百花が日韓戦勝利~関西のミネルヴァ級が女子キックの新たな扉を開けるのか⁉『DEEP☆KICK 36』

 プロモーションが認定するチャンピオンはひとりたりとも出場していなかった。おまけにKO決着はひとつもなし。それでも、『DEEP☆KICK 36』(7月1日・大阪市立旭区民センター大ホール)はオープニングファイトからメインイベントまで盛り上がった。なぜか? それはダウンを奪われても勝負を諦めず最後まで食らいついていった選手が多かったのに加え、激しいシーソーゲームが続出したからだろう。
 15歳 vs. 16歳というフレッシュな対決があれば、無敗記録を更新した期待のルーキーもいた。早くも夏本番を迎えたDEEP☆KICKのハイライトをお届けする。

 36回を数えるDEEP☆KICK史上初めて女子が大トリを務めた。主役は昨年9月、C-CHANをスピリット・デシジョンで撃破してミネルヴァ・アトム級王者の百花。新人時代はビジュアル系として売り出されていた彼女もいまではすっかり実力派に変身。従兄弟で同門の政所仁と切磋琢磨しながら関西で女子キックを普及させようとしている。
 そんな百花と日韓対抗戦4VS4の大将戦で対峙したのはキム・ヒョンジュ。一昨年には大韓ムエタイ協会51㎏級で新人王を獲得し、その勢いで昨年は世界キック連盟主催の同級トーナメントで優勝している昇り調子の女子キックボクサーだ。韓国キック界の女王でKNOCK OUT参戦経験もあるイ・ドギョンともすでに対戦し、ドギョンを追い込む場面も作ったという。
 いまだから書けるが、百花とのマッチメークは困難を極めた。もともとピン級やアトム級(46.26Kg以下)が適正体重の百花とは体重が合わなかったのだ。今回は韓国で百花の体重に合う選手が見つからなかったので、お互いの体重をすり合わせ契約体重を48㎏級に設定することがようやくマッチメークは成立した。

 それでもふたりの体格差は如何ともしがたく、1Rヒョンジュのミドルキックを食らうと、百花はパワーの差を痛感した。
「一瞬、ウッとなりました」(百花)
 ただ、パワーでは分が悪くても、スピード、手数、機動力では百花の方が断然上。2Rになると、1Rからコツコツと打ち続けていた右ローキックが効き始め、ヒョンジュがグラつく場面も。続く3Rも試合を優勢に進めた百花が文句なしの判定勝ちを収めた。

 試合後、男女混合大会の大トリの重責を果たした百花は「これからは関西を中心にミネルヴァを盛り上げていきたい」と力強くマイクアピールした。詳細を関係者に聞くと、今後はNJKF西日本やDEEP☆KICKだけではなく、イノベーション認定大会であるBORDER-KICK、NKB西日本、ホーストカップ(順不同)でもミネルヴァを女子キックの総称として位置づけ、業界全体で盛り上げていく意向なのだという。

 ならば、今後は関西を中心にミネルヴァのリーグ戦やトーナメントも組みやすくなる。この日もうひとつ組まれた女子キック─Ayaka vs. キム・スヨンでは、Ayakaが高校生とは思えぬフィジカルの強さで粘るスヨンをねじ伏せる形でプロ初勝利をあげた。
 今回の試合結果を受け、Ayakaとともにキム・ヒョンジュとキム・スヨンもミネルヴァのランキング入りを果たした。関西のミネルヴァが女子キックの新たな扉を開けるのか。                  

松岡VS風音

 松岡宏宜と風音によるDEEP☆KICK53㎏級次期王座挑戦者決定戦は、1R2分過ぎ松岡の首に絡みつくような右ハイキックでダウンを奪った風音が3-0の判定勝ち。現王者・滉大への挑戦権を手に入れた。
 ダウンを奪われた直後の松岡は意識朦朧で、よく凌いだという印象だった。しかし、2Rになると、セコンドの「(自分を)信じろ!」というゲキを背に松岡は危険な打ち合いに何度も挑み、試合の流れをたぐり寄せる。3Rになっても、松岡のプレッシャーは増すばかり。大逆転を狙ったバックハンドで何度も会場をわかせた。
 結果的に風音がダウンで稼いだポイントを守りきる形で勝利を収めたが、松岡の諦めない気持ちも光った一戦だった。誰の目から見ても今大会のベストバウトだ。

金剛VSキム・ミンファン

 4VS4日韓対抗戦副将戦ではDEEP☆KICK-60㎏級5位の金剛駿がキム・ミンファンを迎え撃った。
1R開始早々、激しいパンチの打ち合いになったが、そうした中金剛の右フックがジャストミート。ミンファンを意識を失ったかのように倒れ込んだ。この一撃で勝負ありかと思われたが、立ち上がってきたミンファンは猛反撃に転じる。そうすると、金剛はいきなり失速。ダウンを奪ったことが嘘のように守勢に転じてしまう。
 2R以降はシーソーゲーム。金剛が右を狙えば、ミンファンはローで崩しにかかる。3Rになると、もうあとがないこの韓国人キックボクサーは金剛の蹴りをとってからの右ストレートでスリップダウンを奪うなど猛反撃を見せ明らかにポイントを奪ったが、時すでに遅し。金剛は1Rのポイントを守りきる形で薄氷の勝利を収めた。
 リスクの大きい打ち合いにも挑めるという点で、金剛は地元関西で注目度の高い選手になりつつある。ただ、クラスアップを目指すならば、ディフェンス面の強化が必要不可欠になってくるだろう。

鷹介VSイ・スンヒョン

 今大会で組まれた4VS4日韓対抗戦は日本チームが3勝1敗と勝ち越した。韓国チームで唯一白星を挙げたのは鷹介を2-0の判定で破ったイ・スンヒョン。1Rからタイミングのいいカウンターのヒザ蹴りや破壊力抜群の左ボディストレートで鷹介を削っていく。ラウンド終了間際には力強い前蹴りで鷹介から大きなスリップダウンを奪うと、超満員の会場から大きなどよめきが起こった。
 2Rからは飛びヒザ蹴りも繰り出すスンヒョン。鷹介もローキックで必死の反撃を試みるが、終わってみれば、2-0でスンヒョンが判定勝ちを飾った。
 スンヒョンは過去何度か来日のチャンスがありながら、いずれも諸事情により実現しなかったという。今回が初来日。55㎏級に面白い存在が現れた。試合前まで鷹介はDEEP☆KICK 55㎏級4位にランクインしていたので、同大会の実行委員会はスンヒョンをランキング入りさせることを明らかにした。

前半戦のハイライト

 前半戦で目立ったのは郁弥を破ったTETSU。顔面を狙ったハイキック、ヒザ蹴り、前蹴りで場内をわかせ、左ストレートでダウンを奪い、大差の判定勝ちを収めた。これで4戦全勝(2KO)。57㎏級戦線で上位進出を狙う。
 TETSUと同じ月心会チーム侍の所属で2000年生まれの厳基もポテンシャルの高さを見せつけた。まだ体型は少年のそれから抜け出していないが、強烈なプレスから放つローやストレートは強烈無比。しかもむやみやたらに強打を放つのではなく、力哉の動きをよく見ながら攻撃する姿勢にも好感が持てた。
 ダウンの応酬の末引き分けた生川龍星と横野洋も期待できる存在に映った。結果的に敗れたとはいえ、木村颯太は光るセンスを感じさせた。現在のDEEP☆KICKの選手層は十代から20代前半が中心。次回9月23日大会ではどんな若い力が爆発するのか。

文:スポーツライター 布施綱治
写真:235photo / 石本文子

■『DEEP☆KICK 36』
日時:2018年7月1日(日)START 13:30
会場:大阪市・旭区民センター大ホール 大阪市旭区中宮1-11-14
お問い合わせ:DEEP☆KICK実行委員会(TEL 06-6754-8588)

試合結果
<ダブルメイン2ダブルメイン2 日韓対抗戦4対4 ミネルヴァルール 48kg契約 2分3R>
○百花(魁塾/ミネルヴァ・アトム級王者)
●キム・ヒョンジュ(釜山TAEHAN MUAYTHAI/韓国)
判定3-0(30-29、20-28、20-27)
※契約体重を48kg契約に訂正

<ダブルメイン1 DEEP☆KICK 53kg級次期王座挑戦者決定戦 3分3R(延長1R)>
●松岡宏宜(闘神塾/4位)
○風音(京賀塾/フレッシュマン53kg 1dayトーナメント優勝)
判定0-3(28-29、28-29、27-30)
※風音が次期挑戦者に決定

<トリプルセミ3 日韓対抗戦4対4 60kg級 3分3R>
○金剛 駿(Kick-Style/5位)
●キム・ミンファン(韓国国)
判定3-0(29-27、29-28、30-27)

<トリプルセミ2 日韓対抗戦4対4 55kg級 3分3R>
●鷹介(TeamHawk/4位)
○イ・スンヒョン(韓国)
判定0-2(28-29、27-30、29-29)

<トリプルセミ1 日韓対抗戦4対4 50kg級 2分3R>
○Ayaka(NJKF・健心塾)
●キム・スヨン(韓国)
判定3-0(30-28、30-28、30-29)

<第9試合 DEEP☆KICK 63kg級 3分3R>
○SEIYA(MADMAX GYM/2位)
●木村颯太(NJKF・拳心会館/6位)
判定3-0(30-29、30-29、30-28)

▼第8試合 DEEP☆KICK 55kg級 3分3R
△生川龍星(魁塾)
△横野 洋(アンカージム)
判定0-0(三者とも28-28)

▼第7試合 57.5kg契約 3分3R
●雄大(TeamFreeStyle)
○殿(NJKF・心将塾)
判定0-3(三者とも28-29)

▼第6試合 DEEP☆KICK 55kg級 3分3R
○厳基(月心会チーム侍/5位)
●力哉(BKフィットネスジム)
判定3-0(30-27、30-27、30-28)

▼第5試合 58kg契約 3分3R
●虎之介(NJKF・誠輪ジム)
○勇哉(WarriorOsaka)
判定0-3(28-30、28-30、29-30)
※虎之助が計量オーバー、減点1とグローブハンデ

▼第4試合 57kg契約 3分3R
●郁弥(山口道場)
○TETSU(月心会チーム侍)
判定0-3(27-29、27-30、26-30)

▼第3試合 DEEP☆KICK 63kg級 3分3R
○堀池空希(究道会館)
●篤椰(team Bonds)
判定2-0(29-28、29-28、28-28)

▼第2試合 DEEP☆KICK 65kg級 3分3R
●ダイナマイト ユイト(G-FREE)
○佐野克海(NJKF・拳之会)
判定0-3(29-30、28-30、27-30)

▼第1試合 DEEP☆KICK 53kg級 3分3R
●岡野勇馬(山口道場)
○甲斐元太郎(NJKF・理心塾)
判定1-2(29-28、28-29、28-29)

〈オープニングファイトNEXT☆LEVEL提供試合〉

▼OP第2試合 36㎏契約 2分2R
●中野泰誠(大原道場)
○塚本望夢(team Bonds)
判定1-2(20-19、19-20、19-20)

▼OP第1試合 37㎏契約 2分2R
○太田在音(魁塾)
●西村栄人(武魂会館)
判定3-0(20-18、20-18、20-19)

DEEP☆KICK公式ランキング
[2018年07月04日 発表分]

◆-53kg
王者 滉大 (及川道場)
1位 タネヨシホ (直心会)
2位 政所 仁 (魁塾)
3位 風音 (京賀塾) ↑
4位 松岡宏宜 (闘神塾)
5位 一樹 (PLACE-K)
6位 甲斐元太郎 (NJKF・理心塾) ↑
7位 岡野勇馬 (山口道場) ↑

◆-55kg
王者 空位
1位 内藤凌太 (SB・ストライキングAres)
2位 拳剛 (誠剛館)
3位 梅井泰成 (NJKF・京都野口ジム)
4位 イ・スンヒョン (X-PERT GYM/韓国) ↑
5位 厳基 (月心会チーム侍) ↑
6位 膺介 (TEAM HAWK) ↓
7位 生川龍星 (魁塾) ↑
〃  横野 洋 (アンカージム) ↑
9位 力哉 (BKフィットネスジム) ↑
10位 笹木一磨 (NJKF・理心塾) ↓
11位 クロダッシュ (N-FIELD) ↓

◆-60kg
王者 谷岡祐樹 (パラエストラ加古川)
1位 佐藤 亮 (NJKF・健心塾)
2位 中村 寛 (BKジム) ↑
3位 金剛 駿 (Kick Style) ↑
4位 上杉文博 (究道会館) ↓
5位 キム・ミンファン (X-PERT GYM/韓国) ↑
6位 祐毅 (Team FreeStyle)

◆-63kg
王者 敦YAMATO (NJKF・大和ジム)
1位 SEIYA (MADMAX GYM) ↑
2位 西岡蓮太 (龍生塾) ↓
3位 虔次郎 (風吹ジム)
4位 堀池空希 (究道会館) ↑
5位 川崎真一朗 (月心会) ↓
6位 木村颯太 (NJKF・拳心会館)
7位 山崎優輝 (多田ジム) ↓
8位 篤椰 (team Bonds) ↑

◆-65kg
王者 憂也 (魁塾)
1位 -
2位 Hideki (team groria)
3位 佐野克海 (NJKF・拳之会) ↑
4位 藤阪弘樹 (M-FACTORY)
5位 ダイナマイト ユイト (G-FREE) ↑
6位 KENGO (IKKO GYM)

◆-70kg
王者 空位
1位 -
2位 白神武央 (NJKF・拳之会)
3位 -
4位 ATSUKI (SFKキックボクシング)