2023年に入り、管轄しているベルトが外部流出している全日本プロレス。SNS上ではファンの不満が溢れ出る異様な状況の中、Jrタッグリーグでも外敵に優勝を攫われる結果に終わった。
しかし、『チャンピオンカーニバル』優勝決定戦の会場・大田区総合体育館は、多くの歓声と熱気が最後まで絶えなかった。SNSとはまるで光景が異なる違和感に筆者は驚きを隠せなかったものの、現地に間違いなく多幸感を見出すことが出来た。
本記事では、芦野祥太郎の初優勝に終わった『チャンピオンカーニバル』優勝決定戦を大いに語りたい。
[週刊ファイト5月18日号]収録 [ファイトクラブ]公開中
▼批判溢れるSNSも会場行けば多幸感!全日チャンカン大団円・芦野祥太郎
photo & text by 鈴木太郎
・最初から最後まで完成絶えぬ全日大田区の盛り上がり
・ホームの雰囲気を作っていたファンの存在
・ネット上の全日ファンによる、呪詛にも似た批判の数々
・優勝決定戦前日まで流れていた最悪な雰囲気
・芦野祥太郎初優勝・三冠奪還へ『デカいやつに勝てる』証明T-Hawk戦
・「外様」、「WRESTLE-1じゃないか」という批判を一蹴する激闘
・小柄な二人が魅せた打撃と投げ技のド迫力
・雄弁マイクも存在感皆無な試合”裸の三冠王者”永田裕志
・小島聡やブラックめんそーれに印象を持って行かれた永田
・上から目線のマイクとは対照的に、記憶に残らない試合
・「全日本プロレスを盛り上げる」と宣言した公約は何処?
・拳王やヤングライオンの影に隠れる悲しき三冠王者
■全日本プロレス 『#ajpwチャンピオンカーニバル2023優勝決定戦』
■日時:2023年5月7日(日) 16:00開始
■会場:東京・大田区総合体育館
■観衆:2,437人
「インターネット上でネガティブな雰囲気が充満している団体とは、とても思えない。」
2023・5・7全日本プロレス大田区総合体育館大会。
『チャンピオンカーニバル2023』優勝決定戦が行われた全日のビッグマッチを見て、筆者が抱いた率直な感想である。
全体的な満足度に加え、ビッグマッチで最安値5,000円超えが定着しつつあるコロナ禍以降のプロレス業界にあって、チケット代最安値4,000円を維持するコストパフォーマンスの高さ。
何より、最初から最後まで観客の熱気が絶えることはなく、選手がキツい煽り方をしてきても、ブーイングではなく応援する選手の名前を懸命に叫んで、ファンはホームの雰囲気を作り出していた。
非常に良い雰囲気の中で行われた大会だったが、冒頭の違和感には理由があった。
呪詛のようなSNS全日ファンの嘆きと怒り
2023年に入ってから、全日本プロレスファンにとって受難が続いている。
記事執筆時点で、三冠ヘビー級王座を始めとする団体管轄のベルトは、アジアタッグ王座のヨシタツを除いて全て所属外選手が保持している状況だ。
中でも、大仁田厚&ヨシタツ組が保持するアジアタッグ王座は、今年2月の八王子大会以降、電流爆破形式での防衛戦が3度にわたって開催されるなど、「伝統のあるベルトを汚している」という旨の批判が絶えない。
極めつけは三冠ヘビー級王座だろう。
2・19に宮原健斗から王座を奪取した新日本プロレスの永田裕志は「全日本プロレスを盛り上げていきますよ」と意気込むも、新日本プロレス公式Twitterのツイートをリツイートするばかりで、当の本人は鼻高々も、三冠戦だけ頑張り他は消えてしまっている有り様だ。
まるで、諸事情で欠番扱いになってしまったドラマや、報道タブーに触れたのではないかと勘繰るほど、ビッグネームがプロレス界に響いていないのである。まさしくこれは、裸の王様ではないか? 永田の試合における動きの悪さもあいまって、現最高峰王者への批判は根強い。
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そんな団体を取り巻く状況に、いつしかTwitter上の全日本プロレスファンの中からは、呪詛にも似た厳しい意見が絶えず発信されるようになった。
「こんな団体潰れてしまえばいい」、
「中華料理屋でハンバーグとか出されている気分だ」、
「外から人を呼ぶのではなく、全日本プロレスを見せて欲しい」
一方で、ファンから血を流すような思いで発せられている痛烈な言葉は、傍から見ているとキツいものもあり、筆者のファン仲間と会場で全日の話になると、「正直ファンの意見がキツい」、「興味あるけど、関連ワードをミュートしようかと思った」という意見も飛び出すほどだ。
今大会も、戦前はそのような意見に溢れていた。
『チャンピオンカーニバル2023』の優勝決定戦は、2022年に所属選手として加入した芦野祥太郎と、新進気鋭のGLEATで最高峰王座に君臨しているT-Hawkによる顔合わせ。
2020年春に無期限活動休止となったWRESTLE-1でも、シングルの頂点を争った事のある両者のカードに、戦前「全日ではなく、WRESTLE-1ではないか」、「決勝カードを見て、チケットを手放すことにした」という意見を筆者は見聞きした。芦野は1年以上前から全日の所属選手であるにもかかわらず・・・。
その上、両者の身長は174cmと、180cm台後半の大型レスラーを多数擁している全日のヘビー級戦線の中でも小柄な部類に位置している。
逆境に囲まれた優勝決定戦となったものの、両者の実績・実力を加味しても、この状況に掌返しをさせてくれる内容は必ず見せてくれるはずだと筆者は信じていた。
そして、その願いは現実になった。