[ファイトクラブ]日本のテレビと日本のプロレス(2)

[週刊ファイト11月09日号]収録 [ファイトクラブ]公開中

▼日本のテレビと日本のプロレス(2)
 by 立嶋博
・『ワールドプロレスリング』~TVコンテンツ総合格闘技の栄光と没落
・見せかけの「キラーコンテンツ」との踊りは一過性:2003年大晦日戦争
・関係者が語る「興行の裏側」:成長途上のベンチャー企業に”押し売り”
・「暗部」は最早、許容されない!フジテレビの言う「契約違反」の深淵
・常にスポンサーから忌避される危険有する番組と新日本のサバイバル
・とはいえ「数字」は大切!昭和プロレス絶頂期と新日プロTV中継


「アンドレ・ザ・ジャイアント、まさに一人民族大移動であります。一人というにはあまりにも巨大過ぎ、二人というには世界人口の辻褄が合わない!」
 「リングという名の、魑魅魍魎が跳梁跋扈する闘いのコングロマリット!」
―古舘伊知郎の「ワールドプロレスリング」における名言

タレント名鑑より

 日本のプロレスはアメリカのカーニバル発祥起源と異なり、発足の段階からテレビ放送とともに成長してきた。しかし、テレビ側では必ずしもそう考えてくれていない。テレビはより多様な側面を持つ媒体であるからだ。そして通常テレビは、平時はプロレスから距離を置きたいと考えるからだ。

 日本の民放テレビは、ある芸能プロダクションとその係累に、苦しい時期を支え、その資金と優れた企画力で育ててもらったという恩義がある。現在の彼らがテレビ業界にとってかなり扱いづらい相手であるにもかかわらず、手を切ることはできないでいる。
このことは、テレビ業界のみならず広く世間に知られているところだ。当該プロダクションは直接の所属タレントが少なくなった今でも大きな影響力を持ち、独自の番組枠を維持している。

 プロレスもまた、初期の民放にとってはかけがえのないコンテンツだった。
 日本テレビが1963年5月24日に放送した「WWA世界選手権 力道山 vs ザ・デストロイヤー」の視聴率は実に64.0%。これは視聴率計測方法の変化を無視すれば、日本のテレビ番組視聴率史上第2位という大記録である(ちなみに第1位は同年大晦日のNHK「紅白歌合戦」の81.4%)。街頭テレビや電気屋店頭等における視聴者は正確に勘定できないが、ともかく国民の大半がこの試合にくぎ付けだったのである。
プロレスは疑いもなく、黎明期の民放テレビを支え育てた恩人だった、

 しかしテレビ局は、プロレス番組を平気で叩き切ってきた。次項に述べるが、一時はキラーコンテンツ化していた総合格闘技も同じ憂き目にあった。
 某芸能プロダクションの番組が依然として各局で放送されているのに、地上波で全国定期放送されるプロレス中継は今やテレビ朝日『ワールドプロレスリング』だけである。
 この差はどこで生じるのだろう。
 両者の違いは何か。

 それはテレビ局自身が興行にタッチするかしないか、という点である。

見せかけの「キラーコンテンツ」との踊りは一過性:2003年大晦日戦争


 総合格闘技が一大ブームとなっていた2000年~2004年頃にかけて、テレビ各局は競うようにそれらのイベントを放送し、商材として大いに活用した。

 試みにそうしたバブルがピークに達していた2003年大晦日の民放番組表を見てみよう。

<日本テレビ>
K-コンフィデンス『INOKI-BOMBA-YE 2003』 20時~23時15分放送 
主要カード エメリヤーエンコ・ヒョードルvs永田裕志  藤田和之 vs イマム・メイフィールド
平均視聴率 5.1%

<フジテレビ>
DSE『PRIDE SPECIAL男祭り2003』 18時30分~23時40分放送
主要カード 吉田秀彦vs ホイス・グレイシー  桜庭和志 vs ホジェリオ・ノゲイラ
平均視聴率 12.2%

<TBS>
FEG『K-1 Premium2003 Dynamite!!』 21時~23時24分放送
主要カード 曙vs ボブ・サップ  中邑真輔 vs アレクセイ・イグナショフ
平均視聴率 19.5%

参考:NHK『紅白歌合戦』 19時30分~23時45分(中断あり) 平均視聴率45.9%

 この年は史上初めて『紅白』が裏番組に瞬間視聴率で抜かれた(曙サップ戦が放送されていた23時からの4分間、TBSが38.7~42.5%だったのに対し、NHKは同36%ほどだった)ことで「時代が変わった」と騒がれた。真冬に業界の春が来た、というところである。

 必ずしも試合が魅力的だったから人気が取れたわけではない。
 最も耳目を集めた曙とサップの怪物対決にしてもあっけない幕切れであったし、その他の試合にも特筆すべき内容は少なかった。いくつかの試合は、折り目正しい格闘技とはお世辞にも呼べないグダグダだった。
ところが、視聴者は凡戦の連発にもチャンネルを『紅白』や『ドラえもん』に変えようとはせず 、特に『Dynamite!!』は谷川貞治プロデューサーによる際物マッチメイクが図に当たった形になった。俗に言うモンスター路線である。

 高視聴率、4万人の観客。
 その場限り、仮初めの動員力ではあったが、彼らはプロ格闘技を年末の季節商材として定着させることに成功した。

 しかし、競技や選手が大向こうから正当な評価を得ること、あるいは業界全体の将来ビジョンの確立といった、ビッグマッチにおいて短期的収益の次に追求されるべき本質が、そこには微塵も意識されていなかった。
 今見ると、よくもこんな怪しげなカードでナゴヤドームやらSSAやらを満杯にできたものだとあきれる。興行も、観客も、テレビも、視聴者も、総合格闘技バブルに踊りまくっていた時代だったということだろう。
 事前のドタバタ劇がスキャンダラスに取り上げられ、聞いたこともないような選手ばかりがカードに並んだ『INOKI-BOMBA-YE』は興行としても番組としても失敗したが、そんな興行ですら、NTV編成に「大晦日特番として成功する可能性がある」と、いっとき信じ込ませるだけの訴求力は有していたのである。

 敢えて冷たく俯瞰するならば、要はあの頃「総合格闘技」とか「全ガチ」とかと名が付きさえすれば、肝腎な部分はどうでも良かったのではないか。
 事実、日本のプロ格闘技が、この興行合戦の後に大きくメジャースポーツへ飛躍発展する、ということはなかった。本質的なパイは広がらず、業界全体としてはむしろ人気が衰える方向へと動いたのだった。

 ともかくこうした実績により、総合格闘技はフジテレビとTBSにとっては、代理店にえばって顔向けができる実績あるコンテンツとして確立した。
その後も両局は手を変え品を変え、ひっきりなしに格闘技イベントを放送していく。

 しかし、テレビのこうした姿勢は、格闘技興行の実態、裏社会との関係を知った上で、「稼げるうちに稼いでしまおう」という考え方から生まれたに過ぎない。
実際のところ、テレビは順調に視聴率を稼ぎながらも、格闘技イベントと手を切るチャンスを密かに探していたようなのである。

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