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ジム・コルネットのプロレス批評:ブッカーの衰退とライターの台頭がアメリカンプロレスを殺す(1)

 ここ10年ほど、プロレス業界に関わったことのない、普通のファンのような人から、「どうすればプロレスのシナリオライターの仕事に就けるのでしょうか」と尋ねられることが多くなった。なかには、オーディションに提出する“台本”のパッケージを送りつけてくる者もいる。これにはいつも胸焼けを起こしてしまう。いや、そういう仕事に就きたいと思う人が悪いというのではない。こんな連中を実際に雇うアホな会社があるから、何の経験もないのにそんな職に就けると思いつくアホが出てくるわけだ。
 そこで、コルネット様の所信表明として、「ブッカー」とは何か、「ライター」とは何か、そしてそれらはどう違うのかを扱ってみようと思う。

ブッカーとは何か

 言葉の定義から始めよう。「プロレス」には実は「ライター」は存在しない。存在するのは「ブッカー」だ。ただし、「スポーツ・エンターテインメント」になら「ライター」も存在する。トーツ・モントが1920年代から30年代に、ブッカーという仕事の基礎を作って以来、プロレスにおけるブッカーは、マッチメーカーとして機能してきた。すなわち、誰と誰が試合をし、どちらが勝つのかを決めたり、必要であれば再戦につながるようなフィニッシュを組み立てたり、ライバルである選手の間にプログラム(一連の試合)を組んだりする。

 ブッカーは、特定のテリトリーにおけるレスラーの採用や解雇を行い、タレント管理も行う。テレビの時代になると、ブッカーが番組のフォーマットを決め、やるべきアングルを企画し、煽りで何を喋るかについて選手にアイデアを授ける。

 そのブッカーが仕えるプロモーター、もしくはオーナーが、ブッカーの唯一の上司だ。何人かのアシスタントがいて指示通りに動いてくれることもあるが、とにかくタレントに関する意志決定はブッカーが一切の責任を負う。それでビジネスがうまく回れば、ブッカーは仕事をし続けられるし、うまくいかなければ他の人と交代させられる。
 レスラーの方は、ブッカーの指示を守ってさえいれば、それで自分のパフォーマンスへの逃げ口上になる。ブッカーは選手にフィニッシュと重要なスポットを授け、残りをタレントに任せる。

 ブッカーは選手に、テレビの煽りの主題と割り当て時間を与える。具体的な内容としゃべりはタレント次第だ。たとえば、ダスティ・ローデスが私に出した指示はこんな具合だ。「おまえさんには3分やる。前回シャーロッテでロックン・ロール・エキスプレスと試合をしたとき、おまえさんはラケットで乱入しただろ。だから今回は金網マッチになってる。タッグタイトルもかかってるからな。さあ、出て行ってチケットを売ってくれや!」

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 タレントがちゃんとブッカーのアングルやフィニッシュ、煽りを演じつつ、自分のパーソナリティやスタイルを強調できれば、そいつは売れるということになる。もし売れなければ、誰か別の売れる男と交代させられる。煎じ詰めるとブッカーは、個性とカリスマと才能のあるレスラーたちをかき集め、ブレイクするための方向性と基本を教え、戦績を作ってやり、なだめそやしてキャラやタイトル戦線に絡めさせ、ファンが喜んで金を払うような必然性を作っていくわけだ。

 あとはタレントの役割で、だからこそ、メインイベントのスターは「金を稼げる男」との名声を勝ち得る。当時は、「誰それでは売れないね」といった話をよく聞いたものだ。今日では、少数特定のタレントが売れるということはなくなってきている。なぜなら、仕事を任せられている選手が少ないので、売れているのが「ライター」ではなくて選手であると言い切れなくなってきているからだ。

 偉大なタレントは、たまにつまらないブッキングをされても、ちゃんと仕事をする。でも、タレントが二流なら、素晴らしいブッキングをしても売るのは難しい。すぐれたブッカーとは、アートだと思う。そしてたぶん、プロレスの中でも最も厳しい仕事だ。なぜなら、プロレスに関する豊富な知識や経験は当然のこと、優れたタレントを見つけ出して売り出す能力も必要だからだ。

 過去の偉大なブッカーの多くは、自らもリング上のトップ選手だった。これは、売れるタレントとしての長年の実績があってはじめて、プロモーターからこの重要な仕事を託されるからである。多くの場合、高い業績をあげたトップ選手でなければ、タレントから尊敬されないし、スターとタフ・ガイでいっぱいのロッカールームであれこれ指図することが出来なかったりする。

 もちろん、ブッカーがレスラーを兼ねると言うことには欠点もある。つまり、エゴが肥大化したり、自分や友達をプッシュしすぎたりすることがある。ただそれにも限界があって、ブッカーは自分が原因でクビになるわけにいかないことはわかっているので、カネのためなら自分を抑えることになる。ではそんな当時、ブッカーになる方法にはどんなものだったか。
 全くケース・バイ・ケースだとは思うけど、要点は共通だ。キミの経歴に、たとえばアマレスで優勝したとか、かつてプロスポーツ選手だったとか、地元のヒーローだったといった何か素晴らしい実績がない限り、あるいは、キミ自身がプロモーターがにじり寄ってくるような大男でもない限り、だいたいはこんな道をたどることになると思う。


 以上はコルネット氏のHP発表記事の翻訳です。ミニ・シリーズとして計3回での紹介を予定しています。

ジェームス・マーク・コルネット Jim Cornette
1961年9月17日生まれ。アメリカンプロレスのマネージャ、コメンテーター、プロモーター、ブッカー。テニス・ラケットを持って試合を妨害する南部男を体現したスモーキー・マウンテン・レスリング(SMW)で頭角を表し、WWEに拾われたが「ライター」たちとうまくいかず、東部生活にも馴染めずと、波乱万丈の経歴を持つ。前Ring of Honor コミッショナー、現TNA マネージング・ディレクター。ちなみにSMWの裏オーナーは、音楽プロデューサーとして知られるリック・ルービンだった。

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2009年06月04日 11:53に投稿されたエントリーのページです。

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