[週刊ファイト10月26日号]収録 [ファイトクラブ]公開中
▼斬られた侍 夢果てし町田光の現在(いま)
Text by 伊藤三世 / Photo by タダシ☆タナカ & 山下達也 & 伊藤三世
・町田光の引退を賭けた闘い 総括
・町田光インタビュー 町田光の現在(いま)
・『KOCK OUT vol.5』森井洋介戦の作戦
・顎の骨折の影響
・試合でつぶやいた言葉とは?
・引退について
・会長、嫁との会話
・今後のビジョン
居合パンチャー町田光の引退を賭けた闘い 総括
2017年10月4日『KNOCK OUT vol.5』が 後楽園ホールで開催された。『KNOCK OUT』は、新日本プロレスをV字回復させた「ブシロード」が手掛けるキックボクシングメジャーイベント。「撃つ、蹴る、斬る」のコンセプトで、肘ありのメジャーイベントという位置づけがK−1との明確な差別化となっている。
1つの大会における試合数は少ない代わりに全試合がメインイベントと言えるクオリティの高さで、「神興行」と呼ばれる劇的な激しい闘いが続いている。
今回も平日にも関わらず後楽園ホールに1500人(超満員札止め)の観客が詰めかけたのは、その期待値に他ならない。
K-1などで活躍する一握りのトップファイターでもない限りは、チャンピオンクラスでもアルバイトをしないと生活できないキックボクシング業界。選手にチケットの手売りはさせない『KNOCK OUT』という舞台の誕生は、選手にとっては大きな光明を照らすものであった。
この日メインイベントで闘う町田光も、この舞台に夢を託した選手の一人。
「結婚したのでいつまでも夢を追いかけることは、出来なくなったのが一番の理由です。格闘技で稼げるようにならなければ辞めるという約束を嫁としました。」
町田は昨年「30歳までにキックボクシングで食べられなければ引退」を宣言しており、その裏には3月に結婚したばかりの妻との約束があった。
お金を稼ぐという事に無頓着なピュアな好青年も、現状を打破すべくクラウドファンディングやスポンサー集めなど、キックボクシングで食べて行く為に、新しい事にも挑戦して来た。
そんな最中の昨年9月、遂に「KNOCK OUT」の旗揚げが発表。勝てば成功が約束された夢の舞台の出現は、町田にとっては神の救いの手の様に思えた事だろう。しかし2017年に入ると過酷な試練の数々が待ち受けている。
2017年2月12日「KNOCK OUT vol.1」大田区総合体育館大会で、山口侑馬戦と対戦した町田は、肘攻撃で頬を斬られTKO敗けを喫してしまう。試合のダメージを憂慮した橋本会長の判断で、出場が予定された4月開幕の「KNOCK OUT 初代ライト級王座決定トーナメント」も欠場となった。
しかしタイムリミットが迫る町田にとっては、ラストチャンスとも言えるトーナメントへの参戦は諦め切れないものであり、その後も粘り強く会長を説得し再び参戦する事となる。
4月から6月へスライドされたトーナメント1回戦はの相手は、2月に対戦予定であったDj.taiki。この試合で町田は、パフォーマンス的な要素を徹底的に削ぎ落としたスタイルで、泥臭い判定勝利をものにした。
町田はこの試合で顎の骨を骨折。8月に予定されていたトーナメント2回戦の試合は10月の大会へスライドされ試合へ臨んだ。
町田は7月に約束の30歳の誕生日を迎えていたが、トーナメント参戦中である事から進退の決断は延期されていた。トーナメントの試合が、実質的に「引退」を賭けた試合となって行く。
10月4日「KNOCK OUT vol.5」後楽園ホール大会。町田光の対戦相手は野良犬二世の異名を持つ森井洋介。
かつて町田にとって格下であった森井も、『KNOCK OUT』で連勝を重ね強豪へと成り上がっていた。今の森井に勝つ事は、一気に「KNOCK OUT」の主役へ躍り出る為の絶好の好機。
試合序盤「引退」を賭けた町田光の覚悟は、森井洋介を圧倒し下がらせていた。しかし、2Rになると森井は縦肘に活路を見出し、町田の右まぶたを斬り裂くと、ドクターストップで町田の競技人生を賭けた試合は終わった。
<メインイベント KING OF KNOCK OUT 初代ライト級王座決定トーナメント準決勝 61.5kg契約 3分5R(延長1R)>
○森井洋介(ゴールデングローブ/全日本スーパーフェザー級王者)
2R 2分18秒 右肘打ちによる右まぶたのカットによりドクターストップTKO
●町田 光(橋本道場/WPMF世界スーパーフェザー級王者、REBELS 60kg級王者)
試合後、町田光はコメントブースには現れなかったが、バックステージでは小野寺プロデューサーが 町田に対して「待ってるから」 と、現役続行を訴える一幕があった。
町田はこの結果を受けてどんな結論を出すのだろうか。少なくとも、この日の試合を見た者は、引退するには早過ぎると感じた事は間違い無いだろう。そして、試合の10日後。町田光へインタビュー取材を申し込んだ所、30分だけという条件で電話取材に応じてくれた。
斬られた侍 夢果てし町田光の現在(いま)の心境とは?
■町田光インタビュー
聞き手:伊藤三世