[ファイトクラブ]光り輝くスポットライトの陰で……、表舞台から消えゆく者たち

[週刊ファイト12月12日]期間 [ファイトクラブ]公開中

▼光り輝くスポットライトの陰で……、表舞台から消えゆく者たち
 by 安威川敏樹
・秋はプロ野球の華やかな表舞台とは裏腹に、非情な戦力外通告を受ける季節
・プロ野球選手の引退後は監督、解説者から麻雀プロまで様々
・なかなかツブシが効かない、プロレスラーの第二の人生
・引退後はレフェリーの道を歩んだ故・マイティ井上
・プロレスラーにとって第二の人生で最適の職場


 日本中の注目を集めたプレミア12が終わり、プロ野球界(NPB)はオフ・シーズンを迎える。秋はまさしく怒涛の野球ラッシュだった。
 ペナントレースの優勝争いからクライマックス・シリーズ(CS)、ドラフト会議、日本シリーズ、そして今年の場合はプレミア12と、ファンを全く飽きさせない。

 よく言われるのが、興行としてのプロ野球の完璧さだ。12月になるとNPBは完全オフだがスター選手はテレビ番組に登場し、年が開けて1月は自主トレ、2月はキャンプ、3月はオープン戦、4月から半年間はペナントレースで毎日のように試合があり、そして秋のポスト・シーズンにドラフトと、年がら年中メディアが野球を報じている。さらに、メジャー・リーグ中継や高校野球などもあり、日本列島は野球だらけだ。
 野球を行わない時期でもフリー・エージェント(FA)宣言した選手の動向やトレード、メジャーに挑戦する選手、ドラフト指名された新人選手たちに対する期待など、話題に事欠かない。

 だが、その陰で秋になれば寂しいニュースが飛び込んでくるのも毎年のことだ。有名選手の引退、そして有望と思われていた若手選手の戦力外通告である。

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プロ野球選手の引退後は監督、解説者から麻雀プロまで様々

 プロ野球で実績を残して全てをやり尽くし、悔いなく引退する選手ならいい。しかし、中には志半ばで戦力外通告、早い話がクビになる選手が多いのも事実だ。
 しかも高卒5年目、23歳ぐらいで戦力外になる選手もいる。23歳と言えば大卒1年目だ。普通の若者がこれから社会に羽ばたこうという年齢で、早くも解雇されるのである。

 NPB球団の支配下登録選手は70名。つまり、ドラフトで10人の新人が入団すれば、10人は退団を余儀なくされる計算だ。実際には支配下登録選手を70名未満にしている球団もあるが、それは他球団からの移籍選手や新外国人選手を獲得するために枠を空けておく場合が多い。
 いずれにしても、ドラフト指名されて晴れやかな笑顔を見せている新人選手の裏では、戦力外になってこれからの人生をどうやって生きていくか悩んでいる元選手が大勢いるのである。そして、そんな彼らも数年前にはドラフト指名されて、希望に満ち溢れた表情をしていた筈だ。

 NPBの選手は基本的に1年契約である。したがって、シーズン中に解雇されることはない。だが、戦力外通告される選手は、ペナントレースたけなわの8月頃にはなんとなく判るのだそうだ。
 二軍の試合にすら出してもらえない、試合に出て結果を残しても一軍から声が掛からない、二軍監督やコーチが何かよそよそしい、一軍にいたとしても理由もなく二軍に落とされる、など。

 戦力外通告を受けた選手は、他球団から声が掛かるのを待つか、12球団合同トライアウトを受けるぐらいしかNPBの選手として生き残る道はない。だが、他球団からオファーがある選手はその前にトレードされているだろうし、トライアウトは合格率2%という超狭き門である。
 育成枠の選手として再契約を結ぶ場合もあるが、育成選手は一軍の試合には出られない。
 では、NPBを引退した選手には、どんな道があるのだろうか。

▼「巨人はロッテより弱い」元:近鉄バファローズの加藤哲郎(右。左は筆者)は現在プロ雀士

①解説者や評論家、タレントになる
②監督やコーチになる
③独立リーグや社会人野球、あるいは海外で選手として続ける
④バッティング投手やブルペン捕手、トレーナーなどの裏方になる
⑤スコアラーやスカウトなど、データ収集およびチーム編成に関わる仕事に就く
⑥審判員になる
⑦球団職員になる
⑧球界とは関係ないサラリーマンになる
⑨飲食店や不動産業、整体師などの事業を始める
⑩実家が会社経営や商売、農業などをしている場合は、その跡を継ぐ

 ①と②は、よほど好成績を残したか、人気選手でないとなることはできない。実績のない多くの選手は③を選びたがるが、そこからレベルの高いNPBの選手に返り咲くのは難しく、また社会人としての経験が遅れるというリスクもある。
 ①~⑥は野球経験者でなければ難しい職業で、⑦も野球界に携わる仕事だ。NHKの調査によると、引退したプロ野球選手の約9割が①~⑦で第二の人生を歩むという。
 野球界から完全に足を洗った場合では、⑨の飲食店を始める選手が多い。知名度があるために客が集まりやすく、また酒が強い選手は居酒屋やスナックなどが天職と言えるだろう。

▼元:阪神タイガースの北條史也はNPB引退後、社会人野球の三菱重工Westでプレー

なかなかツブシが効かない、プロレスラーの第二の人生

 それでは、プロレスラーの引退後はどうなのだろうか。これは、プロ野球選手よりも厳しいようだ。
 NPBでは広島東洋カープを除き、大企業が親会社となっているため球団職員にもなりやすいが、プロレス団体の場合はNPB球団に比べると規模が遥かに小さいので、団体社員になるのも難しい。

 また、プロ野球と違い監督やコーチなどの指導者になることが少ないのも、プロレス界の特徴だ。プロレス団体では、現役選手が若手選手のコーチ役を務めることが多く、山本小鉄のような例を除いてコーチ専任という役目があまりないのである。
 さらに、プロ野球におけるバッティング投手やブルペン捕手のような、選手時代の経験を活かせるポストも見当たらない。つまり、プロレスでは元選手の受け皿が圧倒的に少ないのだ。先日亡くなったマイティ井上のように、引退後はレフェリーに転身するレスラーもいるが、そもそもプロレス界にはレフェリーが少ないため、セカンド・キャリアとして選ぶ人はあまりいない。

▼故・マイティ井上は現役引退後、レフェリーに転身

 そんな事情もあり、さらにプロ野球選手に比べるとプロレスラーは選手寿命が長いため、できるだけ引退を避けようとする。仮に引退しても、すぐに復帰するのがプロレスラーの特徴だ。
 団体から契約を打ち切られても、現在なら自らインディー団体を興すことも可能だ。これは元プロ野球選手にはできない芸当で、スポンサーや支援者さえいれば、アルバイトをしながらでもプロレスを続けることができる。

▼もはや何回引退したのか本人も判らない!? 大仁田厚

 最近でこそ大卒や社会人を経験してからプロレス界入りするレスラーも多くなったが、基本的にはプロレス界しか知らない者がほとんどだ。だいたいが、平凡なサラリーマンになるのを嫌うような人間がプロレスラーになる。
 そのため、プロレス界にしがみつくレスラーが多い。それだけプロレスが好きとも言えるのだが、やはり全く知らない世界に飛び込むのは勇気がいるのだ。

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