[ファイトクラブ]SEAdLINNNG後楽園:2つの“初”勝利の意味

[週刊ファイト7月25日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼7・11 SEAdLINNNG後楽園:2つの“初”勝利の意味
  Photo & Text by こもとめいこ♂
・中島安里紗、産みの親下田美馬と初シングル初勝利
・ゴジラ松本浩代、ボス高橋奈七永に初勝利で涙の訳
・2つの勝利と今後の展望 8・18川崎伝説超花火電流爆破
・拡大版収録!全カード画像増量でお届け


 7月25日号収録の[ファイトクラブ]記者座談会でも触れられているが、マスターズをはじめとして、男子では昭和のレジェンドプロレスラーが人気だ。
 一方で女子プロレスはと言うと、そもそもマスターズの様なレスラーの括りがあまりないのが現状。例えば尾崎魔弓(50歳)、アジャ・コング(48歳)、堀田祐美子(52歳)他、90年代の団体交流戦を知る世代が、未だ現役バリバリのトップでメインを張っている。

 さらに上の世代となると全女の25歳定年という事情があって、ダンプ松本(58歳)や長与千種(54歳)が最年長の世代というところ。
 もう一つ言えば、DEEPJEWELS、RIZINの女子総合格闘技では44歳の山本美憂、42歳の黒部三奈、同じく42歳しなしさとこが20代で勝ち上がってきた若手を何人も返り討ちにしてトップに君臨している。

 これをみると、格闘技において女子は男子より比較的肉体の衰えるスピードが緩やかなのではないかとも思える。
 となれば、何度かブランクのあるとはいえ未だ48歳の下田美馬が7・11SEAdLINNNG後楽園で大いなる壁として、中島安里紗の前に立った事も当然の帰結となる。


 この試合、40歳の高橋奈七永が下品を征する“下品な先輩”として中島安里紗に下田美馬をぶつけた訳だが、下田美馬と三田英津子のラスカチョーラスオリエンタレスと言えば90年代後半には女子プロレス界を席巻、00年には女子プロレス大賞も獲得した、言わば女子プロレスの本流だったタッグチームである。
 その下田美馬のファイトスタイルが“下品”と評されるというのは、見方を変えれば、それだけ2010年代の女子プロレスが“上品”になっていると言えるのかもしれない。

 その下田美馬のプロレスを、中島安里紗は
「私の好きなプロレス」
だと評した。
 05年、AtoZに中島安里紗が入団した時に下田美馬はプレーイングマネージャーとして試合をしていた筈だが、意外にも2人はこのSEAdLINNNG後楽園が初シングル。当時の中島安里紗のポジションは到底下田美馬とシングルで闘えるところに無かった。
 AtoZの消滅後、下田美馬はメキシコへ渡り、帰国して試合をしても、JWPの中島安里紗との接点のないままで14年の歳月が過ぎた。下田美馬が自分の前に居なかった14年間、中島安里紗は心に刻んだその闘いを手本にしてきたのだろうか。
 一度は引退を決意し、再デビューの流転もあったし、ラスカチョも取ったJWPのタッグ王座にも着いた。
 そんな14年の年月が、いつしか2人の立場を逆転させていた。
 だから下田美馬が先に入場し、朱崇花と真琴にロープを開けさせて堂々入場してきた中島安里紗を待っていた。

 
 中島安里紗を育てたのはコマンド・ボリショイだ。その師は、自らに背を向け、
「強くなりたい」
と言い捨ててJWPを巣立った中島安里紗を
「独りよがり。協調性がない」
と評した。
 中島安里紗のこの“強くなりたい”の前置詞には「下田美馬の様に」とのピースが空いていたのだという事にこの後楽園のリングで気付かされた。


 後楽園の通路までもつれ合い、椅子で殴り合った16分を越える激闘の末、中島安里紗が下田美馬を下した。勝った中島安里紗も負けた下田美馬も満足げな笑みを浮かべていた。

 だが、この日の下田美馬がもし自分の好きなプロレスをやって来なかったら、あの笑みは無かっただろうと思う。
 気に入らなければ自分の師だろうと平気で顔面を蹴る中島安里紗を納得させる闘いを下田美馬はやってみせた。
 下田美馬健在なり! それを身を持って感じたからこそ中島安里紗も当然妥協のない闘いをみせた。
 リングを下りる時に顔を歪めた下田美馬の表情が、この夜の闘いが何だったのかを如実に物語っている。

 一方で、メインでの高橋奈七永と松本浩代の闘いは、下田美馬vs.中島安里紗とは多少色合いが異なる。
 中島安里紗に遅れること1年の06年デビューの松本浩代。柔道のバックボーンと恵まれた体躯でデビュー間も無く頭角を現すと早々に吉田万里子に勝利し、3年目には破壊する女の二つ名を得てアジャコングにも勝利。
 順風満帆の09年、NEO認定タッグ選手権を高橋奈苗・華名組(当時)に奪われて脚を負傷。スターダム時代にはワールド・オブ・スターダム王者だった高橋奈苗(当時)に苦杯を舐めさせられた。そして昨秋のSEAdLINNNGのリングでは、シングル王座新設を批判した事で高橋奈七永の怒りを買い、一時永久追放の憂き目をみた。
 その高橋奈七永から完璧な3カウントを奪った直後、松本浩代の眼からは涙が溢れていた。

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