[週刊ファイト12月28日号]収録 [ファイトクラブ]公開中
▼インスタ映えと髪切りマッチ~中森華子が髪と引き換えに得たもの~
photo text by こもとめいこ♂
・PURE-J 12・17後楽園、涙の斬髪劇
・勝者にも笑顔無し。沈黙の会場
・ファンとの一体感は「守り」か。DASH・チサコの誤謬
・中森華子は何故髪を切り、何を得たのか
PURE-J、年内最後のビッグマッチとなった12・17後楽園ホール大会が終了した。
この日はビジュアルハンター藤ヶ崎矢子と、前日付で長与千種にMarvelousからの解雇を言い渡された雫有希の乱 de BUS(ランデブス)、ライディーン鋼とKAZUKIのWANTEDウォリアーとしての再始動と今年のテーマにそれぞれ決着させ、タッグ選手権、WAVE認定レジーナ、メーンの無差別級とタイトルマッチを並べた上に王者・中森華子が敗者髪切りマッチをぶち上げる、文字通りPURE-Jが総力を上げた渾身のカード編成となった。
結果として853人という観衆は、旗揚げ戦となった後楽園8・11は観衆1041人に比べてはマイナスとなっているが、ここのところ各団体5~600人集客が多い後楽園ホールだけに、かなり人気となった興行といえる。
しかしメインの髪切りマッチに関しては、特に熱心なファンから否定的な見方も多く、本誌のTwitterにも同様のリプを頂戴した。
PURE-Jは7人と観客との家族的な一体感が魅力であると書いてきたが、ファンの中にもそういう意識が強い現れだろう。
しかし、DASH・チサコが11・23王子で
「団体を背負ってるフリしてるだけだ」
と言い放った時の中森華子の涙。
プロレスの煽りなど、心にもないことだろうがその場の勢いで言い合うものだ。
怒鳴り反して殴りかかるべき所を思わず涙をみせた中森華子の胸中を思うと、
「髪切りマッチなんて間違ってるよ」
と簡単に言うべきとも思われない。
かつて第1期UWFがスーパー・タイガー佐山サトルらによって軌道修正された時、I.Y編集長は、猪木・藤波だってやろうと思えば出来たはずだが、団体の黒字経営を考えればやれなかったのだろうと分析した。
実際、ほどなくして第1期UWFは崩壊し、その後に続いた第2期UWF、リングス、Uインターも既にない。
藤原組の流れを組むパンクラスは勝負論を内包するだけに健在だが、00年代に猪木が持ち込もうとしたUWF的な路線を排除した新日本プロレスが隆盛を誇っている。
「『かつてこの地に真の格闘技ありき』との石碑が遺るだけになるだろう」
とのI.Y予言に改めて感服させられる。
新日本プロレスは隆盛を誇っていると書くのは容易いが、ではなにがそれを可能たらしめたのかというと、それは言い尽くされた事ではあるが、ブシロード体制になってからということ。
だが、だからといって、ブシロード以前と以後でリング上の闘いがガラッと変わったということもない。
いや、格闘技もどきの試合の方が好きだったというファンも中にはいるだろう。
『ヴァンガード』立ち上げ時に売り上げと同額の広告費を投下し、翌年売り上げが10倍になったというような資金の投入が最大の要因なのは間違いがない。
リング外が安定して、動員が戻った。V字回復だとなってお客がお客を呼ぶ体制になる好循環で今の隆盛がある。
情報が溢れる上に不景気で、なんでもまず数字で評価される時代になった。
まんが、アニメ、ゲームなどサブカル、カウンターカルチャー全般、本来内容が問われる界隈にしても色々吟味して評価を下す余裕がなくなったからで、一強皆弱はプロレスに限らず多い。
まとめサイトに、情報の取捨選択を丸投げするようでは、果たして「おたく」と呼べるのかという疑問もなりたつが、全部のプロレス団体を観られる人間などいないだろう。
結局、どれだけ数字を上げているかで脚切りをされ、中身の吟味はまずそこをクリアしてからという時代。
インターネットの隆盛で個人による情報発信が可能になったはずが、逆にそれ故に新規参入はよほど資本を投下しないとなかなかうまくはいかない。
PURE-Jにしても、JWPの流れを汲む団体として基礎があっての参入であるが、最後発という位置付け。
8・11後楽園では1000人を越える集客があったが、旗揚げ戦は欠かさず観るというプロレスファンによるご祝儀の動員が見込めなかった12・17で、普通に中森華子がリングメーンを務めたら果たしてどれだけの動員があったか。