも有しており、大手のような環境が整備されていないベンチャーで一から地位を築き、新たなチャレンジが望める伸び代もある。この移籍が岩谷にとって、所謂”都落ち”とはならないだろう。実際、岩谷の入団発表後には、入団初戦となる5・4後楽園ホール大会のチケットが瞬く間にプレイガイドで完売したというのだから、「アイコン効果恐るべし」と言ったところか。
そんな岩谷のマリーゴールド初戦の対戦相手は、スターダム時代から接点のある高橋奈七永だった。5・24国立代々木競技場第2体育館大会を以て引退を発表している高橋との、約14年振りの一騎打ちにして最後のシングルマッチは、タイトルマッチと見間違う程の激闘の末、岩谷が勝利。試合後には岩谷も高橋も泣きながら再会を嚙み締め、高橋が「正直、私が辞めた後とか大丈夫かなってちょっと心配していたけど、私以上にでっかくなってさ、麻優がマリーゴールド来てくれてさ、良かったよ!」と叫ぶなど感動に包まれたまま岩谷のマリーゴールド初戦が終わった。
しかし、バックステージで岩谷が発したコメントには、マリーゴールド入団に関する周囲の反応に対する悔しさも窺えた。

「(入団に対して)一番はやっぱりガッカリしたってコメントが凄く多くて・・・、凄い悔しかった。けど、正直やっぱりスターダムは凄い団体で、まだまだマリーゴールド、『ガッカリした』って思われる感想だったんだなって。でも、自分はスターダム辞めた事、後悔無い。」

岩谷求められるマリーゴールド”技失敗”悪評からの脱却

 岩谷のマリーゴールド入団に対する、プロレスファンからの「ガッカリした」という批判には、様々な理由が考えられるだろう。スターダムで築いた地位を捨ててロッシー小川の下に飛び込む予定調和、スターダムラストマッチも無いままの退団etc・・・。
 ただ、そうした感情論以上に、マリーゴールド入団がネックとして感じられてしまうのは、岩谷の持つ実力に対して、団体側が満足な相手を用意できないという、根本的な試合内容のガタつきにある。

 スターダムやアクトレスガールズを離脱した選手を中心に、2024・5・20に後楽園ホールで旗揚げしたマリーゴールド。
 旗揚げ戦は超満員札止めとなり、動画配信サービス『WRESTLE UNIVERSE』の生配信視聴数も当時の歴代2位を記録するなど、ロッシー小川の新章に対する期待感が爆発していた。旗揚げ当初から東名阪などの主要都市だけでなく、各地方を巡業していく大手団体同様のスタイルに加え、団体のフラッグシップベルトも早々に創設。旗揚げ約2ヶ月で両国国技館進出と、新興団体と思えぬスピード感で駆け抜けていった。
 しかし、同年夏にジュリアがWWE移籍に伴う形で退団となって以降、マリーゴールドの勢いに陰りが見え始める。ジュリアのように対外的な発信力を持つキープレイヤーが不在となった事で、団体の情報がフリーランスのSareee頼みとなった事実も大きいのだろうが、一番の要因は試合内容だろう。

 2025年に入ってから、マリーゴールドの所属選手が試合中に技を失敗する様子が動画配信から海外のプロレスアカウントに切り取られ、拡散された事がファンの間で話題となった。しかも、これは無茶な技に挑戦した事による失敗ではなく、基礎的なコーナーの攻防を何度も失敗する有様なのである。

 マリーゴールド入団会見の際に、岩谷麻優が団体の印象についてこのように触れている。

「マリーゴールドの事は凄くチェックしていたんですけど。自分の印象と致しましては、やっぱり技の失敗。触れて良いのか分からないですけど、やっぱ技の失敗が多すぎるなと。これはちょっと、プロとしてどうなのかと思う部分がある。自分が来たからこそには、ちゃんとお客様にも満足していただける試合を見せなきゃいけないなと思うので。実質自分がキャリア一番上になるので、色んなことを練習とか、今後ちゃんと見ていきたいと思っている。」

 とはいえ、岩谷の加入でマリーゴールドが抱える現在の諸問題や課題が一発で解決する訳ではない。確かに、岩谷の入団は話題性をもたらし、今後の育成面においても改善が成される期待はある。
 しかし、出来る選手は伸びていく一方、出来ない選手が全体的に底上げされていく環境に加え、トップ選手とその他の選手との間で実力差が顕著になり、試合が見ていられないレベルの選手も現れてしまったのが今のマリーゴールドの現状だ。これは謂わば、ブシロード傘下に入る前のスターダムが抱えていた課題点や試合の雰囲気と非常に酷似している。この根本的な諸問題を、岩谷1人で解決するのは流石に難しい。
 ブシロード傘下となる以前においても、宝城カイリのような生え抜き選手をWWEへと送り出し、岩谷麻優も文句無しのスター選手に育て上げ、ビッグダディの娘という触れ込みでデビューした林下詩美を見出だすなど、ロッシー小川の慧眼はあったため、育成手腕やノウハウが皆無という訳でもないだろう。

 ただ、スターダムでも育成方針が整備され、若手選手の試合でも質の高さが保証されるようになったのは、ロッシー小川がエグゼクティブプロデューサーという立場に退いた、ブシロード傘下となって以降の話だ。同時期にスターダムのコーチとして元闘龍門のミラノコレクションATが就任すると、アイスリボン時代からタッグ王座を巻く主力として定着しつつあったジュリアは例外として、現AEWの白川未奈、前ワンダー・オブ・スターダム王者のなつぽいなどは、スターダム参戦後に実力面でも注目を集め始めるようになった。前にいた団体よりも内容面で成長を見せる環境は、単純な格上げを実行したというだけでは説明がつかず、その後の新人育成面に置いても安定して若手選手を生み出す環境は、ミラノコーチの存在なくして考えられない。

 今のスターダムでは、デビュー直後で無い限り、新人選手であってもデビュー1年以内には『STARS』などの既存ユニットに加入することが慣例化しつつある。事実、本記事を執筆した2025年5月時点で掲載されている公式サイトの選手紹介欄では、スターダム所属でユニット未加入の選手は浜辺纒、姫ゆりあ、金屋あんねといった新人選手と、2025・5・11後楽園ホール大会で『STARS』を離脱したばかりの葉月&コグマしかいない。
 スターダムの練習環境がどのようなものかは一部分でしか伺い知ることが出来ないものの、SNS上で選手が投稿している内容やテレビ番組の密着取材を見る限り、道場での練習は各ユニット毎に行われているようだ。2022年に大きな話題を集めたフワちゃんのプロレスデビュー企画にしても、コーチは葉月が担当し、練習も葉月が当時在籍していたユニット『STARS』の面々に混ざる形だった。

 一方、マリーゴールドの場合、旗揚げ後間もないことから自前の道場が存在せず、LLPW-Xの道場を借りる形で行っている環境面の不利は加味しなければならないだろう。ただ、スターダムにおけるミラノコレクションATのようなコーチ役や整備された指導方針が存在しないことで、実力差にバラつきが生じるブシロード以前のスターダムに近い所まで、マリーゴールドが戻ってしまったことは否めない。
 また、ジュリアなどの選手がスターダム退団後に旗揚げを発表し、そこから十分な準備期間を確保できぬまま旗揚げ戦⇒巡業開始という見切り発車的なスケジュールも、2025年にSNS上で指摘されてきた技の失敗に繋がっている大きな要因ではないだろうか?
 旗揚げ会見で急遽登場⇒入団の運びとなったアクトレスガールズの選手達に関しても、そもそも「(前団体で)プロレスの練習を教わっていない」とインタビュー等で語られる有り様だった。その為、マリーゴールド側で実質イチからプロレスの基礎や指導にあたらなければならなかった状況は容易に想像がつく。興行を行いながら選手の指導・育成もしていかなければいけなかった。
 何より、スターダム時代から桜井麻衣の育成に関与し主力に定着するキッカケを作ったジュリアが、2024年夏にマリーゴールドを離脱してしまったことも痛手であった。個人の発信力だけでなく、練習も引っ張っていける存在が流出したことで、同時期からマリーゴールドの立ち位置はスターダムに及ばぬほど霞んでしまったのだから。
 2025年3月にMarvelousとの対抗戦が開戦したタイミングで、高橋奈七永が若手選手の練習を見る様子がマスコミ向けに公開されたものの、そもそも若手選手が練習量を積めていないのではないかという疑念すら生まれてくる。高橋が自身の引退後のマリーゴールドに不安を隠さなかったのも、そうした背景があるからではないだろうか?

 スターダムで栄華を極めた岩谷の加入があったとして、マリーゴールドにおける育成や試合内容の問題が早急に改善すると筆者は思えない。ただ、その問題にメスを入れられる人材として岩谷が入った意義は非常に大きい。時間をかけながら諸問題を解消していけば、大きく水を開けられている女子プロレス業界内でのマリーゴールドの立ち位置も浮上していけるだろう。これこそが、スターダム在籍時には出来なかった、岩谷の遣り甲斐にも繋がっていくのではないだろうか?

 岩谷は加入間も無くして、マリーゴールドの救世主になりそうな予感があるものの、それは裏を返せば、団体の話題が彼女1人に集まっているという証拠でもある。このタイミングで岩谷に刺激を受け、対角に立つ者が現れ、団体内が盛り上がるキッカケとなれば、マリーゴールドも勢いを取り戻すのかも知れない。果たして、マリーゴールドは岩谷入団で反撃の狼煙を上げられるのか? その答えが導き出されるのは、まだまだ先の話になるだろう。