「1976年のアントニオ猪木」から「1993年の女子プロレス」「1985年のクラッシュギャルズ」へ~ プロレスの“特異点”(ガチンコ)をノンフィクションする男

 8月26日に行われたトークライブ「Live Wire」に柳澤健氏が登場した。
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左:司会の井田英登、中:柳澤健、右:聞き手の杉江松恋

 

ライオネス飛鳥と長与千種。そして、二人に熱狂した少女の、あのときとそれから。
 当時は語られることがなかった真実の物語が今、ひもとかれる……。

 このようなキャッチコピーがつけられているのは、9月11日に文藝春秋から刊行される新刊「1985年のクラッシュ・ギャルズ」。著者は、スポーツ総合誌「Number」の元デスクで4年前、「1976年のアントニオ猪木」(文藝春秋)でデビューしたノンフィクションライター・柳澤健さんだ。同誌は出版後、格闘技ファンや見識者のあいだで人気が拡大し、猪木のインタビューが大幅加筆されて、「完本 1976年のアントニオ猪木」(文春文庫)となって文庫化。業界に大きな一石を投じた。

 そんな柳澤さんは今年6月、「kamipro」(廃刊)でおこなった女子プロレスラー&OGへのインタビューをまとめた「1993年の女子プロレス」(双葉社)を上梓。そして、9月、「オール読物」(文藝春秋)に寄稿した長与、飛鳥の半生に、85年のクラッシュブームを観客席から見守っていた親衛隊の隊長の証言も加えた傑作ノンフィクションを輩出する。
 「僕はもともとハードファクト、つまり、動かない事実を中心に物事を考えていきたいと思っている人間」という柳澤さん。そんな彼にとって新作は、プロレス3部作の最終章にあたるという。

 猪木という狂ったカリスマ、全日本女子プロレス興業という狂気性のみで構成された組織、長与という孤高の狂人。これらを徹底的に取材した末、柳澤さんが導きだした”結論”はなんだったのか。8月26日、東京・大久保でおこなわれたトークイベントの一部を抜粋しよう。

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●猪木とは
「『1976年のアントニオ猪木』のなかで、アントニオ猪木はどういう人なのか、UWFというものは、アントニオ猪木がつくりだしたファンタジーの延長戦上にいるということを書いたつもりです。僕は、ハードファクトをもとに、かなり整合性の高い推理を積み重ねていきたい人間なんですが、猪木さんは、小さなファクトをもとに幻想を膨らませて、自分を大きく見せたいと思う方。それは、プロレスラーとして、ほんとうにすごいことなんです。幻想をふくらませる能力の高さにおいて、アントニオ猪木は天才だと思っています。猪木さんは、デカイ、金もある、日テレもつけているジャイアント馬場さんに、どうやったら勝てるかということを死ぬほど考えていた。最終的には勝ったと僕は思っているんですけど、ふつうならこうするでしょ? と思うことをひっくり返すようなことをする人が、僕は天才だと思うんですね。だから単純に、日本のプロレスの天才はアントニオ猪木。女子プロレスの天才は長与千種。この2人こそが、日本のプロレスが生みだした大天才だと思っています」

この続きは金曜日発売の『マット界舞台裏』に掲載予定です。

著者略歴
やなぎさわ・たけし
1960年生まれ、東京都出身。83年3月、慶応大学法学部法律学科を卒業。空調機メーカーをへて、84年に文藝春秋に中途入社。編集・執筆も手がけ、文章のうまさと着眼点のユニークさに定評があった。03年7月、退社。アリ戦、ルスカ戦など、猪木が76年に戦った4つの異種格闘技戦から、プロレスとはなにかを描いたノンフィクション「1976年のアントニオ猪木」でデビューするや、大きな評価をえる。「月刊 文藝春秋」に「時代を創った女 松任谷由美」を寄稿するなど、独特のテーマ・選択と筆致でファンは多い。来春、アマチュアレスリングのノンフィクションを岩波書店から出版予定。
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書名:1985年のクラッシュ・ギャルズ
著者:柳澤健
仕様:四六・ハード版
発行予定日:9月11日
予定ページ数:320P
本体価格:1,500円
1993年の女子プロレス 柳澤健さん