時を戻そう! コロナに翻弄された2020年のマット界を振り返る

 マット界のみならず、2020年を振り返る際、新型コロナウイルス(COVID-19)を無視することはできない。世界で初めてウイルスが検出されたのは去年のことだが、日本で広く知られるようになったのは今年の2月、横浜港に寄港したクルーズ客船『ダイヤモンド・プリンセス』で感染者が出た時だった。
 当初は2週間か1ヵ月ぐらいで収まるのではないか、という楽観論もあったが、あっという間に日本中に飛び火、それどころか世界中を巻き込んで、2020年が終わろうとする現在でも未だに終息の気配が見えない。

 もちろん、マット界も大打撃を被った。当初は興行そのものが中止、開催されるようになってからでも無観客試合を余儀なくされ、現在は有観客となっているがキャパシティの半分しか客を入れないなどの対策がとられている。


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真っ先に批判の矢面に立たされたK-1

 今年の春、コロナの脅威が認識され始めた頃、政府や埼玉県が自粛要請していたにもかかわらず、3月22日にさいたまスーパーアリーナでK-1 WORLD GPが強行開催された。しかも無観客ではなく、制限したとはいえ6,500人(主催者発表)の観衆を集めたのである。
 この件に関して、埼玉県知事は「非常に残念」とコメントを発表。ネット上でも賛否両論が渦巻いた。最も残念だったのは「K-1ってまだやってたの?」という声だったが……。

 あれから約9ヵ月も経った現在を見ると、K-1が開催を自粛しようが、状況は全く変わらなかっただろう。その意味では、観客数を制限しての開催は正しかったということになる。
 格闘技の場合は、プロレスやプロ野球に比べて興行数が非常に少ないので、1回のイベントを中止すると致命的になるのだ。たとえ開催しても無観客なら大赤字、有観客でもキャパの半分だとペイできないだろう。特に、さいたまスーパーアリーナのように大きな会場ならなおさらだ。格闘技が人気絶頂だった頃と違い、テレビの放映権料を当てにできないのである。

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 RIZINの榊原信行代表は、開催を強行したK-1に「K-1だけが批判されるのはおかしい」と理解を示した。イベントの中止は、格闘技団体にとって死活問題だと判っているからである。
 しかし、RIZINは4月の大会を中止、8月まで開催しなかった。RIZINの場合は、テレビ局やスポンサーの意向を無視できないからだろう。

 結局RIZINが今年、開催したイベントは大晦日に予定されている分を含めて6回。無観客試合はなかったとはいえ、観客はキャパの半分ぐらいしか集められなかったのだから、やはり大打撃だっただろう。それでも、大晦日を含めて2回も地上波ゴールデン・タイムで生中継があるのだから、格闘技界では恵まれている方だ。

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BS朝日『リターンズ』のゴールデン放送も、世間には浸透せず

 格闘技よりもイベント数が多いとはいえ、当然プロレス界もコロナ被害を受けた。業界最大手の新日本プロレスは、1月4、5日の東京ドームでは2日間で約7万人も動員したものの、その後はコロナによって開催延期や中止、無観客試合を余儀なくされた。有観客となった現在でも他のイベントと同様、キャパより遥かに少ない人数しか観客を入れることができない。
 スペクテーター・スポーツのプロレスにとって、無観客試合は何よりも痛手だ。プロレスは記録や勝敗を争うわけではなく「客に見られてナンボ」の商売だからである。

 そんな中での朗報は、4月からBS朝日の『ワールドプロレスリング リターンズ』が金曜夜8時台で放送開始したことだ。地上波ではないとはいえ、プロレスが無料放送で金曜夜8時に帰って来たのである。
 7月3日は、34年ぶりの生放送となった。この時はTwitterでトレンド入りしたほどだ。

 ただ、残念ながらこの生放送は無観客試合だった。つまり、観客の熱狂がお茶の間に伝わらなかったのである。しかも、試合途中で放送終了という尻切れトンボ。生中継感を出したかったのかも知れないが、視聴者は不完全燃焼になったのではないか。
 また、この生放送以外では、ほとんどの試合が1~2ヵ月遅れ。インターネット時代にこの遅れ放送では、ゴールデンと言っても有難味は半減だろう。

『リターンズ』を見ていると、異次元空間に入り込んだような気分になる。CMは番宣とブシロードのゲームを除いてプロレス関係ばかり。それも、他の番組では見たことのないCMのオンパレードだ。吉野家のCMの時だけ娑婆に戻ったような気がするが、12月4日の放送時点では吉野家は番組スポンサーから降りていた。『リターンズ』はプロレス・ヲタクしか見ないのだろうか。

 地上波のテレビ朝日では『ワールドプロレスリング』を1時間繰り上げて午前1時からの放送になり、さらに深夜番組の『新日ちゃん。』を放送開始した。そういう意味ではテレ朝も新日に力を入れているが、どれぐらいの効果があるのかは判らない。
 いずれにしても深夜帯のままだし、あくまでも関東のみの話だ。『ワープロ』ではテレ朝より1ヵ月の遅れネットという地方局もある。

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コロナにより、各プロレス団体はますます先行き不透明に

 新日本プロレス以外の団体では、4月1日を以ってWRESTLE-1が活動停止に追い込まれた。コロナは泣きっ面に蜂だったかも知れないが、崩壊は時間の問題だったとも思える。

 プロレスリング・ノアは、今年で早くも20周年。不祥事だらけだった頃から考えると、よく20年も持ったなというのが正直な感想だ。ちなみに、力道山が興した日本プロレスは、キッチリ20年で崩壊した。昔と違い、地上波テレビ中継がなくても20年もプロレス団体が存続するというのは、プロレス団体も倒産しないノウハウをそれなりに身に付けたのだろう。
 その一つが、今年の1月29日にノアが(株)サイバーエージェントの子会社になったことだ。今やプロレス団体は、一般企業の傘下に入ること以外に生き残れない状態になっている。
 この買収劇によりノアは、DDTプロレスリングおよび飲食事業のDDTフーズと経営統合された。

 コロナによって、弱小団体の淘汰は加速するだろう。ただでさえ経営基盤が脆弱なのに、興行中止や無観客試合は致命傷になる。試合映像もネット配信ぐらいしかなければ、その団体が一般人の目に触れる機会も少ない。
 プロレス団体の合併が一気に進み、団体のメンツとか理想などとは言っていられなくなる。新日本プロレスと並ぶ老舗の全日本プロレスだって、例外ではないかも知れない。小川直也が参戦しても、事態はさほど変わらないだろう。

 現在は新日本プロレスの独走状態と言われているが、実態はプロレス黄金時代とは全く違う。1980年代がアーモンドアイ(新日本プロレス)vs. コントレイル(全日本プロレス)のジャパンカップだとすれば、今のプロレス界はカメの運動会の中にトカゲ(新日本プロレス)が一匹、混じっているようなものだ。

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2020年を振り返るうえで、避けて通れない木村花さんの死

 今年のマット界も、数々の訃報があった。
 思い付くまま並べても、1月はガチンコ強さで有名だったケンドー・ナガサキ(桜田一男)さん、ロック様の父親であるロッキー・ジョンソンさん、3月はイギリス修業中の前田日明の世話をしたウェイン・ブリッジさん、初代K-1グランプリ王者のブランコ・シカティックさん、5月は日本遠征経験もあるダニー・ハボックさん、7月は初代ブラック・タイガーのマーク・ロコさん、8月は“ウガンダの大魔神”ジャイアント・カマラさん、9月はホークと最強タッグ・チームを組んだアニマル・ウォリアーさん、10月は新日本プロレスのマットにも上がったトレイシー・スマザーズさん、11月は初代タイガーマスクとマスク剥ぎマッチを行ったボビー・リー(マスクド・ハリケーン)さん、12月はWWEの重鎮だったパット・パターソンさんら、ほぼ1ヵ月に1人のペースで悲しい知らせが届いている。抜けている人がいれば、ご容赦いただきたい。

 そんな中で、最も痛ましく、かつ今年のマット界で最大のニュースになったのは、5月23日に亡くなった木村花さんだろう。2020年の振り返りに関し、木村さんに触れないわけにはいかない。
 木村さんの享年は弱冠22歳。この若さで、自ら命を絶ったとみられる。なんと哀しい出来事だろうか。
 自殺だとすれば、原因はSNS上での誹謗中傷だという。いかにも現代的な事件だった。

 木村さんの死にはプロレス界は関わっていないが、それでもプロレスラーが死を選んだのである。現在ではプロレス・格闘技団体にとってSNS発信は欠かせない時代。マット界は、SNSの活用法を真剣に考えなければならない。SNSは、命を救う道具にも、命を奪う道具にもなるのだ。
 例えて言うなら、SNSは医者が持つメスのようなもの。メスによって手術が可能になり、病気を治して命を救うことができるが、メスで心臓を突き刺せば人を殺すこともできる。

 プロレス界は木村花さんという貴重な宝をSNSによって失ったのだから、率先してSNSを良い方向に導くイニシアチブを取ってはどうだろうか。それが木村花さんに対する最大の供養になると思う。

▼この笑顔も、二度と見ることはできない

 2020年のマット界を振り返ったが、コロナのせいもあって暗い話題ばかりとなった感は否めない。コロナも早期終結して、2021年こそは良い年になってもらいたいものだ。


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