[週刊ファイト11月30日号]収録 [ファイトクラブ]公開中
▼リング上の裁判官、レフェリー!プロレスにもビデオ判定導入はあるのか!?
by 安威川敏樹
・プロレス界の黎明期を支えた沖識名
・プロレス界の木村庄之助、ジョー樋口
・プロレス界の式守伊之助、ミスター高橋
・悪徳レフェリーの代表、阿部四郎
・現代の名レフェリー、レッドシューズ海野
日本プロ野球(NPB)で来シーズンから『リクエスト』導入が決まった。『リクエスト』とは要するにビデオ判定のことで、メジャー・リーグ(MLB)でいう『チャレンジ制度』のことである。
これまでも微妙なホームランなどでビデオ判定はあったが、今回の『リクエスト』によって、監督がビデオ判定を要求できるようになったわけだ。
以前にもスポーツ界ではビデオ判定が導入された例はいくつもあった。代表的なのは大相撲である。前近代的と言われる大相撲にあって、ビデオ判定に関しては先進的だったのだ。
他にもアメリカン・フットボールではチャレンジ制度は当たり前になったし、ラグビーでもTMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)と呼ばれるビデオ判定が導入されている。そしてゲームの流れが断ち切られるとして導入を見送られてきたサッカーでも、遂にビデオ判定が採用されることになった。
勝敗によって大金が動くようになったスポーツ界、より公平で正確な判定を求めてビデオ判定が導入された事情はよくわかる。しかし、一抹の不安も覚える。
正確な判定を求めるばかりに、ゲームの流れを断ち切られると、スポーツそのものの醍醐味が失われるのではないか? 現代では世界的に勝利至上主義になって、スポーツを純粋に楽しむ人が減ってきたのではないかと思われる。
ロボット技術が発達して、今後は無くなっていく職業が多くあるという。その一つがスポーツにおける審判だ。ロボットが正確に判定してくれるので、もう人間の審判は不要になるだろう、という予測である。
しかし、それはあまりに悲しい。人間が人間を裁くからこそ、人間社会が成り立っているのではないのか!? ロボットに裁かれる人間なんて見たくもない。ミス・ジャッジだって、人間臭いスポーツの醍醐味とも思えるのだが……。
だが、いくら世間がロボット化しても、審判がロボットにはならないであろうスポーツがある。それがプロレスだ。
プロレスのレフェリーがロボットとなって、いちいち公平で正確な判定をしていては、こんなにつまらない世界はないだろう。現実に、プロレス界にはビデオ判定は導入されていない。つまりプロレスは、人間臭いドラマなのだ。
それでは、プロレス界を彩った名レフェリーたちを見ていこう。
プロレス界の黎明期を支えた沖識名
力道山時代からプロレス界を見てきたファンにとって、名レフェリーの沖識名は忘れられない存在だろう。
いつも悪役レスラーに捕まり、シャツをビリビリに破かれた姿は目に焼き付いているのではないか。
そして試合では、なんとピン・フォールに行った力道山の上に覆いかぶさり、そのままカウント3を入れてしまった。二人分の体重を乗せられた相手レスラーは、フォールを返せるわけがない。
もしプロレスにビデオ判定があればレフェリーとして、とても許される行為ではないだろう。
YouTubeキャプチャー画像より https://www.youtube.com/watch?v=osWOvcWHLIA
しかし沖識名は、単なるレフェリーではなかった。力道山にプロレスラーとしてのエッセンスを叩き込んだのである。
力道山の日本でのプロレス・デビュー前、力道山はハワイでプロレス修行を行った。そこで力道山は、相手レスラーを簡単にKOしてしまったのである。
日系人からヤンヤヤンヤの喝采を受ける力道山。しかし、沖識名の評価は厳しかった。
「リキ、ユーの試合は良くない。客はみんな、ユーの見せ場を期待している。ユーの見せ場とは、スモーよ。でもユーは、スモーの見せ場を作ることなく、相手をアッサリKOしてしまった。こんな試合を続けると、客はマネーを損したと思うヨ」
純粋な相撲社会で育った力道山には、沖識名の言葉が理解できなかった。だが、アメリカ本土でプロレス修行を続けるうちに、沖識名の言わんとする意味がわかるようになったのである。
沖識名の存在なくして、後の力道山は誕生しなかっただろう。
プロレス界の木村庄之助、ジョー樋口
フリッツ・フォン・エリックとジョー樋口
沖識名の跡を継ぐレフェリーといえば、ジョー樋口をおいて他にはいまい。全日本プロレスのレフェリーとして一時代を築いたジョー樋口は、まさしくプロレス界においての木村庄之助のような存在だった。
ちなみに大相撲の世界では、最高位の行司が立行司と呼ばれ、それは木村庄之助と式守伊之助である。二人のうち、上位にいるのが木村庄之助であり、結びの一番しか裁かない。さらに言えば、2017年の九州場所現在では、木村庄之助はいない。したがって現在では、第40代の式守伊之助が結びの一番を裁いている。