誰にも言わなかった新日退団の真実【解説・美城丈二】

b4-250x346.jpg そこにはうたがあった。プロレスラーという、選ばれし者だけが奏でることが出来る“人生哀歌”という詩、うたが。
 私達が、その赤裸々な告白体を目にしたとき、はからずもプロレスラーという、あまりに特殊な職業に従じた者の偽りの無い、正直な独白にこの心が揺り動かせられるのだ。
 つぶさに読了させていただいた。悪役レスラーという、世間の蔑視の目というやいばをかいくぐり辿ってきた、ひとりの男の真実。新日本プロレス入門から36年、それらはここに在る事実として一部始終、明かされることとなる。
 もはや、誰に非がある、といったレベルの世界ではないであろう。敢えて受けて魅せる、という奇特なジャンルをその背に負った者が、辿った数奇な真実。時を超え、いま、“懺悔”という形で彼はその思いを告白したのだ。
 これはもう、暴露だとか、そういった類いの冷笑本としての観念からは確かに逸脱している。
そのことをはっきりと見定めて読み解く時、私達はひとりのプロレスラーの歩んできた“人生哀歌”にこの心が揺り動かせられるのである。
 新日本プロレス誕生、草創期の隠れざる秘話・・・・・・。
“心無い、
一部の関係者及びプロレスファンから、後年、
俺様が新日本プロレスの練習がきつくて
逃げたとか色々言われたけど、
この場を借りて皆に伝えておきたい。
「それは違います!!」”
        (本文一部抜粋)
    
 昭和プロレス者たちにとってあまりに郷愁を起こさせる、カール・ゴッチ、アントニオ猪木、藤波辰爾、グラン浜田、豊登、そして山本小鉄・・・・・・往年の名選手たちへの言及。
 広大なる米国プロレスマーケットを今日は東に明日は西へと“憎っくき日本人悪役レスラー”として股にかけ、遠征して往く。功成し、メインエデンターとして登り詰めた漢の自負が、いま、彼方への回顧となって書き綴らせたのだという、筆者なりの推量。
 もうひとつの新日本プロレス草創期、その真実。のちのあらゆる風聞によっていかに真実は歪められてきたのか? そういう想いに至るとき、一悪役プロレスラーの胸底に潜む積年の恩讐(おんしゅう)が、私達の心根を強く震わせるのである。
 「事実は小説より奇なり」そんな凡庸なセンテンスが、だがここにはしっかりと介在し、偽らざる心根となって横たわってもいよう。 
 『誰にも言わなかった新日退団の真実』そう、そこには“人生哀歌”という詩が確かに存しているのである。