[週刊ファイト3月23日号]収録 [ファイトクラブ]公開中
▼シュート活字講座2017②
マーク、シュマーク、スマート市場分析~Bad Reputationとは何か?
by タダシ☆タナカ
・魔宮の聖典と恐れられた『開戦!プロレス・シュート宣言』の業界用語辞典
・少数を対象としたプロレスというお仕事~市場の正確な実数とは?
重視すべきはライト層:求められるマニアからの大政奉還
・ライト層に大受けする可能性を秘めた石井智宏New Japan Cup優勝論
・紫雷イオがフロリダ視察中!どうなるレッスルマニア、そして中邑真輔
・余りに痛いところ突かれるシュート活字を認めない、なかったことにするマニア層
未来に向けて!:好き嫌いではなく正しい理解を身に着けること
読売新聞社刊の拙著『開戦!プロレス・シュート宣言』が発売されたのは1997年にさかのぼる。 ここの巻末に収録した業界用語辞典が、当時のマット界に与えた影響は非常に大きい。プロレス魔宮の聖典とも称されている。1995年に発売された単行本処女作『プロレス・格闘技、縦横無尽』(集英社)に続き、プロレスはケツ決め、試合時間も現場監督(booker)から言い渡されるスポーツ芸術であることなど、いわゆるケーフェィの核心を具体的に、現場のロッカールーム用語を使って詳細したからだ。
当時ニューヨーク在住だった筆者が、日本向けにというのか、日本語の書籍で初めて紹介したのがマーク、シュマーク、スマートの市場分析である。筆者が発明?したものではない。市場分析の古典に過ぎず、プロレスにだけ使われるものでもない。にもかかわらず、マニア層を自認する方たちにとっては、自分たちは必ずしも全部をわかっていた訳ではないと諭されているように受け止めてしまい、「田中はプロレス界にカースト制度を持ち込んだ」などと、根拠もなく非難され、悪役を演じざるを得なくなった。
新しい読者のためにも、また、2017年3月に放送されたテレ朝『プロレス総選挙』への反響から、速報と[ファイトクラブ]用分析を2本の計3記事を発表して、そこでシュマークがどうのと業界用語を使ったこともあり、本稿にてあらためて用語解説を試みる。
マークというのは普通のプロレスファン、ライト層のことであり、文字通り「印」をつけてカモにするという語源に他ならない。サーカス巡業の力自慢披露と、客から対戦相手を募る格闘ショー(最初の客はさくら)から派生したとされるプロレスが、古今東西を問わず、永遠に金ずるとする対象である。他方のスマートとは、スポーツ芸術の仕組みをすべてわかった上で楽しんでいる大人のファンのこと。中間のシュマークは自称マニア層のことで、専門誌紙も読んでます、会場にも行ってますと、熱心な方が多いのだが、本当の意味で全部をわかって楽しんでいるわけではない。 英語ではsmarkと綴るのでスマークにしても良かったが、表記シュマークと日本に初めて紹介したのは確かに筆者である。
当然のことながら、マークが7,8割占めるのであって、他方のスマートは1%と推定されている。よくビジネス界の比較でもでてくるが、日本は中間管理職のレベルは諸外国に比べて圧倒的に優れているものの、米国トップ1%の勤勉さや能力にはとても太刀打ちできないと分析される。マーク、シュマーク、スマートの市場分析は、様々なジャンルにも当てはまることがおわかりだろう。
さて、プロレスは十人十色の趣味の世界でしかなく、例えばファンタジーを楽しみたいという趣向が悪い訳でもなければ、なにかに劣っていることもありえない。むしろ、イチバン偉いのは多数派であるマークである。上客がいなければビジネスは成立しない。業界関係者が常に耳をそばだてるのもマークの意見に違いない。カップルでチケット2枚購入してくれるのも、一般のライト層である。一部のヲタクに振り回されてしまうと、大局を見誤るのは自明であろう。他方スマートの楽しみ方はひねくれているとか、ごく少数の趣向だと言われたとして仕方がない。
問題なのは、プロレス市民権の獲得とか、底辺拡大など、全体のパイを大きくするにはどういう市場構成が理想であるかの議論が、ケーフェイにからむタブーもあってオモテの媒体で議論されてこなかった悲劇である。また、このことが1980年代初頭には、世界で最も稼げる黄金のプロレス・マーケットが日本だったのに、今や北米から10倍どころか、100倍の企業格差をつけられてしまった元凶なのだ。こうなってくると、意識的なファンは無知から脱却しないといけない。好き嫌いではなく、ここの理解が重要なカギであるからだ。