アカデミー賞授賞式を上回るシュート・アングルとは何か？　体制批判ピークのシカゴRAW生中継

　現地時間月曜3月3日、シカゴからのWWE RAW生中継は、なんらかのゲスト？として地元の英雄CMパンクが顔を見せるのではなかとの期待から壮絶なチケット争奪戦が現実に勃発しての完全な超満員札止め。番組の冒頭は、Livin’ Colorの♪Cult of Personalityが鳴り響き、大スクリーンにはパンクの映像。しかし出てきたのはポール・ヘイマンだ。
　もっとも、観客の感情をコントロールするのが#1マネジャーとして認知されているヘイマンの役割である。例のパンク座りのポーズにて敢行した10分に及ぶモノローグは、パンクがなぜ離脱にいたったかの不満を代弁、責任の一端は観客にもあるとするガチ内容の大演説だ。アカデミー賞というのはこういうリアリティーのある演技を讃えるためのものだと、前夜のWOWOW中継と比較された方は少なくないのではなかろうか。閉めは上手いこと話を、代理人を務めるブロック・レスナーvs．アンダーテイカー戦に繋げて丸め込んだ。
　恐らくRAWシナリオ班は、前夜のアカデミー賞授賞式を上回ることを強烈に意識したに違いない。全体としては司会エレンのくだらないピザ・デリバリーのスキットに象徴されるように、第86回アカデミー賞授賞式中継は低調。RAWの方が面白いんじゃないかとという空気が漂っていたのだが・・・
　
　しかし、主演女優賞のケイト・ブランシェット（『ブルージャスミン』）が、ハリウッドのタブーである（養子縁組なので直接の血縁ではないとはいえ、家族として女優ミア・ファローと育てた娘と出来てしまったリアルと映画の境界線が常に曖昧な）ウディ・アレンを讃えるシュート演説を強行。これはWWEで（妻ナンシー殺害後自殺の）クリス・ベンワの名前を出すのと同じことなのだ。
　そんな前夜のお茶の間TV事情を踏まえて、ダニエル・ブライアンとAuthority（ステファニー・マクマン、トリプルH）の鬼気迫るシュート・アングルのずば抜けたマイク合戦の完成度はどうだろう。CMパンク登場を求めてやまないWWEユニバースの大衆感情を手玉にとり、シュートとワークの境界線をさまよう迫真の内部告発劇は、中身のリアルさでアカデミー賞授賞式を上回ったかも知れない。
　真のアカデミー賞主演女優賞なのは、詐欺で騙され大損こいて失脚した兄貴と違い、ビンスの血をもっとも濃く受け継いだ本物の悪魔ステファニーの究極のシュート演説だ。ブライアンというキャラを作り、YES運動でオーバーさせ、ましてその彼が会社から不当な扱いを受けているという演出をもコントロールして操っているのはマクマン・ファミリーなのだと、舞台裏までをもお芝居に昇華してしまう。のちにハリウッドで一流の評価を得た出身者も少なくない脚本班が考えた台詞なのか、リアルなのか判別し難いマイクは、CM入り前の尺までも完璧なデリバリーであった。
　変革はなされるのか？　バティスタは可愛そうにBOOティスタからBOREティスタとまで野次られるWWEユニバースの反乱劇やいかに。
　全世界注目の『レッスルマニア 30』まであと一ヶ月である。

電子書籍版はマット界舞台裏3月13日号人間風車Bロビンソン追悼W1両国TNA英国KTmma木村響子wncに収録されました。

WWEの殿堂には墓堀人の代理人としてなくてはならない存在だった故ポール・ベアラーがあらたに発表されている。画像下はパーシー・プリングルⅢ世名義のリック・ルードのマネージャー役。両者ともに故人となってしまった。Photo by Mike Lano

【背景事情】
　WWEの顔というのは、ジョン・シナであり、ランディ・オートンやバティスタ、そしてCOOのトリプルHであって、身長の低いダニエル・ブライアンやCMパンクは、コーポレイト（会社）が求める表看板ではないという制約の中、ダニエル・ブライアンは社会現象と化している「YES運動」の後押しもあってWWE王座を手にする。しかし、戴冠は10分だけの天下だった、あるいは翌日のRAWでは反故にされるという煮え切らない展開ばかり。そして、同じく体制に不満を持つCMパンクが、この時期に稼げる大金を捨ててまでガチで世界最大のプロレス団体から離脱してしまったのだ。
　今宵のラインアップに関しても、映画『Need for Speed』のアラン・ポールを伴って入場してきたドルフ・ジグラーは逸材であるが、ブライアンらと同じく、トップとしてプッシュされていない。プロレス職人としての才覚、技の切れ味、そして風貌と、彼こそプッシュされるべきだとようやくWWEユニザースも声を高めてきた。このRAW回は、その俳優アラン・ポールに気を取られというハンディ付ながらアルベルト・デル・リオを下している。