木村花さんの死、昔からプロレス界でもあった誹謗中傷の問題

 本誌でも既報どおり、スターダムの木村花さんが亡くなった。亡くなる前日には、Twitterで自殺をほのめかすツイートがあったため、自殺だったと見られる。22歳という若さで自らの命を絶つ、実に痛ましい。
 自殺だとすれば、その原因となったのはSNS上での誹謗中傷だという。木村さんは『テラスハウス』という恋愛リアリティの番組に出演しており、その内容について心無いことを多数書かれたというのだ。

 SNSによる誹謗中傷の犠牲になったのは、木村さんだけではない。一般人でも、SNSでの書き込みで自殺に追い込まれた人は大勢いる。
 SNSという顔の見えない世界で、他人を不当に非難し、書いた本人は快感を得る。書かれた相手がどうなろうが、知っちゃこっちゃない。実に無責任で卑怯な考え方だ。

 今回の事件(と言っていいだろう)は、いかにも現代的な犯罪(と言っていいだろう)とも言えるが、形を変えているだけで昔から同じような事はあった。
 たとえば筆者は中学時代、進研ゼミに入会していたが、毎月(月2回だったかも知れない)送られてくる教材には会員(当然、中学生)による投稿コーナーがあったのである。
 この頃、問題になっていたのは、ある男性アイドルが映画の中でキスシーンを演じ、その女性ファンが相手役の女性タレントにカミソリを郵送で送り付ける、というものだった。
 この件に関し、進研ゼミの投稿コーナーで、ある女子中学生がそういう行為を批判したのを憶えている。もっともな意見だろう。

 ところが、その後の投稿コーナーで、大反論してくる女子中学生がいたのだ。
「何が悪いの? 私はカミソリを送り付けてやったわよ! 腹が立ったのだから当然でしょ!!」
 なんと、自分のしたことを悪びれることなく、正当化したのだ。いや、正当化とすら言えないだろう。ただ単に、自分の感情に任せて、他人を威嚇したことを平然と告白したのだから。この女子中学生が今頃、どんなオバハンになっているのか、子供がいるとしたらどんな教育をしているのか、考えるだけでも恐ろしい。

▼木村花さんと木谷高明氏

▼スターダム木村花が逝去 自殺を思わせる深夜ツイートから音信不通

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一部の心無いファンのために、自宅が被害に遭ったラッシャー木村

 SNSなんてなかった時代、プロレス界でもファンによる誹謗中傷はたくさんあった。前述の女子中学生のようにカミソリを送り付けることはもちろん、イタズラ電話や無言電話、プロレスラーの自宅に悪戯するというものである。つまり、現在のSNSよりも直接的な行動だったわけだ。
 当時は今とは比較にならないほど、団体のファン同士による対立が深かった時代。男子プロレスには全日本プロレス、新日本プロレス、国際プロレスの3団体しかなく、特に新日本プロレスのファンには、他団体蔑視という思想があった。そういうファンは新日信者、猪木信者と呼ばれていたのである。

「新日本プロレス、そしてアントニオ猪木のプロレスこそが正しいプロレスであり、全日本プロレスや国際プロレスなどは三流のショーに過ぎない。プロレスが世間で八百長呼ばわりされたり、バカにされたりするのは、全日や国プロのせいだ!」
 などという意見が平気でまかり通っていた。実際に、タレント議員でWWF(現;WWE)の常任理事を務めていた野末陳平ですら、自著で同じようなことを書いていたのである。このような著名人の主張も、新日信者を後押ししたのだろう。

 1981年、国際プロレスが崩壊して、そのエースだったラッシャー木村をはじめアニマル浜口、寺西勇が新日本プロレスのマットに上がった。彼ら国際軍団に与えられた使命は、新日勢に対する悪役になること。新日本プロレスは、ファンの蔑視思想を上手く利用したのだ。
 ラッシャー木村がアントニオ猪木と対戦する。しかし、木村が危なくなるとアニマル浜口や寺西勇が乱入。会場を埋め尽くした新日ファンは「帰れ!」コールの大合唱だ。
 髪切りマッチでは、木村が猪木に負けたにもかかわらず髪を切らずに逃走。新日ファンの怒りは頂点に達した。もちろん、全てアングルなのだが、当時のファンはそんなこと知る由もない。

 怒った(ふりをした)猪木は「お前ら3人まとめてかかってこい!」と挑発。アントニオ猪木vs.ラッシャー木村&アニマル浜口&寺西勇という、異例の1対3ハンディキャップ・マッチとなった。当然これは『国際プロレスなんて所詮、エースを含めた3人が束になって闘わないと猪木には敵わない』というイメージを植え付ける戦略である。
 この屈辱的なマッチメイクには、さすがに浜口と寺西は怒ったが、木村は「これが俺たちの仕事だ。ガラガラだった国プロと違って、新日では超満員の観衆の前で試合ができる。国プロでは考えられなかったほどの高いギャラを、新日は払ってくれるじゃないか」と意に介さなかった。

 こんな『いい人』のラッシャー木村の自宅に、一部の心無い新日信者が悪戯を仕掛けた。庭に生卵を投げ入れたり、あるいはピンポンダッシュという小学生レベルのことをしていたのである。
 ラッシャー木村と言えば、動物好きで有名だ。そんな木村の愛犬に、新日信者は変な餌まで与えていたという。そのため、愛犬は円形脱毛症となった。
 さっきは悪戯と書いたが、ここまでくれば悪戯では済まないだろう。レッキとした犯罪だ。

▼ラッシャー木村の自宅は、一部の心無い新日信者のために被害を受けた
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誹謗中傷した人は、覚悟しておいた方がいい

 1980年代と言えば、全日本女子プロレスもブームとなっていた。人気絶頂だったのが長与千種&ライオネス飛鳥のクラッシュ・ギャルズである。
 クラッシュ・ギャルズと敵対していたのが、ダンプ松本が率いる極悪同盟だった。極悪同盟はその名の通り悪の限りを尽くし、レフェリーの阿部四郎まで味方に付けてファンから憎まれる。
 今ならアングルだとすぐに判るが、当時のクラッシュ信者はニワカの女の子がほとんどで、プロレスに対する免疫がない。ダンプ松本らは本当に人間のクズだと、彼女らは信じ込んでいた。

 そこから先は、ラッシャー木村と同じである。一部のクラッシュ信者はダンプ松本の実家まで押しかけ、窓ガラスを割ったり、玄関のドアには誹謗中傷するビラを貼ったりした。さらには留守中に家へ入り、現金まで奪ったという。こうなると立派な窃盗罪、住居侵入罪である。
 ダンプ松本はリングで悪いことをして、私たちのクラッシュ・ギャルズを痛めつけているんだ。これぐらいされて当然だ、などという勝手な理屈を付けて悪行を繰り返した。冒頭で書いた、女性タレントにカミソリを送り付けた女子中学生と同じ思考である。
 ダンプ松本自身は『ファンの罵声はヒールの勲章』と思っていたかも知れないが、家族は堪ったものではない。ダンプ松本も、家族に対しては申し訳ない思いだっただろう。

▼プロとして悪役に徹したダンプ松本は、その代償として実家が襲撃された
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 ダンプ松本と抗争していた長与千種は、今回の木村花さんの件に関し、「(木村花は)悪役を演じただけ。本当の彼女は礼儀も優しさも兼ね備えた後輩でプロレスラーだった」と自身のTwitterに綴った。
 またライオネス飛鳥も自身のブログで「これからの女子プロレスを担うべき選手…とても悲しい」と語っている。彼女らクラッシュ・ギャルズも、悪役だったダンプ松本の苦悩を知っていた。

 今回の、木村花さんに対するSNSでの誹謗中傷は、かつてのラッシャー木村やダンプ松本の家を襲撃したことと、本質的には全く同じだ。ネットでは直接の被害がないとはいえ、木村花さんは心に深い傷を負った。死を選ばざるを得ないほどに。
 しかも、SNSだと無料で手軽に、大勢の人で攻撃できる。対面しない分、誹謗する本人は陰に隠れるという、実に卑劣な方法だ。昔と比べてどちらが酷いかという問題ではなく、どちらも同罪である。

 こういう連中は、悪い奴らというよりも、精神的に未熟なのだろう。現実と虚構の見分けもつかない、ただの子供。言ってみれば、サスペンス・ドラマで犯人役を演じた俳優に対して「お前は人殺しだ!」と中傷するようなものだ。そして、自分が正義の味方になったような気分に浸る。

 今回、木村花さんを誹謗中傷した人は、これから覚悟しなければならない。ネット上に書き込んだことは、いくら削除しようがアカウントを消そうが、証拠としてバッチリ残るのである。脅迫罪や名誉棄損罪などに問われるかも知れない。
 仮に罪から逃れても、自分が書いたことが人の命を奪ったのだ。書いたときは気軽だったかも知れないが、冷静になるとその事実を受け止めなければならない。普通の人ならば、耐えられないほど後悔するだろう。その重さを、一生背負って生きていかなければならないのだ。

 もちろん『普通でない人』は平気の平左、むしろ人を殺してしまったことを喜んでいるに違いない。というより、ネットを見ると実際にそういう人もいた。
 そんなヤツは、既に人間として終わっている。

▼これからはもう、苦しむ必要はありません。安らかにお眠りください


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’20年05月28日号オーエン・ハート実録 星輝ありさ 石井智宏 シカティック 馬場さん


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▼木村花:SNS誹謗中傷の教訓~墓掘人The Last Ride3~国内外動向

[ファイトクラブ]木村花:SNS誹謗中傷の教訓~墓掘人The Last Ride3~国内外動向

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’20年06月04日号木村花追悼特集-悲嘆と教訓 AEW頂点Double-Nothing Hレイス再検証