[ファイトクラブ]プロレス界のドラフト会議!? プロレスラーになるためには

[週刊ファイト11月8日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼プロレス界のドラフト会議!? プロレスラーになるためには
 by 安威川敏樹
・プロ野球界のビッグ・イベント、ドラフト会議
・プロレス界にドラフト会議がない理由
・エリートと叩き上げ、その地位は逆転した!?
・プロレスラーは、入門テストを受けた『叩き上げ』が大半
・プロレスラーとプロボクサー、厳しいのはどっち?


 プロ野球(NPB)では日本シリーズ直前の10月25日、ドラフト会議が行われた。甲子園を沸かせた根尾昂内野手(大阪桐蔭高)は4球団競合の末に中日ドラゴンズが、吉田輝星投手(金足農業高)は外れ1位で北海道日本ハム・ファイターズが交渉権を獲得した。
 筆者などは日本シリーズ前のドラフトはどうにも違和感があるのだが、野球小僧の就職活動を全国ネットで地上波テレビ中継するなど、日本中が大騒ぎになる。ドラフトはもはや、プロ野球界にとって欠かせないビッグ・イベントと言っていい。

 同じプロ・スポーツでも、サッカーのJリーグにはドラフトがない。これは、プロ野球が閉鎖型スポーツ、Jリーグは開放型スポーツという面が大きい。12球団しかないプロ野球はドラフト制度がないと、有望新人獲得のため契約金が高騰してしまうが、J1~J3まで数多くのクラブがあって入れ替え戦を導入しているJリーグでは、ドラフト制度はあまり意味がないのだ。しかも、プロ野球での球団の新規参入はハードルがかなり高いが、Jリーグではさほど高くない。
 北米のMLB(野球)、NFL(アメフト)、NBA(バスケット)、NHL(アイスホッケー)、MLS(サッカー)なども閉鎖型スポーツで入れ替え戦がないため、ドラフト制度を採り入れている。それとは逆に、ヨーロッパのプロ・サッカーにはドラフト制度はない。

 それでは、プロレス界ではどうか。もちろん、ドラフト制度など存在しない。メジャー団体だけではなく、インディー団体が無数に存在するプロレスは開放型スポーツとも言え、ドラフト制度がないのは当然だ。
 しかし、かつては3団体ぐらいしかなかった頃のプロレス界は、閉鎖型スポーツだったとも言える。実際に、外国人レスラーに関しては引き抜き合戦で札束が飛び交っていたのである。しかし、新人獲得のためのドラフト制度は導入されなかった。なぜだろうか。

プロレス界にドラフト会議がない理由

 プロレス界にドラフト制度がない理由として、そもそも各団体が欲しがる逸材が、そうそう毎年のように現れないという面がある。プロレス界が欲しがる逸材とは、レスリングや柔道の重量級でオリンピックに出場した選手とか、大相撲で幕内上位に上がった力士などに限られる。
 しかも、それらの選手がプロレスラーになりたいと志望しなければ、スカウトする意味がないのだ。今やオリンピック選手ともなれば、かなりのお金を稼ぐことができるし、力士だって給金はもちろん引退後も幕内で20場所以上在位すれば親方(年寄)になれるのである。
 生活が保障されているのに、わざわざ勝手が違うプロレス界に身を投じる必要はない。それでもプロレスラーに転向するのは、よほどプロレスが好きか、そのスポーツ界に不満があったときぐらいだ。

 そもそも、プロレス界に入る前にプロレスをやっていた者はほとんどいない。プロレスの三大巨頭のうち力道山は大相撲出身で、ジャイアント馬場(プロ野球)とアントニオ猪木(陸上競技)に関しては格闘技経験すらないのだ。
 馬場、猪木の下の世代になると、ジャンボ鶴田(レスリング)、天龍源一郎(大相撲)、藤波辰爾(陸上競技)、長州力(レスリング)と、格闘技出身者は多くなるが、やはり藤波には格闘技経験はない。
 プロ野球の新人で、野球経験がない選手などまずいない。異例中の異例だったのはソフトボール出身の大嶋匠(日本ハム)だが、ソフトボールと野球はよく似た競技だし、大嶋は結局プロ野球では芽が出ずに今年で引退した。他にも陸上短距離走出身の飯島秀雄(ロッテ)が代走専門でプロ野球入りしたが、代走としても通用しなかった。

▼ジャイアント馬場が巨人に入団した頃のプロ野球にはドラフトがなく、高校中退でのプロ入り

 最近ではプロレスでもレスリング経験者が増えてきたが、基礎的な部分は同じとはいえ、やはりプロレスとアマレスは全然違う。逆に、アマレスの癖が抜け切れずに、プロレスでは苦労する選手もいる。
 それでもプロレス界が格闘技経験者を欲しがるのは間違いないが、特に重量級が求められるので、そこまでの逸材がそうそう現れるものではない。

 新人獲得合戦が毎年、行われるわけではないのに、ドラフト会議などやる意味がないのである。

エリートと叩き上げ、その地位は逆転した!?

 プロレスラーには、エリートと叩き上げという2種類があるとよく言われる。他の格闘技で実績をあげていた選手はエリート、何の実績もない選手は叩き上げというわけだ。プロ野球でいえば、ドラフト上位指名がエリートで下位指名が叩き上げというところか。最近では育成選手という制度もあり、彼らはドラフト組よりもさらに叩き上げと言えるだろう。

 現実的に、ドラフト上位選手は注目されてチャンスを多く与えられるし、下位選手や育成選手は一度のチャンスをモノにできないと、ずっと這い上がれないということがある。
 しかし、実際にはプロの土俵に立ってしまえば同じとも言えるのだ。ドラフト上位選手はチヤホヤされて天狗になり、そのまま堕落してしまうことも多い。一方のドラフト下位選手は注目されることもなく練習に打ち込めるので、大成する場合もある。イチロー(マリナーズ)はドラフト4位の選手だった。あるいは、育成登録から支配下登録されて、一気に一軍のレギュラーとなる選手もいる。千賀滉大(ソフトバンク)は、育成選手から侍ジャパンのエースにまで成長した。

 プロレス界ではかつて、エリートと叩き上げではハッキリとした差があった。エリートはどんどんチャンスを与えられ、いきなりメイン・エベントやセミ・ファイナルなどの檜舞台に上がることができる。元横綱の北尾光司は、日本デビュー戦で東京ドームのセミ・ファイナルに出場し、エース外人のクラッシャー・バンバン・ビガロにフォール勝ちするという破格の扱いを受けた。
 一方の叩き上げ選手は、ほとんどが『噛ませ犬』。エリートの引き立て役に甘んじて、メイン・エベンターには一生なれないレスラーが多かった。

 しかし最近では、エリートと叩き上げの差はあまりない。元横綱というようなビッグ・ネームがプロレス界に入って来なくなったということもあるが、他の格闘技で成功した選手は、どこかプロレスをナメているという部分もあるだろう。実際に北尾や、先日亡くなった元横綱の輪島大士もプロレスでは成功しなかった。

 レスリング経験者でのエリートといえば、谷津嘉章が思い出される。モスクワ・オリンピックでは重量級の選手として金メダル確実と言われながら、日本のボイコットにより出場できず、そのまま新日本プロレス入り。
 プロレスに転向した2ヵ月後には早くもWWF(現:WWE)でマジソン・スクエア・ガーデン(MSG)のマットを踏み、その半年後には蔵前国技館でアントニオ猪木とタッグを組んでのメイン・エベントでの日本デビュー戦という破格の扱いを受けた。しかし、その後の谷津は主力選手として活躍したもののエースにはなれず、デビュー前の期待通りに育ったとは言い難い。このことは、既に本誌でお伝えした通りである。

▼[ファイトクラブ]記者座談会:現在の谷津嘉章にゴールデンルーキー時代の面影なし

[ファイトクラブ]記者座談会:現在の谷津嘉章にゴールデンルーキー時代の面影なし

 むしろエリートよりも、叩き上げの方が純粋にプロレスのことを好きな場合が多いので、大成する可能性があるとも言える。

プロレスラーは、入門テストを受けた『叩き上げ』が大半

 オリンピックとまではいかなくても、大学のレスリング部で実績があり、プロレス志望の選手がスカウトされた場合もエリートと言えよう。秋山準がそのタイプで、デビュー戦ではいきなりセミ・ファイナルでトップ・レスラーだった小橋健太(現:建太)とのシングル・マッチが組まれた。プロ野球でいえばドラフト2位クラスの逸材である。

 エリートとは言えなくても、スカウトされる選手もいる。前田日明などがそうだ。前田が大阪の空手道場に通っていたときに、たまたま練習に訪れた当時は新日本プロレスの佐山聡が前田の素質に目を付け、すぐに本社へ連絡して、プロレスに興味のなかった前田を強引にスカウトした。もっとも、UWFを設立した後の前田と佐山は犬猿の仲になったが……。
 それはともかく、アマチュアでの実績はなくても、前田のような選手は将来を約束される場合が多い。プロ野球でいえばドラフト3位ぐらいか。プロ野球のように何千万円もの契約金を貰えるわけではないが、入門の支度金として数万円を渡されることもある。

素質を見込まれ、新日本プロレスにスカウトされた前田日明

 しかしプロレス界において、プロ野球でいうドラフト上位組はほんの一握り。ほとんどがドラフト下位、いや育成枠と言っていい。実態はテスト生だ。球団がテストを行い、素質がありそうな若者を「一応、取っておくか」という形で入団させるのである。野村克也はテスト生上がりだ。そこから努力して三冠王になり、選手兼監督にもなったが、こんな選手は稀である。

 プロレス界は、多くの新人がテスト生だ。各団体が希望者を募り、テストに合格した者だけが入門を許される。力道山が興した日本プロレスでは、テストすら行われなかったという。希望者を入門させて、厳しい練習について来れた者がプロレスラーとなる。ついて来れなければ、そのままプロレス界とはオサラバだ。

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