[ファイトクラブ]13年振り日本武道館低調『ALL TOGETHER』! 敵は他団体に有らず

[週刊ファイト5月16日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

 2023年末の日本プロレスリング連盟発足と同時に発表された2024・5・6日本武道館での連盟発足記念興行。結局は『ALL TOGETHER』能登半島地震チャリティー大会として開催されたものの、開催約1ヶ月前まで発表されなかった大会概要、加盟団体との興行被り、動員面での不調、参戦選手による苦言と、プロレス業界の足並みの揃わなさが目立つ大会になってしまった。
 各団体が足並みを揃えて活動していく為の連盟にもかかわらず早くも機能不全に陥っているが、問題なのは業界関係者の持つ意識だろう。プロレス業界にとっての敵は、目の前にいる他団体ではないのだ。13年振りに開催された『ALL TOGETHER』日本武道館詳報と共に、今回噴出した問題をメッタ斬りしていく。


▼13年振り日本武道館低調『ALL TOGETHER』! 敵は他団体に有らず
 photo & text by 鈴木太郎
・チャリティ興行なのに招待券配布の深刻動員不調
・安易に使われた『ALL TOGETHER』とチャリティの名目
・加盟団体ですら方向バラバラのお粗末さ
・大手に反抗が良しとされる業界の悲しい性
・プロレス界ライバル同業他社でなくスポーツ&エンタメ&娯楽
・日本武道館+後楽園(夜)+新木場(夜)でも届かぬ、13年前超満員
・非プロレス村から客引っ張る成功例は武知海青だけ
・興行戦争、少子化、不景気、パイの奪い合い
・団体同士で足を引っ張り合っている場合なのか?
・トリ6人タッグ新世代バトル突き抜けた悪役TAKESHITA+ゲイブ・キッド
・今回だから成立したWAR DOGSバッドエンディング
・6人タッグ内藤哲也敗戦!ジェイク・リー勝利で6・15シングル電撃決定
・KAI孤軍奮闘プロフェッショナル矜持も寒い野次&試合内容
・多人数強み活かした豪華絢爛Jr10人タッグ!YAMATOペイントお仕事
・石井智宏-マサ北宮因縁再燃!日本武道館爆発パワーバトル関本大介
・Stardom提供ハイスピード経験者活かす女子プロレスマッチ SLK制す
・拳王、難無く藤田晃生撃破も気になる腹部キック失敗ミステリー意地か
・経営陣タッグ棚橋-大社長-丸藤敗戦新弟子出直し?成田-高橋-EVIL戦


■ALL TOGETHER ~日本プロレスリング連盟発足記念・能登半島復興支援チャリティ大会~
■日時:2024年5月6日(月) 16:30開始
■会場:東京・日本武道館
■観衆:4,583人

「新日本プロレス一つでやった方が入ってたんじゃないのか?」

 体調不良で欠場したSANADAの代役として、『ALL TOGETHER』に出場したタイチのバックステージコメントは、大会終了後に大きな波紋を生んだ。2011年に東日本大震災復興支援を目的に、新日本プロレス、全日本プロレス、プロレスリング・ノアの3団体が共催した記念すべき第1回以来、実に13年振りとなった日本武道館での『ALL TOGETHER』。第1回大会では超満員札止めとなる17,000人を動員したものの、2024年5月の今回は片面を潰すステージプランで観衆4,583人と集客で大きく苦戦を強いられた。2階スタンド席に異様なほどの空席が生まれ、チャリティー大会を銘打ちながら招待券が配布されたという異常事態である。

 そもそも今回の『ALL TOGETHER』は、2024年元日に能登半島地震が発生する前から決定していたものだった。2023年12月に日本プロレスリング連盟(以下:UJPW)が結成された際、同じタイミングで発表されたのが2024・5・6日本武道館大会である。
 新日本プロレスを筆頭に全9団体が加盟した団体の設立記念興行だったが、大会の概要が判明したのは開催から約1ヶ月前の3月末のこと。『ALL TOGETHER 〜日本プロレスリング連盟発足記念・能登半島復興支援チャリティ大会〜』と銘打たれたとはいえ、加盟団体のうち、同日の後楽園ホール大会開催を既に発表していた東京女子プロレスと全日本プロレス、結成当初はサイバーファイトグループに属していたものの2024年4月に独立したガンバレ☆プロレスの3団体は不参戦。その一方で、大日本プロレスは大阪、DRAGON GATEは愛知で同日に興行を開催する中でも、所属選手を『ALL TOGETHER』に派遣するなど、加盟団体によって対応が分かれる結果となった。

 タイチの提言は確かに一理あるのかも知れないが、そもそも今回の『ALL TOGETHER』には不備や突っ込みどころがあまりにも多すぎる。5・6日本武道館が約半年前から決まっていたにもかかわらず一向に発表されなかった大会概要には、最早ファンの方が「全日本プロレスや東京女子プロレスの興行と被っているではないか」と騒ぎ立てていたのだから、運営が本気で集客を望んでいたのかどうか疑問が残る。そもそも前述したように、5・6日本武道館はUJPW設立記念興行という立ち位置だったのだ。
 それにも関わらず、集客が見込めそうな『ALL TOGETHER』ブランドに縋りつき、能登半島地震チャリティという名目を安易に使用するという、付け焼き刃としか思えないネームロンダリングには呆れるばかり。その結果、全日本プロレスを始めとした加盟団体が不参加という状況で、『ALL TOGETHER』なのに方向が加盟団体内でもバラバラだと嗤うファンも現れる有様ではないか。そして、対戦カードにしても、全8試合中シングルはたった1試合で、『拳王vs.藤田晃生』のチャレンジマッチ。セミファイナルで内藤哲也とジェイク・リーが激突する6人タッグマッチは組まれたが、メインイベントは若手主体で、新日本プロレス勢が一歩引く立ち位置にあるなど、今一つパンチが無かった事は否めない。コンセプトが異なるとはいえ、2日前に行われたプロレスリング・ノアの『WRESTLE MAGIC』両国国技館大会の方が、『拳王vs.YAMATO』にテンコジやTAJIRIが参戦とオールスター感があったのとは対照的である。

 UJPWに加盟していないGLEATの鈴木裕之社長は、前述したタイチのコメントに対しSNS上で「これ、タイチ選手の『全団体が来てるんだろ?』『プロレス全体の力がこれか?』に突っ込んだマスコミがいるのか知りたい。もし、それを聞いたまま記事にしているなら我々GLEATは何者なのか教えてほしい。」(原文ママ)と疑問を投げかけた。UJPWは後から加盟する事も可能というが、そのようなコメントが参加選手のタイチから出てしまった以上、今後は非加盟団体の態度が硬直してしまう恐れは無いだろうか? 今回参加できなかったものの、同時間帯の後楽園ホールで1,276人を動員した全日本プロレスにしても、試合前にファンクラブ会員向けに安齊勇馬、斉藤ジュン、斉藤レイ、ライジングHAYATO、田村男児との撮影会を開催するなど、ALL TOGETHERに対抗すべく策を打った事は明白だ。つまり、加盟団体内ですら皆、向いている方向がバラバラなのである。

 しかし、悲しいもので、『夢の懸け橋』東京ドーム大会の真裏にWARが後楽園ホール大会をぶつけたように、プロレスでは大手に反抗する姿勢や気骨がファンから支持される魅力の一つになっている事は否めないのである。奇しくも、今回の『ALL TOGETHER』の真裏で、天龍プロジェクトが新木場大会を開催しているとは何たる因果なのだろうか? 歴史は繰り返されるものだ・・・。

プロレス界ライバル同業他社でなくスポーツ&エンタメ&娯楽

 「新日単独の方が入ったんじゃないか」というタイチのコメントはあったものの、今は最大手の新日本プロレスが日本武道館大会を単独開催しても、第1回『ALL TOGETHER』のような日本武道館全面開放という画は実現しづらい気がしている。今回の日本武道館(4,583人)、真裏の全日本プロレス後楽園ホール(1,276人)、天龍プロジェクト新木場1stRING(観衆非公表)の動員を加算したところで惨敗という事実には変わりがないからだ。結局のところ、プロレスファンの分母を増やしていかない事には、この先も細っていく一方だろう。

 プロレス団体にとって本当のライバルは、同業の他団体ではない。その先にいる、野球やサッカーといったスポーツ、音楽、演劇、映画、アミューズメント施設、商業施設といった、プロレス以外の娯楽だ。実際、オリコンチャートの上位にランクインしたり、テレビ番組で聴いたりしないものの、『ROCKIN’ON JAPAN』といった音楽専門誌には取り上げられているようなロックバンドやシンガーソングライターは『ALL TOGETHER』のような片面潰しの日本武道館を満員札止めにしている。また、先日開催された2024・4・27のTHE YELLOW MONKEY東京ドーム公演は、外野席まで解放されるほど客席が人で埋め尽くされる光景で、新日本プロレスのイッテンヨンの倍以上は東京ドームに来場していたのではないかと圧倒されるほどだった。

 この違いは色々な理由が考えられると思う。CDの売上が全盛期より落ちている状況でも、音楽産業のパイは大きい事。そして、大規模会場での公演は開催数ヶ月以上前から詳細を告知する事で、地方からの遠征組も来場しやすいよう考慮されている事。そもそもプロレス業界のパイが限られているのに、そのパイを奪い合うだけで、新規ファンを呼んだと言える団体が果たしていくつあるのだろうか? プロレス村以外に向けてプロレスが飛躍的に届いた事例は、最近だと2024・2・25DDTプロレスリング後楽園ホール大会でデビューした武知海青(THE RAMPAGE from EXILE TRIBE)ではないだろうか? TBS系列で放送された『究極の男は誰だ!?最強スポーツ男子頂上決戦』で大会2連覇を果たす脅威の運動神経の持ち主は、【武知ギャル】と呼ばれる女性ファンを後楽園ホールに動員しただけでなく、【武知ギャル】がDDT所属選手のファンになり大会に足を運ぶ事例も聞かれるなど、文字通りプロレス業界に金の雨を降らせてくれそうな存在だ。その光景を目の当たりにした時、各団体が講じていた今までの集客策が他団体からファンを奪い合う構図でしかなかったことに気付かされたのである。

 小規模会場でも興行戦争の乱立がコロナ禍以降一層激しくなっていた現状を鑑みると、今回の『ALL TOGETHER』の不入りは偶然ではなく、必然だろう。「各団体が仲良しこよしになれ」などとは言わない。だが、多数の娯楽が溢れて少子化が進み、経済的にも決して豊かとはいえない今の日本で、プロレス業界内でいがみ合い、足を引っ張り合っている現状が好ましいとも思えない。ライバルは他の娯楽なのだから。

▼井上尚弥の観客数の僅か1/9! 厳しい船出となったUJPW

井上尚弥の観客数の僅か1/9! 厳しい船出となったUJPW


記事の全文を表示するにはファイトクラブ会員登録が必要です。
会費は月払999円、年払だと2ヶ月分お得な10,000円です。
すでに会員の方はログインして続きをご覧ください。

ログイン