大相撲の勝武士さんが死去! 対岸の火事ではないプロレス界

 新型コロナウイルスが角界を襲った。高田川部屋所属で三段目の力士だった勝武士(しょうぶし、本名:末武清孝)さんが5月13日、新型コロナウイルス性肺炎による多臓器不全で亡くなったのである。まだ28歳という若さだった。
 コロナで死亡したのは大相撲界では初めてのことだ。コロナ禍による日本プロスポーツ界での死者も今回が初めてと見られ、国内で明らかとなっている20代以下の死者も初めてとされる。

 勝武士さんは、3月に大阪で行われた無観客の春場所にも出場していた。春場所終了後、帰京した勝武士さんは高熱などを発症し、PCR検査で陽性と判定されたという。つまり、春場所中には既に感染していた可能性もある。
 そうすると、他の力士も感染しているかも知れない。20代の若さで、屈強な体の力士が死亡したのである。決して油断はできない。

 そして、これはプロレス界や格闘技界にとっても、対岸の火事とは言えないだろう。3月以降でも、プロレスや格闘技の試合は行われていた。もし選手の中に、感染者がいたらと思うとゾッとする。
 しかし対岸の火事というのは、それだけではない。特にプロレス界は角界と共通項が多いのだ。

▼『初っ切り』で観客を笑わせる勝武士さん(日本相撲協会公式チャンネルより)

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糖尿病が勝武士さんのコロナ死を招いた

 先に『屈強な体の力士』と書いたが、これはあまり正確ではない。死亡した勝武士さんは、必ずしも『屈強』ではなかった。
 勝武士さんは糖尿病を患っていたのである。糖尿病の怖さは、プロレス関係者なら誰でも知っているだろう。そう、谷津嘉章のケースだ。
 谷津は糖尿病のおかげで、右足切断を余儀なくされている。サンダー杉山などは、糖尿病により両足および右手首を切断した。糖尿病は、それほど恐ろしい病気なのだ。

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 糖尿病と言えば生活習慣病というイメージが強いが、実は大きく分けて1型糖尿病と2型糖尿病の2種類がある。このうち1型糖尿病は生活習慣とは関係なく、患者本人の努力ではどうしようもない。阪神タイガースの岩田稔投手がこれにあたり、高校時代に発症して、現在でも毎日4回もインスリン注射を打っている。
 問題は、生活習慣に大きく関わりのある2型糖尿病だ。谷津も2型糖尿病だった。そしてアントニオ猪木も30代後半には2型糖尿病を発症している。蝶野正洋も2型糖尿病だ。

▼40歳手前で糖尿病を発症したアントニオ猪木

 糖尿病そのものも怖いのだが、何よりも恐ろしいのが合併症だ。糖尿病によって他の病気を併発しやすくなり、また体の抵抗力もなくなるので重症化する危険性が非常に高い。
 今回の勝武士さんも、若かったにもかかわらずコロナウイルスにより死亡したのは、糖尿病による免疫力の低下が原因だろう。新型コロナ感染者の致死率は2%だそうだが、糖尿病患者が新型コロナに感染すると約4.5倍の9.2%に跳ね上がるという。つまり、およそ10人に1人は亡くなるわけだ。勝武士さんが糖尿病でなければ、若かったのだからコロナ死は防げた可能性が高い。

 前述の通り谷津は右足を切断してしまったし、そもそも糖尿病には失明の危険性がある。足の切断は義足で何とかなるかも知れないが、失明となるとかなり不自由な生活を送らざるを得ないだろう。

▼糖尿病により右足切断を余儀なくされた谷津嘉章

糖尿病や高血圧症を生み出す、力士やプロレスラーの食生活

 力士やプロレスラーにとって、糖尿病は職業病と言っていい。たとえば、力士の1日のスケジュールを見れば判る。

 まだ関取にもなっていない若い力士は、午前4時頃から稽古をする。稽古は朝食抜きだ。関取衆が稽古を始めるのは午前7時半頃。もちろん朝食抜きである。
 午前11時頃に稽古が終了し、ようやく食事にありつける。決まった稽古は午前中だけで、午後はずっと昼寝。力士によっては昼寝後に自主トレーニングをする者もいるが、午後は土俵での稽古は基本的にはない。
 午後6時頃に夕食を摂り、食後は自由。午後11時頃に就寝だ。つまり、食事は1日に2回のみである。午前中の稽古以外は基本的に、悪い言い方をすれば『食っちゃ寝』の生活だ。と言っても、若手力士は雑用で忙しいのだが。

 力士の食事が1日2食なのは、体を太らせるためである。朝メシ抜きで稽古に励み、稽古が終わると空きっ腹の状態で山ほどの食い物を胃に詰め込む。そうすると、栄養を充分に吸収するため、太ることができるわけだ。食った後は運動せずに昼寝をするので、体はどんどん太る。
 ちなみに、力士の食事というとチャンコ鍋を連想するが、そもそもチャンコとは力士の食事そのものを指す。つまり、力士が食う物はチャンコ鍋に限らず、ラーメンだろうがカレーライスだろうが、みんなチャンコだ。
 それでも、チャンコというと鍋を想像するのは、力士の主食が鍋料理だからだろう。と言っても、常にチャンコ鍋を食べているわけではなく、時期によって違う。

 たとえば場所前などは、午前中にみんなで稽古をするので、朝食(ブランチ?)時に部屋の全員が顔を揃えやすい。そういうときに『鍋をかける』、即ち食事はチャンコ鍋にするわけだ。場所前の夜は外出する力士が多いので、揃って食事ができない。そのため、場所前の夕食はチャンコ鍋にはせず、普通のおかずになる。
 逆に、場所中になると取組時間が力士によってバラバラなので、朝食時に全員が集まることはできない。つまり、場所中の朝食にチャンコ鍋が出ることは基本的にないのである。そして、場所中には夕食がチャンコ鍋になることが多いのだ。

 チャンコ鍋には、大別してちり鍋とソップ炊きがある。ちり鍋とは、昆布や魚介類などでダシを取る鍋だ。一方のソップ炊きは、鶏ガラをダシにした味付きの鍋である。痩せ型力士のことを『ソップ型』と言うが、ソップとはオランダ語でスープという意味で、鶏ガラをイメージした言葉だ。『ソップ型』とは反対の太った力士を『アンコ型』と呼ぶ。
 チャンコ鍋は塩分が非常に濃い。もちろん、その方が美味しいからだが、塩分の濃い料理は高血圧症を生み出す。動脈硬化も無縁ではない。
 そして、こうした食生活を送っていれば肥満体になり、糖尿病を生み出す土壌になっていることは容易に想像できるだろう。早死にする(元)力士が多いのは、当然の結果なのだ。

 実はプロレスラーの食生活も、基本的には力士と同じ。もちろん、力士ほど太る必要はないので相撲界のように極端ではないのだが、1日2食なのは力士と同様である。主食もやはりチャンコ鍋だ。朝食抜きで道場での練習を終えた後、レスラーたちはみんなでチャンコ鍋をつつく。と言っても、最近ではさすがに軽く朝食を摂ってから練習に励むレスラーが多くなったが。
 合宿所に住んでいる若手レスラーにとって、まず必要なのはプロレスができる体を作ること。そのためには食事もトレーニングの一環だ。若手レスラーの誰もがリバースしそうになるほどに大メシを食い、太ろうと努力する。食えない若手レスラーは、コーチから叱責されるのだ。

 そして、力士と同じくプロレスラーも、酒を浴びるほど呑む。体が大きいからこそなせる業だが、体にいいわけがない。
 こうした慣習が生まれたのは、日本のプロレス界が力道山によって体系づけられたからだろう。大相撲出身の力道山は、角界の習慣をプロレス界に持ち込んだ。チャンコ鍋もそうだし、1日2回の食事や付け人制度もそう。そして力士と同じく、プロレスラーにも大酒呑みが多い。こうした暴飲暴食が、角界やプロレス界に高血圧症および糖尿病集団を生み出し、多くの人が若くして命を落とした。

 今のプロレス界は、それほど極端ではないし、昔のレスラーに比べるとスリムになったが、それでも普通の人に比べると若死にする危険性は高い。

▼大相撲の習慣を日本のプロレス界に持ち込んだ力道山

 コロナ禍は、まだまだ続くものと思われる。プロレスラーは鍛えているからと言って、コロナウイルスに対しても抵抗力があると思うのは間違いだ。むしろ、一般人よりもリスクが高いかも知れない。
 それだけに、体が資本のレスラーだからこそ、体調管理に気を付けて欲しいと願うばかりだ。普通ではない食生活を送っているレスラーの方が、コロナ対策は万全にしなければならないのである。

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