[ファイトクラブ]新春☆NWAの総攻撃に対抗したアントニオ猪木“環状線の理論”実践

[週刊ファイト1月28日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼新春☆NWAの総攻撃に対抗したアントニオ猪木“環状線の理論”実践
 by 藤井敏之
・プロレス市民権復興!NWA金看板~映画『燃えよドラゴン』ヒットの1974年
・百貫デブのマクガイヤー兄弟がスクーターで登場!LAからトロス兄弟の新日
・王者ジャック・ブリスコとドリー・ファンクjr.の黄金カードが大阪で実現
・芸術的プロレスの爆発!ジャイアント馬場PWF世界戦ハーリー・レイス
・1974年新春に勃発した新日・全日興行戦争と猪木全盛時代の幕開け


 毎年この頃になると思いだすのが1974年、新春シリーズの大阪における新日本プロレスと全日本プロレスのニアミス興行戦争である。

 この時代、両団体において年末興行に複数の大物外人を呼び世界タイトルマッチを行うのが常であった。前年末(73年12月)、新日本プロレスは五大湖地区東部マットに大勢力を拡大していたNWFという組織の王者であった“死神”ジョニー・パワーズを招聘することに成功し、アントニオ猪木が東京で王座に挑戦し卍固めで見事NWF王座奪取した。
 当時の発表ではNWA・AWA・WWWFに迫る勢いのある組織との説明がなされていた世界タイトルである。振りかえれば、同年4月に猪木は坂口と合体しNETテレビのレギュラー枠を確保、10月には世界最強タッグと称して“神様”カール・ゴッチと“鉄人”ルー・テーズ組に黄金タッグ(坂口&猪木)で挑み、勝利し勢いに乗り始めた頃であった。

 一方の雄、全日本プロレス総帥であるジャイアント馬場は自ら築き上げてきた政治力により当時の世界最大のプロレス組織NWAを後ろ盾とし、新日本プロレスとの興行戦争を闘っていた。73年の暮れには元柔道王者であるアントン・へーシンクを全日本プロレスのリング上でプロレス・レビューさせ、全米でもトップクラスである“鉄の爪”フリッツ・フォン・エリックを呼び華やかにPWFの王座防衛戦を行った。ファンから見ていると両団体の勝負は互角のように見えていた頃である。
 そして年が明けた1974年、プロレス界にとって記念すべき飛躍の年となり、久々にプロレス市民権が復興、学校の教室などでもプロレスが話題になる事が多くなる記念イヤーの幕開けである。
 世相において、正月に封切られた『燃えよドラゴン』なるアメリカ映画が大ヒット、スクリーン内で香港の大スターであるブルース・リーが鍛えた体、超人的な技、ヌンチャックの妙技、少林寺拳法を駆使しながら大きな敵と闘う姿に格闘技、プロレスファンをも魅了してしまい、多かれ少なかれプロレス界にも影響を及ぼしていた。
 そんな中、例年新春シリーズは春の本場所リーグ戦に向け、両団体において外国人レスラーの質や話題性においても少し落ちるのが普通であったが、そのタイミングで全日本プロレスのジャイアント馬場は新日本プロレスに対して、新春早々とNWAという名の大看板にて奇襲攻撃を仕掛けたのである。

 新日本プロレスは昨年同様、大衆受けする異色双子レスラーである、300キロのベニー、290キロのビリーのマクガイヤー兄弟、大型バスを口に咥えて引っ張る怪力のマイティ・カランバ、英国のテクニシャン、トニー・チャールスとピート・ロバーツのシリーズ参加を発表。日本陣営も星野勘太郎の凱旋帰国、特別参加でヤマハ・ブラザーズの復活をアピールしシリーズを煽った。
 開催会場も大阪、宮城、札幌、東京大田区体育館を含んだ2月上旬までのロング・シリーズである。昨年、新日本プロレスを支えたルー・テーズ、カール・ゴッチ、タイガー・ジエット・シン、ジョニー・パワーズという大物の名前は無かったが、バラエテイーに富んだシリーズだと期待したものだ。

 そしてジャイアント馬場は会見で次のように発表しプロレスファンは驚嘆した。
 新春NWAシリーズにおいてテリー・ファンク(まだブレイクする前)、ジェリー・ブリスコ(NWA王者ジャック・ブリスコの実弟)、ルーク・グラハム、プロフェッサー・タナカ、ザ・パトリオット(ボビー・ハート)の参加を発表。これだけでも十分のメンツである。が、シリーズの後半になんと!現NWA世界ヘビー級王者ジャック・ブリスコ、前NWA世界ヘビー級王者ハーリー・レイス、元NWA世界ヘビー選手権王者ドリー・ファンク・ジュニアの同時来日を発表した。
 さらにタイトルマッチのスケジュールも併せて発表されたが、驚くことに23日の長崎で馬場とブリスコのPWF&NWAのダブルタイトル戦、24日広島でその勝者にハーリー・レイスが挑戦、さらに27日大阪でその勝者にドリーが挑戦、28日名古屋では前日の勝者にザ・デストロイヤーが挑戦し最終戦の東京ではその時点の王者にジャンボ鶴田が挑戦するというNWAの5連戦という豪華版であった。

 ファンにとっては正月明けからのお年玉興行である。私は両方のチケットを購入し楽しみにその日を待った。そしていよいよ、先行である新日本プロレスの大阪決戦(大阪府立体育会館)へ足を運ぶ。観客は5800人とほぼ満員でありテレビ中継もあり館内は活気にあふれていた。
 セミファイナルが始り、マクガイヤー兄弟がスクーターで登場すると館内は大いに湧き始め、今日こそアントニオ猪木がフォール勝ちしてくれるとの期待がリングに集まった。試合は柴田勝久がコーナーで攻められ、ビリーが助けに入った猪木を羽交い締め、そこにベニーが突進するところ猪木がダブルキックで応戦、フォールかと思ったところに、かつてUN王座を争ったジョン・トロスが乱入し猪木のNWF挑戦をアピールした。そう新日本プロレスも後半になんとか大物外人をと、トロス兄弟を投入して全日本に応戦しようとしたのだ。メインはそのまま坂口とジョン・トロスのシングル戦になだれ込み引き分けとなった。

 総合評価として振り返れば、格落ちの感があるがジョン・トロスをメインイベントで特別参加させた事により会場は大いに盛りあがっていた印象が強く、やはり猪木と坂口という看板は弱体外人であっても大阪(やはり大阪の猪木ファンは多いのを実感)のファンを十分納得させる興行になりえた。また、色モノではあったが、マクガイヤー兄弟の話題はプロレス専門誌紙だけでなく芸能雑誌をも巻き込むぐらい世間を賑わし、新日本のゲリラ戦略は功を奏していた。

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