Don Nakaya Nielsen FB https://ja-jp.facebook.com/DonNakayaNielsen/ より
[週刊ファイト12月21日号]収録 [ファイトクラブ]公開中
▼プロレス界 2017年の墓碑銘 ~ドン・中矢・ニールセン~
by 立嶋 博
・8月15日歿 ドン・中矢・ニールセン ~彼は何者であったのか~
・実物のニールセンの残念な肉体、漲る殺気。
・3現代の視点で見直す「前田・ニールセン」の激闘。
・「対ニールセン戦」という上昇階段を通り抜けた人々。
▼[ファイトクラブ]プロレス界 2017年の墓碑銘 ~その1~
前回に引き続き、今年亡くなったプロレス関係者の評伝をお送りする。
今回は8月15日、手術中に死去したあの男について書く。
彼は所謂「プロレスラー」ではないが、日本マット界に非常に特異な形で関与した、稀有な人物であった。
8月15日歿 ドン・中矢・ニールセン ~彼は何者であったのか~
筆者が「ドン・ナカヤ・ニールセン」という名前を初めて目にしたのは、前田日明戦の直前だった。今となっては記憶もおぼろだが、2週間前とか10日前とか、本当にギリギリのタイミングで、私は前田に割り当てられた男の名前を知った。
それがテレビによってであったか、東スポの紙面によってであったかは、残念ながら思い出せない。
今思えば、新日本がハワード・ハンセンあたりとのネゴに手間取って、相手がなかなか決まらなかっただけなのだろうが、最後の最後に勇気を奮って危険な闘いに名乗りを挙げた(ように見える)日系らしき「未知の強豪」に対する幻想は自然に膨らんでいった。
また一方で、前田が遂に「異種格闘技戦」をやる、というワクワク感は、相手がどこの誰であるにせよ、何物にも代えがたかった。
確かに猪木・スピンクス戦の前座という役回りではあったが、所詮は「過去の人」同士の対戦である錆びついたメインイベントよりも、こちらの一戦の方がずっと興味を惹かれた。
また、相手がアメリカのキック系の人ということで、猪木の格闘技戦史の中でも特に評価が高かった、対ザ・モンスターマン第一戦の面白さが再現されるのではないかという期待もあった。
猪木、坂口と絡んだモンスターマンの異種格闘技戦が三度ともワークであったことは、この時期、まだプロレスファンの共通認識になっていなかった。
プロレス以前にフルコンをやっていたという前田が、モンスターマンみたいな奴と闘うとどうなるのだろう?
軸になる戦法は打撃?タックル?投げ技?ゴッチのサブミッション?
そもそもニールセンってのは強いのか?誰か知っているか?
当時のファンは老いも若きも本気で、試合までの短い期間、そんな議論を街中で戦わせていた。
実物のニールセンの残念な肉体、漲る殺気。
注目の試合が行われたのは1986年10月6日。
実物のニールセンは、マスクはまあまあ良かったが、頼りなげな肉体をしていた。肩峰が目立ち、広背筋は薄く、腕は細い。下半身を隠すパンタロンが不安に拍車をかけた。
殊にパンタロンには嫌な予感がした。彼のファイターとしてのバックボーンが怪しくなった。
中身が「モンスターマン」だったらいいが、レフトフック・デイトンとかキム・クロケイド的な「とんだ一杯食わせ物」だったら下らないことになる。
相手の力不足が原因で、異種格闘技戦の黒歴史に前田がその名を刻んでしまうとしたら。
いずれにせよ、前田はこの試合にプロとしての自らの商品価値を賭ける。
対戦相手のニールセンはもちろんのこと、前田はファンからの過剰な期待やメインに控えた猪木という不愉快な先駆者をも相手に闘わなければならないのだから。
前田にとってこれは、単なる他流試合ではない。
レスラーとしての実力、センス、度胸、つまりは鼎の軽重を問われる一戦なのだ。
会場に詰めかけたファンは深呼吸で気合を入れ直し、これを「世紀の一戦」だと思い込むための努力に没頭した。
コールされ、両選手がメンチを切る。鼻をくっつけんばかりに接近し、レフェリーそっちのけで漢の見せ合いだ。
いつも静かに始める猪木の格闘技戦では絶対にあり得ない光景におおー、とどよめく場内。
前田日明のテンションの高さにニールセンが巻き込まれたのか、またはその逆か? ともかく、どちらも入れ込んでいる。
遂に分かった。前田は、猪木のエピゴーネンではない!
超満員の観客の交感神経をアドレナリンが駆け抜ける。
一触即発、喧嘩マッチ。試合ではなく殺気に満ちた果し合い。
興奮が指数曲線で急上昇した。