解釈の余地と自由を感じた『ムタファイナル』~2023・1・22 NOAH横浜アリーナ大会~

■プロレスリング・ノア『ABEMA presents GREAT MUTA FINAL ” BYE-BYE”』
■日時:2022年1月22日(日)
■会場:横浜アリーナ
■観衆:8,433人(主催者発表)

大会終了のアナウンスが流れてから暫くの間、私は余韻に圧倒されて、客席から立ち上がることが出来ずにいた。
まるで異世界に飛ばされたかのような非現実感と、「これが本当に最後だったのか…」という夢現。

【グレート・ムタ最後の降臨】と銘打たれた、1・22NOAH横浜アリーナ大会。

 メインのムタファイナルに重点が置かれた今回のカード群は、タイトルマッチの隊列に『グレート・ムタvsシンスケ・ナカムラ』が組み込まれた2023年元日の日本武道館大会と、色合いが大きく異なっていた。
今大会で王座戦を排した事は、ムタ独自の世界観と、大会そのものの意味合いを守る上でも英断だったように思う。

とはいえ、素晴らしかったのはメインだけではない。
2月シリーズで組まれている王座戦の前哨戦を絡めつつも、通常興行と異なる取り組みがなされたのだ。

 全試合にサブタイトルが付けられるなど、コンセプトを設けた試合の数々。

 序盤で会場を沸かせた女子プロレスのタッグマッチ。

 2022年10月の有明ビッグマッチでも導入された、マーシャルアーツルールの試合。



 ノアの通常興行では異端として扱われそうな、実験色の強い内容。

 ともすれば、『ごった煮』になる恐れも孕むチャレンジではあったものの、いずれの取り組みも見事に成立したのは、ムタの持つ魔力故なのだろうか…。
 そう思わざるを得ないくらい、試合のカラーもテンポも上手く纏められていたのだ。
 流石というより他ない。

ムタファイナルのラストピースは、白使だった

<第9試合 メインイベント・6人タッグマッチ/End of Nightmare>
〇グレート・ムタ&スティング&ダービー・アリン
 22分23秒 閃光妖術⇒体固め
●白使&AKIRA&a丸藤正道

 メインイベントの生み出す空間は唯一無二で、プロレスを見ているというよりは、1本のドラマや映画を見ているかのようだった。

 グレート・ムタが生まれてから30年以上。
 その歴史を知っていても、知らなくても、圧倒される存在感。


 このドラマの終焉を構成する上で欠かせなかったのは、ムタの対角に立った白使である。

 スティング、AKIRA、丸藤正道に加え、新進気鋭のダービー・アリンが入る錚々たる顔ぶれにあって、ムタの天敵として聳え立ち、メインで中核を担った点は決して見逃せない。

 ムタのラフファイトを喰らい、血を流しながらもムタの目の前に立ちはだかるその姿は、カメラのファインダー越しでも圧倒された。

 それでいて、大ベテランとは思えぬ軽快な動きなのである。

 ムタが閃光妖術で白使に勝利した直後、白使の額についた血で卒塔婆に書かれた【完】の一文字。
 戦前、ムタとスティングの競演が盛んにクローズアップされていたが、ムタファイナルにおけるラストピースは、他ならぬ白使だったのではないだろうか?

 ムタファイナルにおける世界観を構築する上で、白使の存在は大きかったのである。


解釈と思考の自由
 マイクアピールの無い退場シーンも含め、ムタファイナルは如何様にも解釈出来る幅の広さと思考の余地を残したまま、終焉を迎えた。

 試合後のマイクアピール一つで今後の展開や方向性が決まるプロレスも多い中で、【見た者の想像力に委ねられる箇所が多く残された試合】は、私自身あまり記憶にない。
 長年追っている人にとってスティングとムタの競演は感慨深いものがあるのだろうし、ダービー・アリンがレジェンドの終焉に携わった事に心踊らされる人もいただろう。


今回のムタファイナルには、試合を見た者の歴史と記憶と感想によって、幅広く解釈できる余地が多く残されていたように思う。

 私が『異世界』や『映画のよう』と評したのも、その部分が大きかったからかもしれない。
 【ムタ最後の降臨】という1点の事実を除いて、解釈を限定する決定的事象は会場にもリングにも、何一つとして存在しなかったのである。

 私の中では、「またどこかで見られるのではないか」という淡い期待も捨て切ることが出来ず、これがムタにとって最後の試合だとは信じがたいものがあった。

 それでも、カメラで撮影した【完】の文字を眺めて思うのだ。
 「これで、本当に最後だったのだ」と。


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’23年02月02日号横アリ新日wk17ノア対抗戦ムタ完 現地取材RAW30周年 昭和回顧 感動AEW