[ファイトクラブ]サッカーW杯で日本代表が再現した!? 42年前の猪木・アリ状態

[週刊ファイト7月12日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼サッカーW杯で日本代表が再現した!? 42年前の猪木・アリ状態
 by 安威川敏樹
・W杯開催前、ほとんどの人が日本代表の3戦全敗を予想していた
・一次リーグ突破で露呈した世間の『手のひら返し』
・サッカー界の『シュート活字』はセルジオ越後氏だけ!?
・海外では大ブーイングの日本サッカー
・42年前にも行われていた『ただ蹴り続けるだけの行為』
・猪木vs.アリは、真剣勝負だったからこそつまらなかったのか!?
・年月を経て『つまらない試合』はどう評価されるのか


 ロシアで行われているサッカーのFIFAワールドカップ(以下、W杯)も一次リーグを終えて16強が集う決勝トーナメント、いよいよ4年に1度の世界一を決める大舞台も佳境に入った。
 我らが日本代表も、W杯が始まる前は世界ランキング61位と参加国でも最弱グループで、下馬評はかなり低かったが、大方の予想を覆して決勝トーナメントに進出した。

 W杯直前でハリルホジッチ監督が電撃解任、強化試合でもなかなか勝てない日本代表に対し、サッカー・ファンからは大ブーイングが巻き起こっていた。

「西野(朗)監督で勝てるわけがない!」
「本田(圭佑)をメンバーから外せ!」
「こんな状態で日本代表が決勝トーナメントに進出したらサッカー協会が勘違いするから、3戦全敗の方がいい!」

と、散々な言われよう。実際に、W杯が始まる前は、日本では全く盛り上がっていない状態だった。
 それがどうだ。初戦で絶対に勝てないと言われたコロンビアに奇跡の勝利を挙げると、一夜にして大フィーバー。ワイドショーでも連日、日本代表のことを取り上げていた。
 そして、日本代表が決勝トーナメント進出を決めると、例によって東京・渋谷は狂った民衆で大騒ぎ。「3戦全敗した方がいい」なんて言ったことは記憶にございません、という状態だ。

サッカー界の『シュート活字』はセルジオ越後氏だけ!?

 しかし、浮かれてばかりもいられない。日本代表のプレーは、世界から大顰蹙を買っているのだ。
 日本代表の1勝1分けで迎えた一次リーグの第3戦、ポーランド戦。この試合で日本代表は勝つか引き分ければ文句なしに決勝トーナメント進出、負けても条件次第では決勝トーナメントに進出することができる。

 0-1と日本代表が1点ビハインドで迎えた試合終了間際、なんと日本代表はわざと負けを狙ったのだ。ポーランドがボールを保持しても、日本代表は敢えてボールを奪いには行かず、選手全員が自陣に引きこもって1点もやらない姿勢。ポーランドも既に一次リーグ敗退が決まっていたので「とりあえず勝てればいいや。1勝もできずに帰るのは恥ずかしいし、リードを保とう」とばかりに、無理には攻めに行かない。

 この試合で日本代表は負けても、同時刻に行われていたセネガルvs.コロンビアで、決勝トーナメント進出を争うセネガルが日本代表と同じ得失点差で敗れれば、『フェアプレー・ポイント』の差により日本代表の一次リーグ突破が決まる。フェアプレー・ポイントとは要するに、一次リーグでのイエロー・カードの数(もちろん、レッド・カードも含まれる)が少ない方がアドバンテージを得る、というものだ。
 つまり、日本代表が1点差で敗れても、セネガルが1点差で敗れればフェアプレー・ポイントの差で決勝トーナメント進出となる。

 日本代表は、途中経過でセネガルが1点ビハインドという情報を得たため、0-1で負けてしまおうとしたわけだ。そのため、日本代表がボールを奪っても無理には攻めず、ただただパスでボールを回すだけ。
 このクソつまらないサッカーを見せられた観衆からは、もちろん大ブーイング。しかし、やったもん勝ちとばかりに日本代表はタイムアップのホイッスルを待ち、お望み通り0-1で敗れた。セネガルもやはり0-1で敗れたため、フェアプレー・ポイントの差で日本代表は2位通過で決勝トーナメント進出を果たした(1位通過はコロンビア)。

 翌日のテレビ番組では決勝トーナメント進出を決めた日本代表の話題で持ち切り。負けを狙った戦術に対しても「あれが一次リーグ突破の最善の策」と西野監督の作戦を持ち上げた。
 ネット上では日本代表の作戦に対する批判もあったが、それに対する大方の意見は、

「ルール通りにやって何が悪い!」
「無理に攻めに行って一次リーグ突破できなければ、誰が責任を取るんだ!?」
「日本代表の決勝トーナメント進出を素直に喜べないのか!? お前は売国奴か、非国民!」

 と、まるで大東亜戦争真っ只中のような言葉が出る始末。もはやこの国では、日本代表(あるいは日本)に対する批判は許されないらしい。
 サッカーのジャーナリストも日本代表の作戦については概ね肯定的な論評。批判していたのは、辛口評論家で知られるセルジオ越後氏ぐらいか。
 セルジオ越後氏は、日本代表の戦いぶりを一刀両断した。

「日本代表は世界に恥を晒した。別の試合(セネガル戦)に決勝トーナメント進出を委ねる作戦はいかがなものか。唯一勝ったコロンビア戦でも、試合開始早々に相手がレッド・カードを食らって1人少ない相手での戦いとなり、しかもPKで1点を得るという超ラッキーな状況だった。結局、日本代表は11人対11人の試合では1勝もしていない。今のままでは子供たちにも『良い試合だった』とは言えない」

 サッカー界で『シュート活字』を発揮できるのは、セルジオ越後氏しかいないのだろうか。

 日本代表の作戦の是非を問うのは、本稿のテーマではない。決勝トーナメント進出という目標を達成するには、今回の作戦もアリなのだろう。だが当然、反対意見もある。
 問題は、「日本代表が決勝トーナメントに進出したんだから、批判するのは許せない」という雰囲気だ。ましてや、今回の作戦の批判を封じ込めるような論調は言語道断である。とても民主主義国家のやることではない。

 名より実を取るという意味では、今回の西野監督が採った作戦は正解だっただろう。いくら面白いサッカーをしたところで、決勝トーナメントに進出できなければ、記録には残らない。実際に、前回優勝のドイツを破った韓国はそれだけでも大殊勲だったのに、一次リーグ敗退となったため、韓国代表イレブンが帰国して待っていたのは、狂ったサポーターからの生卵攻撃だった。

▼地球人類は4年に1度、サッカーに熱狂する(写真はW杯の試合ではありません)

 しかし、数年後に世界の人々の記憶に残っているのは、日本の決勝トーナメント進出ではない。試合終了間際に10分間も、ただただボール回しをしていた滑稽な姿なのだ。
 海外のジャーナリストも、一部では『ルール通りだから構わない』という意見があったものの、ほとんどが厳しい論調だった。

「誰も見たくない茶番劇」
「日本代表は決勝トーナメント進出と引き換えに、大きなものを失った」
「恥ずべき10分間」

 そりゃあ、海外から見れば日本代表が決勝トーナメントに進出しようがしまいがどうでもいいわけで、こんな試合を見せ付けられれば頭に来るだろう。日本人なら『日本代表が決勝トーナメントに進出した。バンザイ!』で済むが、海外ではそういうわけにはいかない。

 勝っているチームが、リードを守るために敢えて攻めには行かないこともあるだろう。引き分け狙いというのも、状況によってはある。
 しかし今回、日本代表が採った作戦は『負けに行く』ためのものだった。これをスポーツの世界では敗退行為、即ち『八百長』と呼ぶ。

 しかも、日本代表の狙いは『フェアプレー・ポイント』による一次リーグ勝ち抜けだった。フェアプレー・ポイントのために、日本代表は最もアンフェアなプレーをしたのである。

 サッカー王国・ブラジルで育った筆者の友人(日本人)は、西野監督の思い切った作戦に感心しつつ、こう言い放った。

「まあサッカーなんてこんなもんですよ」

 言い得て妙だと思う。

42年前にも行われていた『ただ蹴り続けるだけの行為』

 今回のサッカー日本代表の戦いぶりを見て、思い出したのが今から42年前の、1976年6月26日に日本武道館で行われたアントニオ猪木vs.モハメド・アリの異種格闘技戦だ。
 プロレスvs.ボクシングという格闘技世界一決定戦は、結果的には15ラウンド闘ってKOなし、判定にもつれ込んでのドローとなった。
 この結果に対し、世間では『世紀の茶番劇』と酷評された。

プロレス芸術とは 徹底検証! 猪木vsアリ戦の”裏”2009&2016-40周年

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