昭和のプロレス・番外コラム1 障害者プロレスを見てきました(前編)

 いつもは昭和のプロレスに関して、まったりと書かせてもらっているのだが、今回は番外として、障害者プロレスについて書かせてもらう。

 正直、障害者プロレスに関して、筆者は偏見があった。障害者がプロレスを通じて社会参加し、自己表現するという事に関しては良い事であるという認識であったのだが、プロレス興行の形態と成りえていないのではないか、そもそもコンテンツとしての“プロレス的試合”が成り立っていないのではないか、という偏見があったのだ。

 だが、友人でもあり、筆者の原作を見事に作画してくれる漫画家の櫛引圭太君の猛烈なアピールによって、今回筆者も重い腰をあげたのである。その結果、筆者の先入観は見事に打ち砕かれた。マサ斎藤風に言うと「ゴーフォーブロック!」であり、ルー大柴風に言うと「寝耳にウオーター」的なショッキングな出来事であった。
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 いい意味で、予想外の出来事であり、その興行としてのレベルの高さに驚かされた。健常者のプロレス団体と比べても遜色なく、幾つかのインディー団体はドッグレッグスに負けているのではないか思われた。確かに、ドッグレッグスのリングには“戦い”があった。

 いや、人生の“闘い“があった。だから、観戦記ではなく、コラムとして書かせてもらっているのだ。
 さて、会場は新宿face、西口プロレスや大阪プロレスのおかげで浸透はしているものの、会場自体は300-400人が限界である。果たして、どれぐらいこの会場が埋まるのであろうか。だが、それは杞憂であった事がわかった。その客席は瞬く間に埋まり、立ち見客さえ出る始末。

 唖然としていると、櫛引君がドッグレッグスの階級について説明してくれた。障害者プロレスは体重ではなく、障害の重さによって階級が変わるのだという。ヘビー級は、立って闘うことのできる選手で、スーパーヘビー級は、座位または膝立ちで闘う選手だという。
 ミラクルヘビー級は、スーパーヘビー級よりも更に障害の状態が重い選手が競う階級で、無差別級に至っては、障害者・健常者関係なく膝立ちで闘う階級であるらしい。

 さて第0試合が始まった。須藤弘文選手とゴッドファーザー選手との対決だ。試合スタイルは膝立ちの状態で行われる。因みにゴッドファーザー選手の息子は、みちのくプロレスでデビューした藤田選手である。息子さんのデビューまでの足跡はテレビのドキュメントで拝見していたので大変興味深く観戦できた。
 試合はゴッドファーザー選手の藤原嘉明を彷彿させる渋い試合運びから、乱打戦になだれ込み、そのままゴッドファーザー選手のTKO勝ち。それにしても、ゴッドファーザー選手の喧嘩強さ、タフさが目立った試合であった。

 いよいよ第一試合が始まった。遠呂智選手、愛人(らまん)選手、ET選手の3人が戦うのだ。3人とも重度の障害があるので、車椅子や介助人に抱えられる形で入場してくる。遠呂智選手は妖怪、愛人(らまん)選手は女装好き、ET選手は宇宙人。日常が非日常に変わる異次元対決に頭がくらくらしてきたが、筆者・山口敏太郎の不思議ワールドに相応しい面々であり、そういう意味で取材意欲が沸いた。

 なお、遠呂智選手は妖怪マニアであり、山口敏太郎のファンだと櫛引くんから聞いていたので、ついつい遠呂智選手に肩入れしてしまうのだが、結果的に遠呂智選手が圧勝した。ほとんど動けない愛人(らまん)選手、ET選手を、すばやい動きで制圧した遠呂智選手、もの凄い身体能力である。

 ほとんど動かない手足を使って必死に戦う彼らの中に、間違いなく“生きるプロレス”がそこにあったのだ。
                                         山口敏太郎
山口敏太郎事務所ライブラリー